幼馴染は同居がしたいし関係を深めたい~お互いに欲しいのは恋の主導権~
光影
【三年ぶりに再会した幼馴染は僕の初恋相手でやっぱり今もドキドキしてしまう】
「あっ、言い忘れてたけど今日から早苗ちゃんうちに住むから!」
リビングから聞こえてきた声。
それは玄関の扉を開けて、廊下を歩き二階に上がろうとしていた俺に向けられた声だった。
――えぇぇぇぇぇ、嘘だろぉぉぉぉ!?
サプライズ? 嫌がらせ? リアル騙された大賞? あぁーなんて言っていいかわかならない感情が俺の中に沢山生まれた。
早苗――本名、霧島早苗で幼馴染の女の子。
「ん? ちょっと待てぇいぃぃぃーーーーー!!!」
俺はリビングに向かって猛ダッシュしながら叫んだ。
なにその軽い感じ。
そもそも道端に捨てられていた子猫を拾ってきたぐらいの感覚で平然と言うのは絶対に可笑しいと思う。
だって相手は猫じゃなくて人間。
全く持って意味がわからない。
「あら? 息切らしてどうしたの?」
拾ってきた女の子を正面にしてリビングにあるテーブルを挟み座る母親は珈琲が入った白いマグカップを片手に持ちながら言った。
それから小首を傾げて何事もなかったかのように珈琲を飲み始めた。
ズズズッ
うん。美味しそうだ! とか思っている場合ではない。
視線を女の子に向けると母親と同じく白いマグカップを手に持ち珈琲を飲み始めた。俺と母親が住んでいる家でありながら「美味しいー」と言いながら、幸せそうに珈琲を味わって飲んでいる。適応能力が高すぎるだろ、おい。
「達也も珈琲飲む?」
母親は相変わらずマイペースに珈琲を飲みながら言った。
「飲まない! てかなんで早苗がここにいるの、母さん!」
「だから言ったじゃない。今日から一緒に住むって」
「なんで!?」
「早苗ちゃんのご両親が仕事の関係で海外に行くからよ。流石に年頃の女子高生を一人には出来ないでしょう?」
「……えっ?」
戸惑う俺の考えを先読みしたのか母親がニヤリと微笑んで席を立ちあがった。
そのまま空になったマグカップを洗面台の中へと置く。
「別にいいでしょ。早苗ちゃんとは小さい頃仲良しだったんだし、早苗ちゃんのご両親も早苗ちゃんを一人には出来ないって言ってたのよ。だから私が面倒見てあげる事にしたのよ。だからこれからはこれまで以上に仲良くしなさい。いいわね、二人共」
「…………」
「はい。ありがとうございます、綾香さん!」
「は~い。欲しい物とかあったら今度からすぐに言いなさいね。達也って素直じゃないから最初はギクシャクするかもだけど同じ家に最低一年以上は住むんだからこれから改めてよろしくね。それと達也とも上手くお願いね、早苗ちゃん」
「はい。ご迷惑をおかけするとは思いますが、こちらこそよろしくお願いします」
俺を置いて話しがどんどん進んでいく。
抗議しようと思った瞬間、母親から無言の圧を感じてしまった。
――文句ないわよね?
俺はその圧を正しく理解し、コクりと頷く。
「とりあえず私今からお風呂に入るから、後は二人仲良くしなさい。部屋は二階にある空き部屋を好きに使っていいわ」
そう言い残して母親が洗面所に向かって歩いて行った。
リビングには俺と早苗だけが残り、気まずい雰囲気になってしまった。
これから同居。
それも幼馴染。
一体何がどうなるんだ。
そう思っていると、早苗が俺の手を掴んで言う。
「三年ぶりだね。中学校で離れ離れになってもう会えないと思ってた。でもこうして再会できて私は嬉しいよ」
「そうだな……もうあれから三年経ったのか」
「うん。また小学生の時みたいにお姉ちゃんがお世話してあげる」
「……しなくていい」
「遠慮しないでいいのに。相変わらず素直じゃないんだね」
「う、うるさい!」
「顔赤いよ、照れてるんだ?」
「……ち、ちがう!」
「まぁいいや。なら達也の部屋に行こっか」
何故か俺の家のはずなのに俺が早苗に自室へと案内される形で移動する。
俺と早苗が小学生の時に仲良しだったのは事実。
だけど思春期が来た俺は早苗を女として意識してしまい、それから恥ずかしい気持ちが邪魔して素直になれない時期でもあった。
それでも早苗は俺に対して優しくしてくれた。
だけど中学校の入学式の前に母親の仕事の都合で俺は幼馴染の早苗と離れ離れになってしまったのだ。それから定期的に来る早苗からの連絡を無視して約一年、まさかこのような形で再会するとは夢にも思わなかった。
無視していた理由――それは受験勉強もあったが恋もある。
この想いがバレたくないと言う若気の至りからくるしょうもないプライドだ。
三年ぶりに再会した幼馴染――早苗はとても綺麗な女の子に成長していた。容姿も整っていて綺麗だし服の上からでもわかる膨らみが胸の大きさを表している。何より女性としての魅力が全体的に最後見た時より高くなっている。
俺の部屋なのになぜか部屋に入ると同時に俺を置き去りにしてベッドの上でくつろぎ始めた早苗。そんな早苗を見て俺は過去の事を思い出した。
あれは小学6年生の夏休みだった。
初めて早苗を異性として認識してしまった日でもある。
俺が生まれた時から家がお隣同士で同い年の子供がいると言う事で仲良くなった両親。そんな両親に巻き込まれる形で俺と早苗はよく小さい頃から学校だけでなくプライベートでも会っていた。
小学生と言えば思春期が訪れ性に対して興味を持ち始めたり気にし始める年頃でもある。育った環境なども影響してくるのか俺は周りの子達よりもそう言った感情が芽生えるのが遅かった。
その為、男だから女だから仲良くする、しない、と言った事も殆どなかったし、当時の俺はずっと今まで通り生きて行くのだと思っていた。
だけどある日。
俺は多くの小学生が一番嫌とする夏休みの宿題をたんまりと溜め込んでしまった事に気が付いた。自慢ではないが全くしていない状況で夏休み後4日と言う記録を作ってしまったのだ。
先に言っておくと、これが俺の初恋の原点だ。
俺は最後の希望を託して藁にも縋る思いで夏休みの宿題を全部持って早苗の家に朝から訪問した。早苗の両親とも俺は面識があり、事情を話すと大笑いされた。だけど向こうも鬼ではなく、俺の事をよく可愛がってくれていたのですぐに早苗の部屋に案内してくれた。
母親が扉をノックして「入るわよー」と声を掛けると、早苗も母親だと認識したのかすぐに「いいよー」と返事をした。そのまま部屋の扉の前で「またね。宿題頑張るんだよ」と応援の言葉を残してリビングに戻っていく。俺は一度頭を下げてお礼を言ってから部屋のドアノブを握り開ける。
すると着替え中の早苗が視界に入って来た。
緑と白のラインのブラジャー姿で首を通した鼠色のパーカーを来ている途中。
下は紺色のミニスカートで素足。
その光景を見た時、俺の中の男の部分――性がついに目覚めてしまった。
初めてみる女の子の生の身体。
当然隠すべき場所は隠れているものの、いざ実際に見てしまうと刺激が強い。
慌てて目を逸らすが、遅かった。
脳が一瞬見た決定的な瞬間をしっかりと脳裏に焼き付けてしまったのだ。
パーカーを着終わると頬を赤く染めて「えっちだね」と照れながら言われたもんだからもうどう反応していいかがわからない。
こんなハニートラップに引っかかてしまう男も世の中には当然いる。
それが俺だ。
この瞬間、俺は霧島早苗を女――異性だと認識した。
