ゾロゾロついて行きました


「いやー、キャンプよかったねー」


 帰り道、運転しながら、しみじみと理が言った。


 今回のキャンプは、理が八人乗りの大きな車を実家から借りてきてくれていたので、全員乗って、キャンプ道具を載せても、まだ余裕があった。


 ……いや、ちょっとテントの支柱に後ろ頭を小突かれてはいるのだが、

と後部座席の萌子は一番後ろの座席に斜めに突っ込まれている藤崎のテントを振り返りながら思う。


「あのすがすがしい空気の中でなら、総司のつまらない蘊蓄うんちくも笑顔で聞き流せるよ~」

と言う理に、助手席に座る総司が、


「……聞き流すな」

と言っていた。

 



 境内に着くと、柴犬を連れた真凛まりんが司と話しながら待っていた。


「も~、あんた最近、滅多にいないんだから~。

 描いてよ、御朱印」

と萌子に言ってくる。


 そんな真凛を見て、理が早速話しかけていた。


「こんにちは。

 滝沢理と言います。


 萌子ちゃんと同じ職場の者です。


 失礼ですが、お名前は?」


吉之輔きちのすけ


 いや、それは犬……と思いながら、萌子は言われた通りに御朱印を描いていた。


 ウリが見えるようになってから、御朱印に描くウリ坊がだんだん、ウリに似てきたな、と思っていると、社務所の前側に立ち、萌子が描くのを覗いていた総司が言ってくる。


「だんだん似てきたな」


「やっぱりですかっ」

と今書いた御朱印を持ち上げ萌子は言ったが、


「お前に」

と総司は言ってくる。


 ……いや、好きなんですけどね、ウリ坊。


 似ていて嬉しいイキモノかと問われると、年頃の娘としては、どうなんですかね……、と萌子が思う頃、理は真凛にフラれていた。


「いやいや、私、司一筋なんで」


 昨夜、めぐのことをいいとかなんとか、呑みながら言っていなかっただろうか、と思っていると、総司が司になにか話に行った。


 司が理の方を見て頷いている。


 総司が司といる木の下から、理を手招きして言った。


「理。

 最後にもう一度問おう。


 お前、複数の女性とのチャラついた恋か。

 たった一人の女性との運命の恋か。


 どちらかを選べ」


 うーん、と理は腕組みして考えたあとで、


「じゃあ、めぐちゃんで」

と言う。


「いや、あんた今、私を誘ったわよっ。

 誰よっ、めぐってっ」

と怒り出す真凛の前で、司が理に言った。


「わかった。

 じゃあ、祓ってやるから、ちょっと来い」


 そのまま、司は理を連れて拝殿に入っていく。


 何故か真凛もそれについて行った。


 それを見た藤崎も何故だか、真凛の後に続いて行く。


 社務所から出た萌子は、ハーメルンの男に笛吹かれたみたいにゾロゾロついていくみんなの姿を見ながら呟いた。


「そういえば、あの霊、藤崎からは知らない間に離れてたんですよね。

 なんで、滝沢さんからは離れないんでしょうね?」


「居心地がいいからじゃないのか?

 もともとタラシの素質があるんだろうよ。


 ところで、俺たちも行ってみるか」


 そう総司が言ってきたので、結局、萌子たちも遅れて拝殿に入っていった。






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