【ウーロン茶を飲んだら、幼児退行してしまった幼馴染が可愛い過ぎる】
――放課後。
多くの学生にとって放課後の時間はある意味貴重だと言えよう。
かくゆう俺も放課後の時間はとても重宝しているし、平日の憂鬱な時間の終わりと言う意味でも楽しみにしてたりする。
人によって学生の本業とも言える勉強に精を出す為の時間にあてる人もいるかと思う。だけど多くの学生は部活動や友人との交流、中には好きな人との時間にあてる人が大半なのではないだろうか。
俺は部活動には目もくれない、そもそも入るつもりがない。正直縦社会という名の先輩後輩関係が面倒くさいからだ。社会人になるまでは必要最低限の交友関係だけでいいと俺は思っている。では放課後なにをするかというわけだが、俺は早苗――幼馴染との時間を基本的に大切にしたいと思っている。
三年振りの再開。
それは唐突にやってきた。何の前触れもなくただ突然と。
俺の中の初恋と言うマグマが活動をもうじき終わるであろうタイミングを見計らったようにして早苗は俺の前に姿を見せた。
例えば、皆さんは富士山と言う山をご存知だろうか。
富士山の頂上は雪で覆われ遠くから見るととても綺麗だが、あの山、実は火山なのだ。更には火山活動を止めておらず何かの前触れでいつ噴火してもおかしくないし仮に噴火でもされた日には規模にもよるが日本の一部が麻痺するような恐ろしい火山だと知っていただろうか。つまり初恋も同じく、完全に想いが消え活動を停止してくれない限り火山と同じでいつ活動が活発になるかがわからないと言うことだ。
突然姿を見せた幼馴染は再会だけでは物足りないのか同居すると言ってきた。
それも外堀を固めてだ。
驚く俺に対して、早苗はずっと楽しみにしていたよ、と言いたげに俺の隣の部屋に住み始めた。
別にそれだけなら俺もすぐに順応出来たと思う。
だがあろうことか早苗は夜な夜な寂しいと言って俺の部屋で何かと理由を付けて母さんに内緒で二人で寝ようと言ってくるのだ。初恋の女の子それもまだ好きな女の子からそんな事を言われたら、ドキドキせずにはいられないし、なにより自分の想いに嘘がつけなくなってしまう。
お互いにまだ好きだと薄々気づいているくせに告白は向こうからと願っている為にちゃんとした恋人になれない恋人以上夫婦未満の幼馴染が俺達である。
俺と早苗は二人で帰宅した。
学校にもようやく慣れてきたと言う事もあり、学校生活も順調と言えた。
渡辺ともあれからよく話すようになったし、早苗は早苗でクラスの皆から人気者で更に交友関係を広げていた。
学校の中だとそんな早苗が眩しくて少し寂しい思いになるのだが、なんだかんだ家では一緒にいられるし、困った事があれば相談すればすぐに助けてくれる。
授業中に消しゴムをなくした時は、それに気が付いた早苗が予備の消しゴムを筆箱から出して貸してくれたりと学校でも俺達の関係は良好だと言えた。
「なら私喉渇いたからなんか適当に飲んでから部屋に行くね」
「あぁ、俺はそのまま部屋に行く」
玄関で別れ、俺はそのまま荷物を持ち部屋に戻り、部屋着に着替えてベッドの上にダイブした。
あ~なんてフカフカで気持ちいいんだ。
やっぱり布団の上は最高だーと思っていると扉が開いた。
「寂しい……かまって!」
早苗が俺の部屋にやってきたかと思えばいきなりそんな事を言いだしたもんだから俺はわけがわからなかった。
寂しい?
さっきまでずっと一緒だったではないか。
「…………はい?」
「三年間私……会えなくて寂しかったの! だからその埋め合わせを今日してって意味! 恥ずかしいから言わせないで! バカ達也ぁ!」
何か様子が可笑しい。
これは俺に大好きって言わせたいがための罠なのか?
