番外・花火
ごっそりと荷物を持ってKがやってきた。
両手一杯のビニール袋には大量の火薬が詰まっている。
「ハナビしよ」
「ハナビ?」
宰相様は小首を傾げて袋を眺める。
「えーと。花火」
「花火?」
先程よりも不可思議そうな顔で繰り返す。
「まぁとにかく外出て皆でやろう。a子は既にスタンバッてるから」
駐翼場の端に広げられた紙縒りや紐のはみ出した箱を見て、シールとグールは不可思議そうにしゃがみ込む。
「ヒャッキンで買い集めてたやつ。今年の夏は花火できなかったから」
「本当に全部ヒャッキンハナビだね。Kの事だから総研特製とかそういうヤバ気な物持ってくるかと思った」
「失礼だな、総研特製は言っとくけどすげえコウカなんだからね!!」
ここで使われたコウカが高価なのか効果なのかは解らない。
Kは三人にチャッカマンを放り投げた。
「此処に火薬が詰まってるから端っこに火付けて。本来は人に向けちゃいけないものだから気を付けてね」
「本来はもなにも、人に向けちゃいけません」
「む。あ、あとこっちの方は音出るから気を付けて。他のも大概うるさいけどね」
一通りの注意が終わったところで静かな二人に気が付いて首を傾げる。
「どした?」
「こんな所で騒ぐのにも懸念があるが何より…、それは火薬でその通りな音が出るんだな?」
「うんそう。煙も多少ならず」
「…とりあえず、場所を変える提案をする」
「えっと、いいけど。広くて燃えるもの無いところね?」
「…俺の城でどうだ。少なくとも駐翼場よりはいい」
「城? シールって別に城持ってたんだ? いっつも王城にいるじゃん」
「確かに全然使っちゃいないが一応俺の城って事になってる」
「へえ、じゃあいいや。行ってみたい。そこ行こう」
ぽしゅ。
a子のもつ太めのハナビに火を点す。
じ、じじ、じゅぼぼぼぼ!
「ひゃっほう!」
それは勢い良く燃えてオレンジ、青、緑と色を変えて散る。
「意外に綺麗じゃん、ヒャッキンハナビ。ちょっとなめてたぜ」
「同感。火力もまあまああるしね」
飛び散る火花に目を焼かれながら、グールも一本手にとって火をつけた。
ぼじゅっ!じゅばっ!!
一瞬だけ弾けて闇に還る。
「??」
「あーあ、途中から火付けちゃダメなのよ。先端に軽くね?………」
a子が手解きに入る。
「ど? ハナビ」
「成程、お前達の花火というのはこういうものか。火薬の組具合で色合いを出すんだな」
「え、じゃあシールの言う花火ってどんなのさ」
「花火といえば魔力を衝突させた時の干渉光を見世物用に派手に散らす事を言うな。光絵と言う事もある」
「へぇ、じゃあもっと『絵』なんだね。まぁ、チキュウのハナビもお手軽でいいでしょ? これは見るものってかやるものだからね」
「そうだな。簡易花火はまだまだ高価でこれほど派手なものはないからな」
「でしょ。はい、持って。えい」
「ゎ、」
ぶしゃーーっ!
「手持ちじゃ一番派手なハナビ!ぎゃはは、わ、こっち向けんな!!きゃー!」
シールのジェットから逃げ延びて、ネズミハナビを数個手にとる。
相性のいい『火』遊びだからか、珍しくはしゃぐグールめがけて火をつける。
しゅるしゅるしゅるッ、
「なんや? ――ッ!!?」
パンパンパンッ!!
見事にグールの前で炸裂。
「ぎゃははははは!見事っ!」
大爆笑するKが犯人だと気付いた瞬間、ジェットに火をつけ逆手に持ち替えた。
「え、まさか・・・」
ジュバッ!!
「ぎゃー―、信じらんないッ!!」
ジェットはまさにその名の通りのスピードでKに迫る。
ハナビを人に向けて更に投げてはいけませんっ!
避け様側にあったハナビを掴んで着火させる。
暴れハナビはグールの頭の横を過ぎ去り背後でパパンッと弾けた。
「ああもう、何やってんのアンタ達!」
手持ちハナビを振り回しての乱戦になった頃、水かけ婆が現れたので乱戦は渋々収まった。
「あ、そうだ。そろそろ打ち上げ系やろう」
手持ちハナビが尽き、Kが箱を取り上げる。
端っこで線香花火を見つめていたシールとジェットが気に入ったらしいグールを呼び戻して声をかけた。
ひゅおっ、じゅおぉうッ!!
吹き上げハナビが派手に火花を散らす。
青から黄にかけてのグラデーションが辺りを照らした。
「うん、ヒャッキンのはやっぱり限界があるね。手持ちは結構楽しかったけど」
「数がある分補われてると思うが」
一つだと切ないから、と、ふんだんに着火されている花火を眺めてシールが言う。
「でもねー、高いのは一つでもっとキレイなんだよ。ねぇaさん」
「そうだな。アタシ最近あんまり花火やらないからアレだけど…。確かにちょっとちゃっちーよねコレ」
もうすっかり暗くなった空を見上げて、Kが立ち上がる。
しゅぉしゅおと終りゆくハナビにa子が水をかけると、Kが大仰に手を広げて皆を振り返った。
「じゃあ、特別に。Kが特製のイルミネーションを見せてあげるよ。あ、aさんも手伝ってね」
Kの意図に気付いてa子が了承の笑みを湛える。
「何する気なん?」
「まあ見てなって」
大気に身を任せる様に、ゆっくりと呼吸をして闇に融けるK。
静かに呼吸を合わせ、Kと同調するa子。
Kの身体が仄かに朱銀色に染まり、フェニックスと白龍を取り込んだのが解る。
a子の身体も深い青を湛え、青龍の息吹を伝えている。
Kが紺碧の虚空に手を振ると、さらっと青白く光が弾けた。
それに合わせてa子が宙に水を撒く。
水は光を反射して虹色に世界を照らした。
淡く広がる光の波を散った水滴が収束させて光の通る道を作った。
夏の終りに相応しい、鮮やかな光と激しく踊る炎、涼しげな水飛沫の共演。
光のステージで楽しげに舞う術者二人も、作り出された世界の雰囲気に飲まれて神秘的に見えた。
やがて静かに終演し、手を振り二人は戻って来た。
「ど。どっちの世界の花火とも違うけど、キレイだったっしょ?」
「文句無しだな。俺たちしか見ていないのが勿体無いくらいだ」
「おう。巧いもんやな。」
双方から素直に褒められ、Kは調子に乗って優雅に片足を引いて礼をとった。
「aさんサンキュー。ピッタシだったよ、完璧。流石」
「ちょっと危なかった。でも久々に大技だったね」
Kの気分次第のダンスに付き合って踊るのは難しい。
Kもそこは解かっているから、aの完璧なリードに驚き、喜んだ。
「なかなか見せるもんじゃないから、自慢しなよ」
「正しくは、なかなか成功するもんじゃないから、ね」
a子の突っ込みにまぁねと笑って、Kが散った花火の屑を拾う。
「じゃ、御片付け。遊んだ後はちゃんと片付けましょうね」
そうして、とある秋の日は過ぎていく。
冬の始まりを伝える風が吹き抜けて、楽しかった記憶の名残りの火薬の匂いを攫っていった。
KのーとinS Re: 炯斗 @mothkate
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます