エピローグ さようなら私の太陽

「時鷹ッ」

「時鷹――やだよッ時鷹ッ」

「トキ――ッ」

「時鷹——ッ!そんなんでお前が死ぬようなタマかッ」

『はッ――』

 名前をたくさん呼ばれてがばりと起きると、病室だった。だけど様子がおかしい。身体が身体じゃなくて、まるでエリナの夢で体験したような浮遊霊になったような感じだった。

 医者と看護婦がおれの横に立っており、悲しそうな表情で「ご臨終です」と告げて部屋から出ていった。あ、マジか、今死んだのか。

「トキ、どうしてあんたまで――トキッ」

 いや。実際に浮遊霊になってんじゃん。今なっちゃったじゃん。

 おれの身体は足元でベッドで寝てる――いや、死んでる。母ちゃんが泣きながらおれの手を掴んでいた。親父も、ベッド脇のパイプ椅子に座りながら俯き、涙を流している。

 そしてもう一歩離れた場所に、亮介とヤマ。亮介は歯を食いしばり、拳を握りながら顔を真っ赤にして泣き、ヤマはもうその場所に崩れおちてわんわん泣いている。

『ごめんな、ヤマ――亮介…』

 泣き崩れるヤマの肩に触れるけど、当然触れない。すかっとすり抜けてしまう。だけどそれでも、おれはヤマの肩をさすり続けた。

 壁に掛かっていた電子時計を見ると、おれが西野の家に行ってから二日が経過していた。

 そうか――即死じゃなかったんだな。エリナの母ちゃんは運を削られてあんな感じで速攻で死んだけど、おれはなんだかんだ粘ってはみたんだな。

 はぁ――と長いため息が出る。

 仕方がねぇと言えば仕方がねぇことだけど、やっぱりかなり後悔は残っている。

 おれがもっと――西野を疑っていれば…エリナともっときちんと話していれば…また違った結末はあったのかもしれない。

 今思えば、おれが見ていた夢はほとんどエリナの母ちゃんの彼氏とのシーンだったし、もっとよく考えるべきだったと思う。でもさ、知らなかったんだもん、そりゃ母ちゃん連れてってあんなことになれば、誰だってもう終わったと思って油断するだろ。

 彼氏を捜すことをちゃんと知っていれば――それなら油断なんかせずに、呪いの期限はまだあったはずだ。おれが例え彼氏が逮捕されてても、出てきたらぜってー連れて行くからって強い意志を持っていればな…まだなんとかなってたのかもしれないな。彼氏が刑期を終えて出てくる、六年近くも見逃してくれるかわからないけどさ。

 まぁそもそも、おれは呪いで死んだんじゃないかもだし。でもまぁ呪いじゃないとしたらやだよな。阿久津なんかにこのおれが殺されちまうなんて思ってもいなかったからさ。

「あいつら――ぶっ殺してやるッ」

 亮介がそう言って病室を出て行った。「やめさない」と母ちゃんが後を追い、それをおれも追うけど、丁度エレベーターホールの手前で、ぐんと何かにひっぱられた。これ以上は進めない。仕方ないので亮介が気になるけど、病室へと戻る。

『マジかよ』

 どうやら、おれは幽霊のくせに、本体からあんまり離れることはできないらしい。

 せっかく幽霊になったんだから、西野んとこでも言って恨み言でも言ってやろうかとも思ったけど、そんなこともできないのか。まぁ、めちゃくちゃ強い言われたエリナでも、最初はあの四○九号室に来ないと何もできないんだから、そうったらそうか。

 つうかあれだよな、せめてエリナはちゃんと事件にして、遺体くらいは埋葬してやりたいよな。そうすりゃ母ちゃんはもう殺したんだから、成仏ってやつができっかもしれねぇし。まぁでも、あの彼氏は許せねぇか――。今となっては、おれなんかになんもできることなんかねぇんだけどさ。