「下心なかったんでしょ? だったらいいよ、許してあげる」
早苗は顔を赤くして困った俺に対して優しい言葉を投げかけてくれる。
当然早苗の顔も真っ赤だった。
それから部屋の前で戸惑う俺の手首を掴んで中に入れてくれた。
部屋にあがる事ができた俺は事情を早苗に話す。
すると笑顔で答えてくれた。
「いいよ。最近会えなくて会いたいなって思ってたから」
こうして、俺の宿題は夏休みの4日間を使い無事に終わった。
「待って!」
夏休み最終日の夕方、俺が早苗の部屋を出ようとしたときの出来事だった。
「お礼して欲しい!」
「お礼?」
「うん。お礼! そうだ。私がお勉強教えたのと着替えを除いたお詫びとして頬っぺたでいいからチューしてよ」
身体の正面で両手をモジモジさせながら早苗が言った一言。
あぁ、ホントバカだよ。
そんな言葉無視すればいいのにさ。
なんでその場の勢いで頬っぺたにキスなんてしたんだよ。
この瞬間、俺と早苗の対等な関係が崩れたのだ。
「本当にしてくれた。もしかして私の事好きなの?」
「……うん」
「ならいっぱい今度から頼ってくれていいよ。その変わり今度からもそのお礼はしっかりと貰うからね。それと私だけドキドキするのはズルいからこれは仕返しだよ」
そう言って早苗は俺の唇に柔らかい唇を押し付けてきた。
それも両手で俺の顔を固定して逃げられないようにして五秒程、しっかりと。
こんなことを異性からされたら小学6年生で初心な俺はもう早苗の事を大好きになってしまうわけで。
その日から俺の片想いの人生は始まってしまったのだ。
この時点で俺はもう早苗にベタ惚れなわけで。
でもこの想いを素直に認められないのがまた思春期男子小学生の性(さが)でもある。
夏休みが終わった俺はその日から今まで一人で歩いていた通学路を二人で歩くようになった。晴れの日も雨の日も、そして雪の日も二人で歩いた。事の始まりはお互いにファーストキスと呼ばれる行為を行った日に早苗が最後に言った一言。
「明日からは一緒に学校行こうね。約束だよ。朝8時に私の家の前集合!」
俺が早苗を初恋の相手として意識してからなのか早苗が積極的になった気がした。
だけどわかっている。
これは勘違いなんだと、何度も自分に言い聞かせる俺。
そんな俺に早苗が追い打ちをかける。
「知ってる?」
「なにを?」
「恋は大好きになった方が負けなんだよ?」
ニヤニヤと微笑みながら小悪魔のような笑みを浮かべる早苗を見た俺はすぐに口で言い返す。
本当はさ、ここでそれでも好きとか一言言えば進展したかもしれないのにさ。
早苗にからかわれるのが恥ずかしいと思った俺は精一杯の嘘をこの日ついてしまった。それが俺と早苗のギクシャクした関係、そしてお互いに素直に中々なれない関係になっていくとは知らずにさ。
「確かに俺は早苗の事が好きだけど、それはあくまで人として。異性としてじゃない」
この時の早苗傷ついていたんだろうな。
だって綺麗な瞳がウルウルとしだしたんだよ。
普通に今思えば小学生のキスなんて、好きだからするしかないのによ。
そこに嘘も本当もない。あるのは好きだけ。
男として先に好きになったなんて知られたくないとか、本当にどうでもいいことを考えていた為に女の子の心を何一つ理解していなかった。
「……そっかぁ」
だけどさ、早苗って本当に凄い奴なんだよ。
普通ならここで泣くと思うんじゃん。それが違うのよ。
必死に涙を堪えて、唇を噛みしめてさ、辛さをグッと飲み込んだのよ。
この瞬間もう俺の負けルートが確定したの。
「なら他の人を好きになる。達也の事が昔から大好きだったからチューしてあげたのに。後から後悔して泣くの禁止だからね」
「わかった」
マジでアホ。ここで素直に謝ればいいのに受け入れちゃう俺。
普通に考えてこの瞬間両想いって確定しているのに……変に異性として意識しているせいで全く素直になれてないんだよな。
それからの早苗は見てて辛かった。
昼休みは女子だけでなく他の男子とも交流を深めるようになったのだ。
それから他の男子とも放課後遊ぶようになった。
だけど登下校は絶対に俺とすると言う謎ルール。
でも早苗と少しでも一緒にいたいと言う気持ちから断ることは一度もしなかった。
そこで今日はこの子と遊ぶとか聞かされるわけ。
それも満面の笑みで。