よく見れば早苗の目がうっとりしているし、顔が赤い。
それに少しフラフラしているようにも見えなくもない。
試しに手招きして早苗をベッドの端まで呼んでから座らせる。
手をオデコにあてると早苗がニコッと笑顔になったが熱い。
どうやら熱があるようだ。
きっと日頃の疲れが溜まっていたのだろうと思ったが、ここで一つ疑問が残る。
それはさっきまで元気だった早苗がリビングから部屋に来るまでの間に熱がドンピシャで発症するのかという疑問。
まぁ確率上はゼロに近いがゼロではない。
仕方ない。
ゆっくりしたかったけど看病してやるか。
とりあえず心配なので布団の上に寝かせて風邪薬を取りに行くため部屋を出ようとすると、腕を掴まれて止められた。
「やぁだぁ! ここにいて?」
「熱あるんだろ? とりあえず薬を――」
「ない!」
身体が火照っている事に気が付いていないのか。
自覚症状がないとなると。
これは厄介だな……。
「身体怠かったりしない?」
「しない。それより私甘えたい!」
熱が出ると幼児退行するのか、早苗って。
まぁこれはこれで可愛いから許すが、具体的にどうしようかなと考えていると、起き上がると同時に抱き着いてきた。
「うわぁ!?」
「えへへ~、好きだよ~」
いやいや絶対可笑しいだろ、コレ。
とりにかくまずは早苗に何があったのかを確認しよう。
その為にはまず一人にならなくてはならない。
この場面で自然な形で一人になるためには……。
――――。
考えた結果、心苦しいが嘘をつくことにした。
「す、すまん。実はトイレに行きたくて……だから、そのなんだ……ちょっとだけ離れてくれないか」
「…………いや」
「頼む、もう我慢の限界なんだ」
「そうなの?」
「あぁ、漏れそうなんだ」
「ならここで漏らしたらいいじゃん?」
「漏らせるか!」
俺は逃げるようにして部屋を出て階段を下りた。
念の為に後ろを振り返ったが部屋にいてくれるようだ。
ホッ
だが長い時間放置すると何が起こるかわからない以上、推理は短時間で終わらせなければ。
リビングと台所を一通り捜索したが特に変わった所はない。
やっぱり本当にあの一瞬で熱が出たと言うのだろうか。
それにしてはなんか不自然なんだよな。熱の割には元気がいいと言うか。
実は俺またからかわれているだけなのか?
でもそれだとあの身体の火照りが気になる。
リビングを一通り確認した所で母親が来た。
「ところでここにあったお酒知らない? 確か氷も入れておいたんだけど?」
……氷?
テーブルにはボトルのウォッカとウイスキーがある。
「母さん?」
「うんっ?」
「もしかしてウォッカとウイスキー混ぜた奴?」
母親はよくウォッカ8:ウイスキー2で割って飲んでいる。
俺は一度も飲んだことがないが、とても美味しくて心の癒しとして重宝しているらしい。
色はウーロン茶によく似ている事から、小さい頃から自分がコップに入れたお茶以外のお茶を飲むときは家では匂いを念の為に嗅げと小さい頃躾けられている。
これは俺が間違って母さんが飲んでいるお酒を飲まないようにだ。
夕飯の時などはその心配がないのだが、母親のリラックスタイム中にはしておかなければ後から「これ、お酒!」とマジでなりかねないのだ。
「そうそう、私がいつも飲んでるやつ。おしっこ行きたくなったからちょっと離れて戻ってきたらなくなってたのよ。まぁ私も飲んでるから知らず知らずのうちに何かしてたかもだけどさ……」
――わかったぞ、この事件の犯人(原因)!!!
犯人(原因)はウーロン茶!!! お前だ!!!