 おれもエリナくらい強い霊だったら、例え身体が火葬されてもこの世界にふらふらできるんかなぁとも思ったけど、どうやらそれは無理っぽい。

 なんでだろうな。なんか理解してる。今病室で寝てるおれの身体が火葬されたら、おれもすっぱりこの世界からいなくなるなるだろうなぁって。なんか、それだけは確信している。

 なんでだろう。未練とか恨みがないからかな。いや、後悔はしているけど――もっとうまくできたんじゃねぇかって、そういう後悔はしているけど――自分がやったことについては何も後悔はない。

 あ、そうだ。あの世に行けば墓の前なんて言わずに、すっげー怒られそうだけど直接兄貴に報告できるかもしれないな。

 でもまぁ、おれは精一杯やった。そうだろ?話をここまで聞いてくれたあんたならわかってくれるよな?きっと、兄貴もわかってくれるか。いっても兄弟だしな。

「時鷹、だから言ったじゃん――私、言ったじゃんッあのクソ女――ッ」

 今度はヤマが叫ぶようにそう言うと、病室を出て行った。あの感じはやべぇ。このままだと西野を殺しかねない表情をしていた。すぐに追いかけてヤマの肩を掴むけど、当然すり抜ける。

『ヤマッはやまんなよッ』

 せめてそう声を掛けるけど、ヤマにはやっぱ当然の如く届かない。ヤマは泣きながら早足にエレベーターホールへ向かうと、強めにエレベーターのボタンを押した。

 ヤマや亮介を追いかけたいけど追いかけることはできない。諦めてとぼとぼと病室に戻る時、おれは初めて気がついたけど、部屋の外に椅子に長門軍曹と絵美ちゃん、そして萩原が居た。ああ――こいつらも来てたのか。あのクソ眼鏡ストーカー野郎が居ないことに少し憤りを覚えるけど、まぁあいつは西野側だからしゃーねーかな。ヤマとか亮介に会ったら、どうなるかわからんし。

「ううう――ッううッ」

 絵美ちゃんは顔をくっしゃくしゃにしてぼろぼろに泣いていた。手には、あの日長門軍曹の家で一緒に撮った写真を持っている。長門軍曹は、泣きながら写真を胸の中で抱きしめた絵美ちゃんの背中を泣きながら擦っていた。

「無念――無縁ですぞ、時鷹氏ッ」

「市井くん、嘘だろ、嘘だろ――ッ」

 萩原も号泣している。マジで鼻水まで垂らして号泣している。

 まぁなんだ、あれだな。こいつらまで病院に来て、こんな泣いてくれるなんてそれだけで悪い人生でもなかったなぁなんて思っちゃう。いや、おれは間違えてなかったなぁって感じかな。

『あ――そうだ』

 病室に戻って、死んだおれの身体とぴったり重なったら生き返るかも!なんて思って振り返った時、少し先に花ちゃんが居た。

『――…』

 花ちゃんは今来たのか、長門軍曹達を見て、硬直していた。

「長門くんッ」

「――…小松氏。時鷹氏は――」

 花ちゃんはその言葉を聞いて病室へと駆け込んだ。そして項垂れる親父を見て、すぐに死んだおれの身体へ更に駆け寄る。

「市井――くんッ」

 花ちゃんはおれの頬へ触れた。優しい手つきだった。

「嘘だよね、市井くんがッそんな――」

 花ちゃんの身体がぶるぶると震え始める。マジでちょっと見てられない。すっげー罪悪感ある。花ちゃんだけはガチでずっと的確な助言をくれてたから…。

「そんな、そんな、嘘だよ、嘘…」

 背中しか見えてないけど、多分すっげー泣いてるんだろうなと思った。また鼻水を出してないか心配になった。そっと近づいて背中を擦ってやる。まぁ、触れないけどな。

「嘘だよね、市井くんッだからッだから私は何度も――」

『悪ぃな、ほんとその通りだよな』

 おれは花ちゃんの言葉にそう返した。ほんとそうだよな、ちゃんと――花ちゃんの言う通りにしていればまた違う未来があったのかもな。それだけは、マジで謝りてぇよな。そう考えれば、この子だけは本当の意味で最初から最後まで間違えてない。