その時にさ7割は女の子の名前なんだけど3割で男の子の名前が出てくるわけよ。その時はいつも我慢していたけど泣きたいほど辛くて胸の奥がとても痛くなって一人家に着くといつも泣いていた。
俺と早苗がギクシャクしだしてからは放課後会う日は両親通しの交流会の時だけでそれ以外はなかった。嫉妬した心は、どうにかして早苗との距離を縮めたいと必死になり、振り向いて欲しいと思い始めた。
だけどそれは無理だった。
それからの俺は心の傷を少しでも誤魔化す為に仲の良い男子や今まで放課後会って遊ぶ事はしなかった女子ともよく遊ぶようになった。
好きな子に意地悪をして振り向いてもらおう的なアレな感覚で。
だけどこれが偶然にも良い方向に俺と早苗を向けてくれた。
その時ぐらいから早苗の様子がまた変わったのだ。
今まで昼休みとか放課後は俺と殆ど関わるのを止めていた早苗が急に側にいるようになったのだ。
「今日は一人? 一緒に遊ぼう?」
こんな感じで。
逆に宿題が終わってなくて困っている時は。
「今日大変そうだね。教えてあげる」
と言って昼休みや授業の休憩時間に来てくれるようになった。
それから放課後。
お勉強を教えて貰った日は早苗が決まってある事を言ってくるようになった。
「今日のお礼は?」
お礼は早苗の望む物に毎回なった。
――手を繋いで帰る
――放課後二人で会って遊ぶ
――寝る前電話でお話し
早苗曰く、助けてあげたお礼が欲しいらしい。
時が経ち冬休みが始まる前。
気が付けば俺と早苗は大の仲良しに周りからは見られていた。
早苗は「うん。私は達也のお姉ちゃんだから。それに私が仲良くしたいから」と言ってそれを嬉しそうに友達に言っていた日もあった。それを偶然聞いた俺は嬉しくなった。
それからクリスマスが過ぎ、年末年始。
早苗の家族と年越しを過ごす。
窓を開けて肌寒い風を二人で身体を寄せあい感じた。
早苗の部屋から見上げる夜空はとても綺麗だった。
そのまま「寒いね」と言って、手を繋ぎ合ったのを今でも覚えている。
好きな人と繋がる、本当にドキドキしたし嬉しかった。
今でも鮮明に覚えているぐらいに。
「今年ももう終わりだね」
「うん」
「今日ぐらい甘えてよ。私これでもちょっとだけ期待しているんだよ。達也が甘えてくれること」
「いいの?」
「うん」
それから俺は部屋の電気を消して早苗と一緒にベッドまで行き、そのまま握っていた手を離して膝の上に寝転んでみた。女の子の太ももは弾力があって柔らかくて、顔を天井に向けるとそこにある小さいお山と早苗の顔。下から見上げると早苗が顔を赤くして微笑んでくれた。
「気持ちいい?」
「うん」
「あまりジロジロ見るの禁止」
「なんで、早苗可愛いのに?」
薄暗くてよくわからなかったけど、顔が真っ赤になっている気がした。
「なら私だけをいっぱい見て」
そう言って頭を撫でてくれる早苗に俺の心は幸せを覚えた。
その後俺は起き上がって我慢できなくなった想いをぶつけた。
「もう少しだけ我儘いい?」
「うん、いいよ」
俺はベッドに早苗を押し倒して言う。
「ずっと素直になれなくてごめん」
「うん」
「俺さ、本当は早苗の事まだ大好きなんだ。だからいいかな?」
「うん、いいよ。でも優しくしてね」
そのまま俺を抱きしめて自分の方に引き寄せる早苗にキスをした。
俺と早苗の吐息が絡み合い、息が出来なくなるぐらいに唇と唇がお互いを求めあった。
頬が熱を帯び、身体へと伝播し全身が熱くなる。
抱きしめ合う感覚に心が満たされ肌寒いはずの部屋が暑く感じるようになった。
早苗の足が俺の身体に絡まり、更に身体と身体が密着する。
力強く抱きしめられた事で早苗の胸の弾力が直に伝わり、それが俺の脳を興奮させて早苗だけに夢中にさせる。
「私もね、達也の事大好きだよ。私こそゴメンね。他の男の子と仲良くして嫌な思いさせて」
俺と早苗は抱き合った。
その夜は年越しと言う事で認められ、俺は早苗の部屋に泊まる事になった。
それから何度もキスをしては抱きしめ合って二人で一緒に寝た。
好きな人と向かえた朝はとても新鮮で清々しかった。
おはようのキスはまた愛おくさえ感じた。
だけど恥ずかしいので両親にも友達にも内緒にした。
その日以降。
俺と早苗は放課後よく会って遊んだし、たまにキスをした。
その度に顔を赤くする俺を見た早苗が「甘えん坊さんで素直だね」と言ってからかってきた。でも幸せだった。だからこんな日々が毎日これからも続くと俺も早苗も思っていた。
