閉廷

 ざわめく法廷。


 やるべきことは、全て終わった。向こう側との交渉通り。もはや、相手の検事担当は眠りこくっている。


「向こうの検事担当さん。寝てるんですけど」


「まあ、こんな裁判なら、寝るしかないよな。気にすんな」


 今日の公判で、被疑者依頼人の無罪は確定したようなものだった。たくさん証拠も提出した。


 しかし。


 その証拠は、ほとんどすべて、被疑者依頼人が悪人だという証拠にもなっている。これが世間に知られれば、被疑者依頼人はまともに歩くことすら叶わなくなるだろう。


「最近流行りの、社会的制裁ってやつだな」


「悪人がばかを見るのはいいですけど、なんか、更生の目がある人間が世間にぼこぼこにされるのは、複雑ですね」


「ああ。そうだな」


 この被疑者依頼人は、悪人ではあるが、更生可能だった。ちょっと自分の行いを見直せば、簡単に人間としてやり直せる。そういう性格なのに。無罪だから、そのまま外に出ていって。そしてたぶん、世間というわけの分からんものから殴り殺される。


「仕方ないさ。善悪と有罪無罪が、必ずしも合致するわけでもない。それに、世間というのは無意識に人を殴るようにできている」


「法律って、なんなんですかね」


「その問いは、あそこで寝てる検事担当に聞いてみるんだな。さあ。裁判は終わりだ。帰って寝るとしよう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る