「こんなことッ――こんなことってないよッ」

 泣きじゃくる花ちゃんの背中を擦っているうちに、なんかあれ?ってなる。すかすかだったのが、なんか緩い水を撫でているような。その感覚に花ちゃんも気がついたのか、急に振り返った。

 ああそう言えば、花ちゃんなんか嫌な予感が当たるとか言ってたっけな、やっぱ霊感あるんかこれ。おい、花!小松はーなちゃんッ!僕だよッ!トキちゃんだよッ!

「――…ッ」

 おお、マジかよ。花ちゃんおれに気付いたのか?でも、見えてない。焦点が遥か先を見ている。こんなに近くにいるのにな。チューしちゃうぞ。

『花ちゃん、ここだよ見えるか?見えないか――』

 おれがそう言うと、花ちゃんはおれの身体をすり抜けて病室の入り口へ向かった。そこは手洗いってか、ちょっとした洗面場?っていうの?なんか消毒してね的な薬とかも置いてある所。因みに、普通に入院しているなら、そこで歯も磨いたりする所。なんて言えばいいんだろな。洗面台?

 花ちゃんはそこで立ち尽くし、じっと鏡を見つめていた。あ――ッ。

「市井――くん?」

 そうだ鏡――。最初に、おれがエリナを見たのも鏡越しだったもんな。そう、鏡は違うとこに繋がってるとかなんとか――。

「え――?」

 花ちゃんが振り返ったり鏡越しにおれを見たりを繰り返す。それを親父は不思議そうな顔で見ていた。まぁ無理もねぇよな。でもまぁ親父よ、マジで今はほっといてくれ、何も言うなよ。変なチャチャいれなくていいからな。

 おれは花ちゃんの後ろに立つと、軽く手を上げて言った。

『よぅ』

「市井くん――え?」

『死んじゃった』

「え?ええ?そんな、え?」

 そして、花ちゃんと確かに目が合ったんだ――。



 私は――ここまでを書いてやっとシャープペンシルを置いてから一息ついた。

 そして、さっき持ってきたインスタントコーヒーに口を付けながら読み返し、最後まで――書くつもりでいる。

 私の家にパソコンなんていう高価なものなんかない。彼の望みを私は聞き、そして大変だとは思ったけれど、叶えるために初めての小説を書く為にペンを取った。

 彼の望みは――自分の話を、なんとか小説にしてくれないか――ということ。

 彼が経験してきたことを少しでも世に広めたかったり、投稿してお金になるかもと思ってたいり、小さい頃実は小説家を目指してたんだなんて初めて聞いたこともあった。

 万が一お金になりそうであれば、その半額を多分お金に困っている親に渡して欲しいとも言っていた。半分は、お前にやるからさ、とも。

 確かに――内容としてはかなり面白いと思う。不自然にお兄さんが死に、その理由を探るために弟が奮闘し、最後は信じていた女に裏切られて死ぬ。

 そう、面白いと思うよ――それが他人であれば。

 彼から――市井時鷹…市井くんから聞いた話を、私――小松花が小説として書く。大体がすべて事実だけれど、こうして読み返してみると、かなり私の私的な感情が入っていることを否めない。

 その最も私的という部分が――これは、後悔の物語だと書いたこと。それは嘘だ。市井くんは後悔をしていたけれど、本当に後悔はしていなかった。だから、後悔の物語というのは、私の話――私の感情。誰も幸せにならないというのは――事実だけれど。

 私は、西野未来という女のことを知っていた。もっと、市井くんと本気で話すべきだった。どんな手を使っても話すべきだった。もっともっとできることはあったはず。西野未来を、本気で、殺すつもりで脅かしてすべてを白状させることだってできたはずなのに。

