なにが憑いてるんですか、私っ!


「すみません。

 助けていただいたお礼に私がおごろうと思ってたのに。


 今度は、私がおごりますね」


 串カツの店を出てショッピングモールの中を駐車場まで歩きながら、萌子は言った。


 だが、言っておいて、


 ……これ、私から食事に誘ってるみたいだな、と思いはしたが。


 まあ、話の流れで言っただけだから、おかしな意味には聞こえないだろう、と思う。


 でも、最初はどうなることかと思ったけど、意外と一緒にいて苦痛じゃないな、と萌子は思っていた。


 まあ、突然、串カツの歴史を語られたりするのがちょっと困りものだけど。


 どっちかって言うと沈黙する方が苦手だから、会話につまるよりはいいか、と思いながら、萌子は訊いてみた。


「そういえば、課長は、どうして突然、ソロキャンプをはじめられたんですか?」


「言わなかったか。

 俺には、山に行かねばならない呪いがかかっているんだ。


 だから、ついでに流行りのソロキャンをやってみようかと思ってな」


 ……なんなんだ、山に行かねばならない呪いって、と思いながらも、萌子は訊いてみた。


「課長でも流行りのものとか意識したりするんですか?」


「興味ないものはスルーだが。

 面白そうなものは、とりあえず試してみている」


 意外だ……。


 だが、そうして、好奇心旺盛だから、博識なのかもな、と思う萌子の頭の中では、


 山の中でテントを張り、ヒュッゲなライトに照らし出された総司が、タピオカミルクティーを飲んでいた。


 ははは、と声に出して笑ってしまい、


「……すみません」

と謝る。


 しまった~。


 謝らない方が、妙な妄想してたことを知られなくてよかったのにっ、

と後悔したとき、総司が横目にこちらを見ながら言ってきた。


「……お前でも見えないのか」


「えっ?」


「そんなモノ付けてるのに見えてないのか」


 総司は萌子を見下ろし、言ってくる。


 そんなモノ付けてるのに、という総司の言葉に、萌子は慌てて服のタグを探した。


 ときどき付けたまま出かけてしまうからだ。


「……違う」

と総司は溜息をついて言う。


「お前には、なんだかわからないが、得体の知れないモノが憑いているんだ」


 ええーっ!?

 一体、なにがっ?

と萌子はおのれの背後を見ようとした。


 背後霊のようになにかが憑いているのかと思ったのだ。


 だが、なにも見えず、ぐるぐる回ってしまう。


「シッポ追いかける犬か……」

ともれなく罵られた。


 いや、ほんとうに罵っているのかはわからないのだが、総司の口調のせいで、そのように聞こえてしまうのだ。


「い、一体、私になにが憑いてるんですかっ!」


 陽気な曲の流れるショッピングモールで総司の腕をつかみ、萌子は叫んでいた。


 静かな場所ではないので、誰も振り返らなくて助かったが……。


「いや、俺にもハッキリとは見えないんだが。

 猛スピードで動いているなにかだ」

と総司に告げられ、


「なにが憑いてるんですか、私っ!」

とまた叫んでしまう。


 さっきは漠然ばくぜんとした不安により叫んだのだが。


 今度は、ハッキリとした不安が生じて叫んでしまう。


 なんだかわからないけど、猛スピードで動いてるものってなにっ!?


 霊っ?

 あやかしっ?

と思ったとき、総司が腕をつかんだままの萌子を見下ろし、淡々と言ってきた。


「大丈夫だ。

 なんだかわからないが、お前に似合っている感じのものだ」


 見ていて違和感がない、と総司は言う。


 いや、なんだかわからないけど。

 素早く動く怪しいモノと似合いたくはないです……と萌子は思っていた。




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