だけどそうはならなかった。
「達也悪いけど、今日で早苗ちゃんとはお別れよ。お母さんの都合で悪いけど引っ越す事にしたから」
それが俺と早苗の関係を引き裂くこととなった。
事情を聞くと仕事の関係上そうするしかないからとのことだった。
それに中学校の入学式前と今なら時期も良い事から将来を見越して引っ越すのだとも言われた。ただの小学生に決定権などなく、反論の余地は当然ない事から俺は渋々受け入れた。
早苗とお別れをした次の日。
目が腫れるぐらいに沢山泣いた。
涙が枯れるぐらい沢山、沢山、沢山、泣いた。
始まりがあれば終わりがある。
当然の事である。
誰かが言った言葉。
――出会いは必然であって偶然ではない
正にその通りだと思う。
運命の人がこの世にはいて、人間はその人と会う為に生きている。
だけどそれが最後結ばれるかは誰にもわからないのもまた事実だと知った。
小学生同士となれば同じ県内だとしても距離がある事から会いに行くのは難しい。
だからこんなにも苦しい思いをしなくてはならないならと俺はもう会えない辛さが逃げるようにして早苗との縁を切るようにした。
だけど早苗は違った。
俺との縁を必死で離すまいと必死だった。
それから定期的に来る早苗からの連絡。
SNSを利用した近状報告並びに自撮りの写真。
俺はそれがとても辛かった。
だってもう会えないのに何で繋がっていないといけないんだって泣きながら胸を締め付けられる思いに苦しみ続けた。
だけど人間。
いつかは慣れるもので。
中学校で出来た新しい男女の友人と関り初めてから少しずつ早苗との別れの傷が癒えてきたのた。時は万能の薬とも言うし、そこに違和感はなかった。それでも早苗から送られてくるメッセージや画像を見る度に辛くて何度も泣いた。
ある日俺は部屋で大泣きしながらある事を決めた。
早苗の連絡は無視しようって。
この初恋に見切りをつけて次の恋に進もうって。
それからSNSを通じてくるメッセージと画像は全て見ないようにと通知をOFFにした。
――すると、今度は知らない番号からの電話。
もしやと思いながらも番号違うしと思い出てみると早苗だった。
それから物凄く怒られた。
一方的に無視されて傷付いたお詫びをして!
と言って早苗が一歩も退かなかったのだ。
なので俺はとりあえずで毎週日曜日の夜に一時間お話しをすることで許して欲しいと提案してみた。
だが早苗は納得しなかった。
結局最後は早苗の意見が百パーセント反映され毎週土曜日と日曜日の夜寝る前にお話しする関係になった。
辛かった。もう会えないと思っていたから。
だけど早苗に対する気持ちが大きかった分なんだかんだ言って未練しかない俺はそのかけがえのない時間を毎週楽しみにしていたのも事実だった。それは多分早苗もそう。中学生で遠距離恋愛それは長続きしないことが大半だと思う。
だけどまたしても俺の予想は外れた。
会えない日が寂しいから声が聞こえない日が寂しいと思うようになったのだ。
俺がそれを告白すると早苗も「私も」だよと言ってくれた。
俺達本当に似た者同士なんだなと思った。
それから中学一年生と中学二年生の約二年間俺と早苗は両親に内緒で密かに連絡を取り合っていた。
だけど中学三年生はそうはいかなかった。
受験生と言う事もあり俺は受験勉強に追われる一年となってしまったのだ。
母親から勉強の妨げになるからと携帯を取り上げられて物理的に早苗との連絡を閉ざされてしまった。最後に俺が受験する高校は伝える事が出来た。そこに最後の希望を勝手に当時の俺は見出していた。
それから一年。
俺は理由が理由とは言え、早苗からの連絡を全て無視し続けた。受験が終わり携帯が手元に返ってきた時には凄い量のメッセージと着信通知があったが、受験だけに集中していた俺の心は約一年の時の流れの中で早苗に対する気持ちを消し去っていた。
だから携帯が手元に来ても敢えて返信はしなかった。
それにメッセージの一つに半年前のだが「気持ち冷めてきちゃった」って書かれていたんだぜ。だったらお互いにもう干渉しない方がいいに決まっている。
中途半端な気持ちや関係が相手を一番傷つけることぐらい今の俺にもわかる。
そう、俺自身の為にも、早苗の為にも。
そんな事を思いながらも春休みと言う事から高校で離れ離れになる友達と最後の時間を楽しんで帰って来たのがついさっきなのだ。
――マジで、これからどうすればいいんだ!?
