いや、日本語でしゃべって


 萌子はこれ以上の攻撃を多英たちから受けないよう。


 総司に店を紹介して欲しいと言われただけだということを少し大きめの声で語った。


「私がキャンプグッズのお店で買ったヒュッゲなライトをたまたま課長がご覧になったんですよ。


 それでお店にお連れすることになっただけです」

と萌子が言うと、多英は眉をひそめ、


「なに言ってんの、日本語でしゃべって」

と言ってきた。


 キャンプグッズでヒュッゲなライトの辺りが混乱を招いたようだ。


「いや、最近、よく雑誌なんかでも特集されてるではないですか、ヒュッゲ。

 北欧のつつましい暮らしの中で、ゆるくあたたかく生きていこうみたいな」


 へー、という多英に、総司と山で遭遇した話はしなかった。


 勝手にソロキャンプの話をしていいかわからなかったからだ。


 総司はひとり静かにソロでやりたいのだろうから、会社で余計な話はしないほうがいいと思ったのだ。


 そして、その店が会社の目の前にあることも言わなかった。


 それ、案内する意味あるのか、と言われそうだったからだ。


 ……いや、私もそう思うんですけどね、と萌子は思う。


「そんなわけで、私と田中課長は別に付き合っているとかではないんです」

という萌子の言葉を聞いた多英は笑い出す。


「だと思った~。

 あんたと田中課長、似合ってないもんね~」


「……今、ハートをぐっさりやられたので、やってもいい気がしてきましたよ」

と萌子が、結局、サバの解体に使ったナイフを見つめて呟くと、


「あんた、なにもヒュッゲじゃないわよっ!?」

と多英が叫んでくる。


 だが、多英は、

「ま、実のところ、田中課長、そんなに好みじゃないんだけどさ」


 でも、いい男だから、と言い出した。


「そもそも、私、やかましい男は嫌いなのよ」


「いや、課長、ほぼしゃべらないですよ。


 蘊蓄うんちくのスイッチが入ったときだけ、立て板に水なだけで。

 ……むしろ、必要なこともしゃべらないので困りますね」


 初めて山で助けられたときのことを思い出し、萌子はそう呟く。


「そうなの?

 でも、まあ、好みじゃないにしても、若手の出世頭だし、黙ってれば、すごい綺麗な顔してるし。


 人に目の前で、ひょいと持ってかれたら、惜しい感じがするじゃない。


 キャラ的に合ってない感じではあるけど。

 あんた、そこそこ美人だから。


 田中課長、実は、こういう女が好みだったのかなと思ってイラッと来たのよ」

と言う多英に、思わず、萌子は、


「あ、ありがとうございます」

と言って、定食についていたメロンを一切れあげた。


 美人、と言われたからだ。


「いや……。

 あんた、今、そこそこって言われたよ」

と横で、めぐが苦笑いしていたが。





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