行くぞ、花宮!
まあ、なんだかんだあったけど、買い物に行って、ご飯を食べるという行為自体は楽しいな。
何処で食べようかな~、と萌子が
「串カツの店があるな。
お前、串カツ好きか」
と訊いてきた。
「あ、はい。
いいですね、熱々の串カツ」
と笑いながら見たそのガラス張りの店の入り口付近には、茶色い液体が流れ落ちてくる三、四段になっているタワーがあった。
「あれ、タレですかね」
「……チョコレートファウンテンだろ」
どうしよう。
私よりこの人の方が女子力高い気がしてきた……と思いながら、萌子は振り返らずにキャンプグッズの店へと急いだ。
キャンプグッズの店で、萌子は可愛いロウソクを買ってもらった。
高いランタンを買ってくれると総司は言ったのだが。
いやいや、会社の目の前にある店にお連れしただけですしね、と遠慮して、ロウソクにしてもらったのだ。
総司は店員と長く話し込んでいて、暇を持て余した萌子は、いつもは入ってみない大きなテントの中に入ってみた。
広いなー。
私の部屋くらいありそうなんだが……。
ソファみたいなベッドみたいなのもある。
ベッドの前のテーブルには雰囲気のあるランタン。
確実に私の部屋よりお洒落で立派だな、と苦笑いしながら、萌子はそのベッドに腰掛けてみた。
寝心地もよさそうだ。
深緑のテントの外で、総司が話しているのが聞こえてくる。
キャンプ初心者だと言っていたのに、総司は店員とかなり専門的な話をしていた。
さすが田中侯爵……と思っていると、
「花宮、何処だ。
行くぞ」
という総司の声が聞こえてきた。
はっ、はいっ、と慌てて立ち上がる。
「これは迷いますね~っ」
キャンプグッズの店を出たあと、萌子たちは、さっきの串カツの店に来ていた。
ずらっと並んだ串ネタを選び、タレを選び、自分で揚げるのだ。
美味しいものが目の前にあると饒舌になり、緊張も忘れる。
美しい総司の顔ではなく、ずっと油の中で揚がっていく串カツを眺めていたせいか、萌子は普通の人と話すように話せていた。
なんとなく、名前の話になり、
「最初、私の名前、『はな』だったらしいんですよ」
と萌子は語り始める。
「……花宮はな。
どんだけ娘に期待かけてんだって感じの名前だな」
いやまあ、何処も花のようではないですけどね、私……。
「でも、それを聞いたおばさんが、やめてよ、それ、うちの近所の犬の名前だからって言って。
それで、母が今度は、まりんはどうかって言ったらしいんですが。
そしたら、近所のおばちゃんが、それはうちの娘のところの犬の名前だって言い出して」
「……最近の犬の名前、洒落てるからな」
「で、なにを言っても何処かのペットの名前になってしまうんで。
母親が、じゃあ、もう、うちの猫の名前でいいって言い出して。
私、危うく、花宮チビになるところだったんですよ」
「この親にしてこの子ありというエピソードだな」
と総司は深く頷いていた。
「課長は……」
と言いかけ、萌子はやめる。
何故、総司になったんですか、と言おうとしたが。
答えはアレしかない気がしたからだ。
「あっ、これ、もう揚がりましたかね~」
課長、百万回言われてるだろうから言うまい、と思い、串カツに視線を戻したが、総司は自分から言ってきた。
「……母親の趣味でつけたんだ」
「そ、そうなんですか……」
ま、まあ、名前負けしない美しい顔でよかったですよね、とか言うのもあれなので。
ははは、と萌子は笑ってごまかそうとした。
串カツを味噌ダレにつけようとしたら、総司が入り口の方を見ながら、
「あれにつけなくていいのか」
と言ってくる。
つやつやのチョコがあふれてくるチョコレートファウンテンが総司の視線の先にあった。
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