 そんな私を、市井くんは――花ちゃんはよくやってくれたんだよと笑いながら慰めてくれた。

 でも、私にはやっぱり――後悔しかない。

 あの日、病院で市井くんの幽霊を見つけてから、市井くんは私に取り憑き、市井くんの身体が火葬されるまでの間、ずっと一緒に居た。いや――居れた。

 昔から嫌な予感が当たるなとは思っていたけれど、どうやら私には多少の霊感っていうものがあるようだった。そういう人に取り憑けば自分の身体から離れても大丈夫なんだと市井くんはすごく喜んでいた。でも、私はずっと、胸が苦しかった。ううん、今でも――悲しい、そして苦しい。

 私は彼を――。市井時鷹を――愛していたから。

 たったの四日だけれど――一緒に居ることができたこの期間を、私は永遠に胸に抱いて生きようと思う。この先、いつかもしも私にまた好きな人ができて、その人と一緒にいることになっても、私は市井くんのことを忘れることはない。一生涯、私は市井くんとの思い出を忘れずに――生きていく。

 一緒にいる間、市井くんは幽霊なのをいいことに私のお風呂やトイレを除いたり、私をびっくりさせたり――そんなくだらないいたずらもたくさんされながら――たくさん小説の話をした。

 小説として読んでもらう為には、市井くんの言葉遣いはすごく汚いというか、酷いから私がかなり直しているし、実際はもっと粗悪な人で、悪童と呼ばれるに相応しい思考回路の人だった。木崎くんもかなり悪い人だけれど、市井くんだって十分に悪い。

 そして、改めて読み返してみて…私の拙い文章で――どうしても伝えられなかったなと思うことがある。

 それは、彼が――この物語における市井時鷹が、もっと、もっと――とても魅力的で本当にかっこいい男だったということ。

 市井くんは、本当に魅力的な人。多分もう、この先――私には市井くんほど愛する人はできないんじゃないかなと思う程に。いや、確信してしまう程に。

 粗悪で、横暴で横柄で、身なりもだらしないし、すぐにカっとなって人に暴力を振るうし、言葉も悪いけれど――端的に言えば、彼は――凄くカッコよかった。

 それだけはどうしても伝えたかった。

 あなたには、私のこの拙い文章で伝わっただろうか?

 もしも少しでも伝わっているのなら――実物の彼は、その百倍はカッコいい。それくらいいい男だとはっきりと断言できる。

 市井くんを思い出すだけで、一生懸命に書いたこの原稿に涙が落ちる。もう市井くんと喋ることも、会うことはできない悲しさと、後悔しかない悔しさの涙が。

 市井くんと話している間、私は同じように何度も泣いた。でも、その度に市井くんは後悔するな、泣くんじゃねぇと私を慰めた。おれはまったく後悔してねぇからと強く、何度も笑いながら言った。

 木崎くんには西野未来のことを相談する時にうっかり言ってしまったけれど、私にとって市井時鷹とは太陽のような人だった。

 ただ、そこにいるだけで――すべてを明るく照らしてくれる――そんな人だった。

 私の霊感のせいもあったのかもしれないけど、市井くんからは――恥ずかしい話、温かい何かを感じていた。

 それは――それこそ、言葉にはできない、温かく、心地よい何か――。そうまさに優しく照らしてくれる太陽のような。

 木崎くんには絶対に言わないで欲しいと伝えたのに、市井くんの話を聞いた時、木崎くんがちょこちょこと口に出しているようだったから、恥ずかしかった。

 でも、鈍感な市井くんはそれに気付くことなく、そして――最後までそんなことを――私の想いも何もかも、市井くんには伝えることはしなかったし、できなかった。今思えば、それで正解だったと思う。それこそ、本当に後悔するだけだっただろうから。