俺はベッドで足をバタバタさせ無防備状態の早苗を見て大きなため息をついた。
まじでリラックスし過ぎだろと思いながら。
「パンツは紫、いいセンスだ。ごちそうさま」
とても小さい声で俺は見た光景をつい口にして感想を言った。
聞かれなくて良かった。本当に、マジで。
男って生き物は本能に忠実な人間が多いから、もっと警戒心を持って欲しいと本音とは別にそう思った。
俺がしょうもないことを口にして過去の事を思い出していると早苗が疑問に思ったのか声をかけてきた。
「さっきからそこでボッーとしてどうしたの?」
「あっ、いや別になんでもない」
「ならこっちにおいで」
早苗がベッドの布団をバンバンと叩いて俺を呼ぶ。
普通は言う方と手招きされる方が逆な気がすると内心思いつつも歩いて近づきベッドの端に腰を下ろす。
「あのさ、連絡返さなくてゴメン。実は――」
俺の言葉を先読みして早苗が言う。
「綾香さんに携帯取りあげられてたんでしょ。知ってるよ、全部。私のお母さんに理由聞いたから」
サラッと言う早苗に俺はもしやと思ってしまった。
「ちなみにいつから知ってたの?」
早苗が両手の指を折って「1、2、3、……」と数え始めた。
「10ヵ月前ぐらいかな?」
「それって……」
「うん。いきなり音信不通になった頃だね。ちなみにメッセージはもしかしたらと思って毎週土曜日と日曜日に送って私の成長した姿の画像も送ってた。後は出れないの知っていたけど、成績伸びて携帯返してもらえる事があった時の為に電話も掛けてたかな」
つまり俺の事情を全部知っていたと言う事なのか。
うん? と言うか成績で思い出したけど、なんで早苗はここにいるんだ。
高校は中学校までの義務教育と違って任意で好きな所を受験して通うはずなんだが。
「ちなみに高校どこ?」
「達也と同じ桜ヶ丘高等学校だけど」
ようやく俺はこの状況を理解した。
なぜ母親が早苗の同居をすんなりと認めたのかを。
同じ学校に通うなら幼馴染だし異性だけどまぁいいかなぐらいの感覚で受け入れたのだと。それと多分だが俺が勉強できない事を心配して勉強ができる早苗を近くに置いておき事で監視役にしたのだろう。
あーそう考えると全部が納得だわ。
「ところで一つ我儘言ってもいいかな?」
「別に構わないけど」
「今日一緒に寝よ。あの時みたいに二人で」
その言葉に小学6年生の時の年末年始正確には年越しを一緒にした日の記憶が再び蘇ってくる。あの日、二人で何をして、どうして寝たのかを思い出してしまった。
慌てて逃げようとする俺の手首を早苗の少しひんやりとした手がしっかりとホールドする。
「察しがついているかもだけど、私今日来たばっかで部屋の中ダンボールの山だから寝る場所ないの」
「なら俺はリビングで寝るから一人で寝ていいぞ。今日は疲れただろ」
「うん、結構疲れた。だから一緒に寝よ」
「そ、それは……」
「もしかしてまだ私の事好きなの?」
「…………」
俺は反応に困って黙ってしまった。
すると俺の背中に柔らかくて弾力がある早苗の胸が押し付けられて後ろから顔をのぞかせてきた。
「あの日は沢山キスして、お互いの温もりを感じたね。覚えてる?」
「うん」
「覚えててくれて嬉しい。でもね私はもう冷めちゃったよ。でも達也がね……したいなら別にいいよ。だから一緒に寝よ」
甘い吐息を耳に当ててくる早苗に俺の心臓の鼓動が速くなる。
それにしっかりと体重をのせて、俺が逃げられないようにしている。
ズルい、反則だ。
そんなことばっかりされたら、勘違いしてしまう。
せっかく落ち着きを取り戻し始めた心がまた熱くなってしまう。
こんなに綺麗になって誘惑は反則過ぎる。
「冷めたなら尚更ダメだろ」
「料理は冷めたら食べないの? レンジでチンは? 冷凍食品のピザならオーブンで焼く事だってある? 違う?」
「そりゃ食べ物ならそうだけど」
