善と悪と審判(15分間でカクヨムバトル)

春嵐

開廷

 法廷。


 目の前の被疑者。何の気なしに、立っている。


 向こう側の検事担当。眠そうだ。


「あのやろう。あくびしてやがる」


 隣の助手が、検事担当を睨んでいる。


「そう不躾にするなよ。向こうは公務でやってんだから」


 弁護側である自分達には、依頼がある。達成すれば、報酬も。そのための仕事。今回も、黒である犯人を白くするための仕事だった。それは、向こうの担当も知っている。


 世の中には、多くの審判がある。とりわけ、弁護側には色々と。


「裁判にもな。色々あるんだ」


「知ってますよ。でも裁判であくびなんて」


「いいじゃねえか。ここにあるのは有と無だ。善と悪ではない」


 裁判の有罪無罪を、善悪と結びつけて判断する人間のなんと多いことか。ここにあるのは、そんな純真でたのしいおままごとではない。


 駆け出し弁護担当が名を上げるためだけに繊細な裁判を担当し、完全勝利だの不当判決だの、よく分からない筆書きの垂れ幕を裁判所前でメディアに晒す。


 そんな時代だった。


 今回も、同じようなものだ。この依頼人は、悪いやつだった。しかし、裁判なので黒を白に塗り替えなければならない。


 悪いやつが有罪で、良いやつが無罪。その枠組み自体そもそも間違っているのだが、世間という実存しない謎の塊にそれを言うのもまた、意味のないことだった。


「無罪にしてやろうじゃねえか。せっかくだから」


 被疑者の依頼は、自分を無罪にすること。実際、犯行そのものにも関わっていない。


「あの検事担当の、はなをあかしてやりましょう」


「そう気負うなよ」


 裁判が始まる。




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