おっと、いけない。今は名探偵を気取っている暇は一秒もないんだった。
「ごめん。俺は知らないけどコップなら氷が残った奴が一つ洗面所の中にあったよ」
「本当? ごめんね~母さん飲み干してたみたい、あははは~」
「あはは~」
俺は光の速さでリビングを駆け抜けて、過去最速で階段を登り自室に戻り、すぐに部屋の鍵をかけた。
さて、どうしたものか。
まるで飼い主の帰りを待っていた子犬のように目をキラキラさせた早苗を見て、普段からこれだけ素直だったらもっと可愛いのになーと心の中で思った。
「あっ、戻って来た!」
「それで俺になんかして欲しいことでもあるのか?」
「う~んとね」
ベッドの上で女の子座りをした早苗は人差し指を唇にあてて小首を傾けながら考え始める。
部屋の鍵はかけてあるし、そのまま部屋を出て、家を出ると言った事はないだろうと思い俺はベッドの端に行き腰を下ろす。
「あっ、いいこと思いついた」
「なに?」
「ゲームしよ?」
「ゲーム?」
なんだろう、とても嫌な予感がする。
だけどそんなに目をキラキラさせて、子供のように服の裾を掴まれたら、断るに断れない。
「うん。ゲーム。とりあえず神経衰弱でいいや!」
なんだろう。
超がつく程、今決めました感は。
まぁいいや。
身体は16歳でも心は小学生まで戻ったと言う事だろう。
今度からお酒を間違って飲まないように我が家の仕来りをちゃんと教えれば今回限りになる。そう思えば早苗がこのまま外で何かをしたいと言って外出することに比べればお安い御用だ。
「でもただの神経衰弱じゃないよ。お互いにやってカードを揃えた組が多い方がそのターンの終わりに相手に質問できるってルールね!」
「わかった。そもそもトランプ……持ってるのか……」
制服のスカートのポケットから早苗がトランプを出す。
恐らくこの部屋に来る前に自室に鞄を置くと同時に忍ばせていたんだろう。
「うん。用意いいでしょ、私!」
「そうだな」
早苗はそう言ってベッドの上にカードを並べていく。
ただし最初から最後までとなるとかなり時間がかかりそうなので今回はジョーカーを除いた合計52枚ですることとお互いの質問が合わせて10回になった時点で終わりになることが決定した。
最大10回相手に質問するチャンスがある。普段なら記憶力が悪い俺が圧倒的に不利なわけだが今日は違う。頭が良く記憶力がいいとは言え相手は酔っていて、思考力が全体的に低下している。今回に限っては俺の方が有利だと言えよう。
「ちなみに達也はエッチな質問もなしね」
「聞かないから安心しろ」
「むぅ~、いじわるぅ!」
頬膨らませてそれは失礼だと言いたげな早苗。
だがこちらとしても正気に戻った時に色々と思い出して、後からギャーギャー言われても面倒なのでそう言ったのは今回に限ってはなしだ。
「酒の勢いとは言え変なことばっかり言ってると後で後悔するぞ?」
「別にいいも~ん! ってか何で私が酔ってるってわかったの?」
「さっきリビングに行った時、お酒があったから」
「なるほどね。流石は名探偵もどきだね」
「うるさい」
「ちなみに今ならお酒入って気分が高揚してるから抵抗しないよ?」
ぶっーーー!?
うおおおおおおおおおおい!!
いきなり話しがぶっ飛んでるぞ、早苗さーん!!
なんでいきなりスカートめくってるの!?
酒のせいで加減間違えて本当に黒のレースが入った下着がちょっと見えてますよ!!!