 そんな私の恥ずかしい市井くんに対しての想いをあっさりと伝えてしまった木崎くんは――今、捕まっている。木崎くんだけじゃない――山下さんも。

 市井くんが死んだあの日、木崎くんはそのままブループラネットの人達を何人も襲い、重傷を負わせ、そして――阿久津俊介と堂島弘樹を――殺してしまった。

 山下さんもそれに同行し、西野未来に重傷を負わせたところで、逮捕されてしまった。

 だから、二人は市井くんの葬式に参列できていない。それを市井くんは薄情な奴らだよなと笑っていたけど、本当は何かあったのだろうと気付いてはいたと思う。

 でも、私には何も聞かなかったし、私もそれを伝えるつもりはなかった。だって、悲しむだろうから。

 西野を恨むことはないと――市井くんは笑っていた。

 巻き込んだのはおれなんだから――と笑っていた。

 そして、お互い否定しねぇって約束したんだと――優しく笑った。

 最初に言った。この話は面白いと思う、それが他人であれば――と。

 そう、他人ではない私からすれば、面白くもなんともない。ただただ、悲しい話。

 私は――市井くんを愛していたのだから。きっとこの世界の誰よりも彼を愛していた。山下さんよりも愛していると、私は断言できる。

 そして――それを証明できる。

 私は、これから、この原稿を最後まで書いたら封筒にしまい、市井くんと相談して決めた出版社に送る。私はホラーじゃなくない?と言ったけれど、市井くんはホラーだろ?と譲らないので、ホラーに強そうな出版社に。

 そして――それからそのまま、私が市井くんを本当に愛していたことを証明しに行く。

 はっきりと言えば――西野未来を殺しに行く。

 どこの病院に入院しているか調べたし、市井くんが刺されたという大型のナイフも買った。

 私は、市井くんを愛していた。その話を聞いて、私の殺意はより固まり、絶対に許すことはできないと強く決意した。

 両親には本当に申し訳なく思う。ここまで大切に育ててもらったのに、娘が殺人で捕まるなんて申し訳ないだけじゃなくて、本当に悲しむとも思うし、迷惑を掛けてしまうとも思う。

 でも、これは譲ることができない。

 この感情を消し去ることも、許容することも、うまく付き合うこともできない。

 どうしても――私は西野未来を許すことができない。

 すべての準備を整えて、この家を出る時――この家で市井くんと過ごした、たったの四日だけれど――その日々を思い出して、自宅を振り返り、私は口に出して言う言葉を決めている。

 そう、最後に。この物語のタイトルの話をしたい。

 泳げないカマキリというわけのわからないタイトルにして欲しいと言われた時、私はその意味を調べた。

 てっきりハリガネムシという寄生虫に操られたカマリキが水に飛び込んで自殺をする様と自分を重ねたのかなと思ったけれど、私はちょっと違うんじゃない?と意見を言った。だって、別に市井くんは西野未来というハリガネムシに操られたカマキリじゃないんだから。

 市井くんは自分の思うままに、自分が正しいと思う選択だけをした。結果は死んでしまったけれど、操られてなんか絶対にない。

 でも、彼はそんなことすら知らなかったようで、ただ――ちょっと難しい、なんか考えさせるような、哲学というか文学的なタイトルの方がみんな読んでくれるだろ?と笑い、とにかく――誰かに読んで貰わないと意味ねーだろと言った。

 私はそれを聞いて一回は納得をしたけれど、結局は納得をできなかった。だから、タイトルを私が勝手に決めたことを、市井くんには許して欲しい。

 私が書いたのだから、タイトルを決める――それくらいの権利は許してくれるよね?

 もしもさ、この話が本になったりすることがあるんであれば、カバー裏は泳げないカマキリにするように担当さんにお願いしてみるから。最悪、逆でもいいけど。私は私が書いたんだから、私が思うタイトルをメインに出したい。

こんな私が、市井くんにする唯一の反抗くらいは――許してくれるよね?

 これから家を出て、自宅を振り返った時に――私は言う。最初から、そう決めていた。絶対に決めていた。

 そう――私は言う、この物語の本当のタイトル──『さようなら私の太陽』と。



                        終


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原題:泳げないカマキリ 【完結】 竹馬 史 @tikubahumi

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