あれを見るにはタイミングが重要だ


「あのー、ところで、見えないのかってどういう意味ですか」


 そう萌子は訊いた。


 課長にもなにかついているのだろうか、と思う。


「そんな妙なモノを憑けてたり、山の中をひとりウロついてたりするお前だから、もしかして、見えてるかなと思ってたんだが。


 ……まあ、デカすぎるからな」


 総司は右を見、左を見、上を見た。


 つられて萌子も、右を見、左を見、上を見る。


 だが、家族連れの客などが行き交っているだけだった。


「花宮。

 お前、今週も山ウロつくか」

と総司が訊いてきた。


 完全におかしな人みたいなんですけど、私。


 単に街の明かりのない場所で、お気に入りのランタンの光を楽しんでるだけですからね、と思いながら、

「……はい、たぶん」

と萌子は言う。


 ほんとうは行くかどうか迷っていたのだが、総司の話が気になるので、これは行くべきだなと思ったのだ。


「よし、じゃあ、あの山じゃ見えづらいから。

 お前、一緒にキャンプ場に行くか」


 ちょうどそろそろ行ってみようと思ってた、と総司は言う。

「そうなんですか。

 じゃあ、夜ちょっと覗いてみてもいいですか」

と萌子が言うと、


「それでもいいが、お前も一緒にキャンプするか。

 あれは見えるタイミングと見えないタイミングがあるからな。


 隣にテント張ってもいいぞ」


 そう総司は言ってくる。


「……それ、ソロキャンにならなくないですか?」


「お互い干渉しなきゃいいだろ」

と総司は言うが、


 いや、私は気になりますよ。


 課長は真横で私がなにをしてても気にしなさそうですけどね、

と萌子は思っていた。


 真横の、目が合う位置で火を焚いているのに、まるでこちらを見ない総司を妄想してみる。


 ……余計寂しいではないですか。


 なんだかわからない、すばしこいモノをけしかけますよ、

と思いながら、総司について駐車場まで歩いていった。





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