「あっ、顔赤くなった。ゲームやめてこっちにする?」
「………………」
「ホント、顔だけは……あわわわわ…………////」
どうやら俺の視線が何を見ているか気が付いたらしく、早苗が慌ててスカートで見えていた下着を隠す。
酔っていても羞恥心はどうやらあるらしくてんやわんやしだした。
並べていたトランプを上から押しつぶし払いのけてこちらにやってくる。
「今見えてたよね?」
「うん」
「本当に? だったら特徴は」
どうやら早苗は必死に事実確認を始めたが、ここで嘘をついて後からバレても面倒なので正直に答える事にする。
「……うん。黒のレースが入ったやつだった」
「……エッチ! 今すぐ忘れて、ばかぁ、ばかぁ、ばかぁ」
俺の胸に顔を隠すようにして両手で拳を作ってポコポコと叩いてくる。
ダメだ。
いつもと違い過ぎてどう対応していいのかが全くわからない。
小学生の時とも違う。
なんか早苗基準で今と小学生の時のいいとこどりをしたみたいになっている。
「ちなみにゲームは?」
「しない、しない、しない。やっぱり今日は素直に甘えるの!」
「わかったから、そんなにムキになるなよ。それと俺を叩くな」
「わかった……ならゲームでね……聞こうと思った事聞いてもいい?」
「別にいいけど」
叩くのを止めた早苗は身体の向きをくるんと反転させて俺にもたれかかれるようにして背中を預けてきた。
早苗の頭がちょうど顎の下にあって、シャンプーの少し甘いフルーツの香りがした。
よく見ると髪の毛もサラサラでやっぱり女の子なんだなって思った。
「ならおててちょうだい」
「はい」
俺が身体の両サイドから手を差し出すと肩に担ぐようにして俺の腕をクロスさせた。
そして胸の中心部に腕を収納して手を握ってきた。
おおー女の子柔らかい胸の感覚がダイレクトで俺の両腕に伝わる。
いいじゃないか。このシチュエーションも。
嬉しさのあまり身体がピクッと反応してしまったが、どうやら気付かれていない様子だ。
危ない、危ない。
「私初めてかも」
「なにが?」
「こうして達也に後ろからぎゅってしてもらえたの」
「言われてみればそうだな」
「これはこれで落ち着くから幸せ」
甘えた声で頬っぺたをあげた。
本当の早苗っていつもの意地悪がなくなるとここまで素直なんだな。
あーマジでこれはこれで新鮮。
ここまで素直で可愛い早苗ってなんか夢みたいだ。
「今日さ、学校でね昼休み、渡辺君とお話ししてたじゃん」
「うん。ってもしょうもない話しだけどな」
「その時に甘える女の子が好きって言ってたけど本当なの?」
なんだ聞いていたのか。
でもまぁ早苗も女子グループで話してたけど、席が隣だから別に聞こえていても不思議ではないか。それに渡辺ちょっと声大きかったし。
「理想はな」
「ちなみに達也の理想の彼女ってどんな人?」
「そうだな~」
俺は少し真剣に考えて見た。
口が滑っても早苗とは言いたくない。
もしそんな事を言えば、俺が恥ずかしくて死んでしまう。
かと言って嘘をついて、脈なしかと思われても困る。
う~ん、どうしたものかな。
「……………………」
俺は少し考える間を取る。
「……本音で言っていいの?」
「……………………」
早苗も少し考える間を取った。
「……いいよ」
「ちょっと意地悪で甘えん坊の女の子が理想かな。後は積極的で……少し……えっちな女の子が好きです」
「やっぱり男の子って本音はそうゆうことしか考えていないんだ……」
早苗の表情が一瞬曇った。
男子高校生の多くの本音って大小はあれど、健全な男子は少ないと思う。
「……他には?」
「他には……たまに俺にも自然な形で甘えさせてくれる子とかかな」
「なら素直な女の子は?」
「まぁ嫌いではない。むしろたまに俺の前だけで見せてくれるとかならやっぱり男として嬉しいかな。俺だけの秘密って感じがして」
「ふ~ん」
聞いておきながら早苗は興味なさげ声で答えた。
それとも俺の答えが求めていた答えと違うのか?