「私と嫌らしいことをしたいとか考えてるからそうやってためらうんでしょ? 相変わらずエッチなんだね達也は」
俺から離れた早苗は立ち上がって俺の正面にやってきては頬を膨らませて言う。
前かがみになった事で、大きくなった谷間が首元からチラッと姿を見せる。
俺の視線がついそこに向いた瞬間、声が聞こえてきた。
「今、見たね?」
視線を上に上げるとニヤリと微笑み、確信しきっていた。
「…………」
返す言葉がすぐに出てこない。
「見てないって否定するなら綾香さんに言いつける。それで実際はどうなの?」
「すみません。つい目が動いてしまいました」
「良し、素直でよろしい。ならお詫びに今日は一緒に寝て」
昔と同じように何かをしたらお礼といい、俺が何か悪いことをしたらお詫びと言う早苗。
そして俺の耳元に顔を近づけた早苗が囁く。
「綾香さんには内緒でね」
母親は当然俺と早苗が別々に寝ると思っているに違いない。
部屋も別々な事から特に怪しんで二階に来ることはまずない。
だからなのか、それを知っている俺はついドキッとしてしまった。
まるでようやく冷めたと思っていた心。
だけどそれは表面だけで心の奥底にある芯となる部分はまだ熱を持っていたような感覚に襲われた。
「先に言っておくけどエッチな事はなしね。でもね達也の温もりぐらいなら久しぶりに感じてあげてもいいよ」
意味深な事を言われた俺は頭の中で想像してしまった。
すると無意識に顔に出てしまった。
「ニヤニヤしてる。本当に素直だね、顔だけ」
「う、うるさい!」
「いいよ、お姉ちゃんに甘えたいんなら甘えておいで」
それから俺は早苗に手を引っ張られてから優しく抱きしめられた。
ずっと忘れていた温もりを身体が思い出してしまった。
そしてこの温もりを俺は密かに心の中で求めていたんだと気が付いた。
それと同時に諦(あきら)めがついた。
もうこの気持ちに嘘はつけないと。
でもこの初恋は叶わないんだって思った。
なんでかって?
早苗の心はもう冷めてるけど、俺の心は再び熱を持ち始めたからだ。
恋は先に落ちた方の負け。
早苗の言う通りかもしれない。
「相変わらずズルいね。私の我儘を何でも聞いてくれるのはやっぱり達也だけ。だからね達也と同じ高校にいけるように私も去年必死に勉強してね、それと同時にお母さん経由でこのままだと海外に行かないといけなくなるから綾香さんに同居させて下さいって半年以上ずっと密かに頼んでたんだよ。なにより達也と過ごす時間がやっぱり一番落ち着くから。それをずっと求めて。迷惑だったかな?」
「そんなことないけど」
「よかった。ならさ」
「うん」
「去年いきなり音信不通にされて傷付いた私へのお詫びとお勉強を頑張ったご褒美として教えて?」
「なにを?」
「私の同居認めてくれるかを。認めてくれるならそのブランと力の抜けた両手を使って私を抱きしめる、嫌なら私をその両手で突き放して」
本当に意地悪な質問だ。
だから俺も意地悪をすることにした。
「なら突き放す」
そう言って強く抱きしめた。
一瞬耳元で聞こえた「えっ?」と言う戸惑いの言葉。
俺だってやるときはやるんだと思っていると早苗が耳元で囁いてきた。
「いじわるだね。そんないじわるばっかしてるとまた大好きになっちゃうよ」
甘い吐息と一緒にハッキリと聞こえた声。
思わず顔を上げて早苗の顔を見ると
「大好きになった方が負けって私言ったよね」
と言われた。
それから俺と早苗は離れて別々にお風呂に入り、寝る準備をする。
最後は同じ布団で約三年ぶりに夜を過ごすこととなった。
あの時も思ったけど、やっぱり早苗の寝顔は近くでみると可愛い。
キスをしたくなったけど、我慢した。
――恋は落とすか落とされるかの男と女の真剣勝負
次は俺が先に早苗に大好きって言わせてみせるからそれまでキスはおあずけ。
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