「あの」


「あ、はい。なんですか?」


「訊きたいことがあります」


「はい。なんでしょう」


「法律って、なんなんですか?」


「え?」


「あ、いや。この問いには向こうの検事担当さんのが詳しいからって、上司に言われまして」


「あ、ああ。弁護さんの。法律ですか?」


「はい。法律が善なのに、それにそぐわない人間が悪になるなんて」


「あ、そこ。そこがたぶん誤解されている部分です」


「法律が善ではないのですか?」


「法律とか規制というのは、あくまで文字です。中身は、宗教など良心に基づくなにかの倫理規程があってはじめて成立します」


「宗教?」


「はい。宗教です。この国には宗教がないので、法律や裁判がそのまま宗教の代わりなんです。法律に違反したら悪。法律に違反しなければ善。そういう宗教」


「宗教、ですか」


「何の特殊権限も持たない一個人である首相を、悪い芸能人であるかのようにバッシングしたりするじゃないですか。あれと同じです。宗教なんですよ、この国の」


「神がいない」


「そう。世間様が神様なんです。ばからしいですよね。この宗教には信徒がいなくて、神だけが莫大な数いる。だから、縛るのも導くのも無理なんですよ」


「ありがとうございます。勉強になりました」


「いいえいいえ。彼はなんと言ってましたか?」


「上司ですか。帰って寝ると言っていましたが」


「そうですか。わたしも帰って寝ようかな」


「法廷であんなに寝てたのに?」


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善と悪と審判(15分間でカクヨムバトル) 春嵐 @aiot3110

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