「今日の私といつもの私どっちが好き?」
どっちか。
それは考えていなかった。
でもただ引っ付いているだけなのに、早苗が呼吸をするたびに胸部が動くんだけど、その度に柔らかい刺激が腕にダイレクトに伝わるんだよ。それだけじゃなくてちょっとさりげなく手を数センチ動かすとその胸に手が触れると言うね。
これはこれで正直大有りだけど。
「どっちかで言うならいつもの早苗の方が好きかな」
「なんで?」
「そうだな、いつもの早苗の方が生き生きしている感じがするし、そっちの方が惹かれやすいからかな~」
「……私のこと、ちゃんと見てるんだ」
「まぁな」
すると早苗がふらふらしたので慌てて両肩を支える。
どうやらアルコールが全身に回りはじめたらしい。
頭がさっきから眠たい人みたいになって安定していない。
とりあえず俺は早苗の身体を支えながらベッドに寝かせた。
「ありがとう」
「おう」
「もう一つ質問いい?」
ベッドの上で横になった早苗が俺の手を握ってきた。
本当に今日の早苗は甘えん坊さんだな。
俺はそっとその手を握り返した。
「うん」
「今ね意識が朦朧としててね、忘れちゃうと思うんだけどね……達也は好きな人には告白するとしたらどんなときか教えて」
普段なら絶対に答えたくない質問ではある。
それを答えると弱みとして握られるからだ。
俺の秘匿情報でも最高クラスのこの情報は言いたくないが、子供みたいにウルウルとした純粋な瞳には勝てなかった。
俺は一度大きく深呼吸をして答える。
「早苗と初めて夜を共にした日みたいにもう色々と我慢できないって思った時かな」
本人も今起きているのがやっとぐらいなのだから、酔いが醒めるころにはきっと覚えていないだろう。
「そっかぁ」
「ちなみに早苗は?」
「恥ずかしいから教えない」
「意地悪なんだな」
「別にそうじゃないけど。そんなに知りたいの?」
俺は首を上から下に動かして頷く。
酔っているとは言え、これはチャンスだ。
俺だけが早苗の弱みを握る。
それから運よくその展開に持ち込めれば、俺が後から早苗に告白されると言うハッピーエンドで全てが丸く収まるのだ。
悪く思わないでくれ、早苗。
前に俺に言った言葉を覚えているか?
――恋は駆け引き。って言葉。
つまりは勝負なのだよ、早苗くん。だから今日は許してくれ。
そう言ったことから多少痛手を負ってでもここは聞きたいところである。
「そりゃ、まぁな……ずっと側にいるし……少しは興味あるっていうか」
「いいよ、教えてあげる。でもその前にもう一つ質問いい?」
「……うん」
「今一番大好きに近い人は誰で、100点満点を大好きとしたらその人は今何点なのかを?」
瞳が重たいのか、瞼を閉じては開けてを繰り返す早苗。
本当は今すぐにでも寝たいのだろう。
この状態では最早会話を覚えておく事は不可能に近いだろう。
だって脳がそもそも限界に来ているのだから。
「早苗だよ。90点ってところかな」
どうせ忘れるならと本音で100点と言っても良かったがそれは恥ずかしいので止めた。
「私なんだ、よかった……。私はね……好きな人に死んじゃうかもって思ってしまうぐらいにドキドキさせられたら多分勢いに任せちゃうと思う。そのまま大好きです、付き合ってくださいって言っちゃうよ、たぶんね。でも私も女の子だからできれば男の人にそうゆう事は言って欲しいかな」
「そっかぁ」
「うん。もう限界みたい……少し寝るからそのまま手握っててね」
「わかった」
「ありが…………ぅ」
とうとう我慢の限界に来た早苗は静かに目を閉じた。
とりあえず聞きたい事は聞けた。
結局最後は俺からアプローチをしろと言われただけではないか。
俺は早苗の温もりを手で感じながら、何かいい方法はないかなと模索してみる。
わかってはいたけどこれは中々手ごわいな。
そう言えば俺って早苗から見たら今どれくらいのポジションにいるんだ?
しまった……さっき聞いて置けばよかったな。
今から起こして聞くのは流石に可哀想だし……これはしばらくどうすれば早苗をドキドキさせられるかを考える方向で行くべきか。
どうせ早苗は全部忘れているんだ。
今すぐ慌てなくても時間はまだあるからな。
『たつやー! ごめーん。ちょっと荷物動かすから手伝ってくれないー?』
おっ、まさかの母親に呼ばれてしまったか。
「ごめんな、早苗。ちょっと行ってくる」
俺は幸せそうに「ふみゅふみゅ~えへへへ~」と言っている早苗に一言言って、そっと手を離して部屋を出た。
母親から呼ばれた件は何とも言い難いものだった。
通販で買った大量のお酒が宅配便で送られて来たので玄関からそれを母親の部屋まで運んで欲しいというただの力作業だったのだ。
全くもって無駄に疲れたと思いながら玄関から指定された部屋まで運び終えた俺はそのまま晩御飯の下準備をついでにさせられた。
自室へと戻ると早苗が目を覚ましていた。
「どうしたんだ、そんなにニヤニヤして。いい夢でも見たのか」
俺はベッドの近くに腰の隅に腰を下ろして上半身を起き上がらせた早苗に声をかける。
「まぁいいや。いつもの早苗に戻ったなら」
仮眠をとったおかげか顔色もよくなりいつも通りの早苗だった。
「うん? なんのこと?」
そーだった。
意識が朦朧として酔っていた記憶が残っているわけがなかった。
「いんや、べつに。それより頭とか痛くないか?」
「うん。別に熱があるわけでもないから普通かな」
「そっかぁ。なら自分の部屋に戻ってゆっくりでもしてろ。さっきまでお酒飲んだせいか早苗酔ってたんだぞ」
「そうなの?」
「うん」
「あらま……」
早苗はベッドから出ると、大きく背伸びをして部屋の窓を開ける。
「ところで達也一つ聞いていい?」
「別にいいけど」
「なんで私ここで寝てたの?」
俺の横に来てそのまま早苗が座ってきた。
どうやら本当になにも覚えていないらしい。
「母さんのお酒をウーロン茶と思って飲んだ早苗が酔って俺の部屋に来てそのまま寝たからかな」
「うわ~めっちゃ簡潔に言うね。もう少し具体的には」
「そうだな~。寝る前にちょっとお話ししたのと早苗が俺に甘えてきたかな」
「その時私のおっぱいさり気なく触ったよね? その時の感想は?」
「そりゃ、柔らかくてやっぱり何回触っても――あれ」
俺の脳内思考ブレーカーがバチッと落ちた。
あれ? どうなっているんだ。
なんで俺は余計な事を言ってるんだ。
「へぇ~。やっぱりあれはさり気なく触ってたんだね」
早苗のニヤリと不敵に笑ってきた。
「私一回も酔ってるって認めたっけ? 名探偵もどき君。ちなみに間違ったとはいえ一杯飲んだ程度で私酔わないよ」
顔をグイッと近づけてくる早苗。
「積極的な女の子が好きなんだって? 私の事が一番好きなんだってね? ありがとう」
あれ……ならもしかして。
ヤバイ…………。
「やっと騙されたことに気が付いたんだ。私は好きな人にはとことん意地悪だし甘えん坊だよって銭湯の時言ったよね?」
「…………はい」
そして数秒後。
ようやく俺の頭が全てを正しく理解した。
俺は勝手に勘違いしていたと。
「ええええええぇぇぇぇぇぇ!?」
早苗が悪い顔をする。
「でもまぁ、私も達也も今一番好きな人が目の前にいるってわかったから、これ情報量とお詫びね」
――ん!!!
三年ぶりにずっと心の底で求めていた懐かしい感触。
とても柔らかくて、肌触りがよく、なにより相手の温もりを感じられる。
「どう? 私との三年振りのキスは?」
「…………嬉しかったです」
「そっかぁ。私頑張るからさ、もし100点になったら達也から告白してよね。なら夜ご飯の時にまた会おうね。ばいばい~」
手を振りながら部屋の扉へと歩いて行く早苗。
それから部屋を出る前に一度振り返って
「ちなみに甘えん坊の私は恥ずかしいので達也にしか見せないよ。あと告白させるかするかも恋愛の駆け引きの一つだよ、名探偵もどきの達也殿」
早苗は勝ち誇った表情で宣言すると部屋を出て行った。
くそ~また俺は早苗にいいようにしてやられたのか……。
でもまぁいい。これで確定した。
俺達は両思いだと。
後は早苗の方から告白してもらえれば完璧だと理解した。
ただ相手を好きになり過ぎるとさ恥ずかし過ぎて告白なんて逆にできなくなるんだよ。
後先まで考えちゃうと死ぬほど恥ずかしくて恐くなる臆病な俺がいるからさ。
なにより今の関係がかなり心地良すぎて、恋人になることでこれが変にお互いにギクシャクして壊れてしまうんじゃないかと言う不安がかなり大きんだよな。
幼馴染なら終わりがないが恋人には終わりがあることもあるから。
幼馴染は同居がしたいし関係を深めたい~お互いに欲しいのは恋の主導権~ 光影 @Mitukage
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