第3話 ビーチクラブ・ボーイズ
ぬーすんだバイクで♪ なーんて曲が昔あったなぁ でも盗まれた
ほうにとっちゃそんな悠長な話じゃない、苦労して働いた金で
買ったり、苦しいローンを払い続けてる上に余計なチューニング
までして心血注いだ宝物が、ある日突然消えるのだ。
殺意すら覚えるほどの怒りを抱えて交番に駆け込むと大抵の場合
こう言われる。
「あーバイクの盗難ね、こう言っちゃなんだけどもう出てこないと
思いますよ、こういうの、被害届出しますか?」
被害届が増えると事件の解決率が減るから受けたくないって事、
憔悴しきった友達と交番を訪れて何度となく聞かされた言葉だ、
なんか変だよな、空き巣に入られて100万円盗まれたら大騒ぎに
なるのに、200万近いバイクを盗まれても、
言わなきゃ指紋も取らないんだ、今回はそんなバイク盗難事件に
僕が巻き込まれたお話。
ある冬の金曜日、僕はいつものみちかわにいた、冬でも
集まる台数は20台程もある、こんな寒い日にバイク乗って
こんなトコ来てるなんて、みんなアホじゃないかしら?
地面に座り(どこでも座り込んじゃうのがバイク乗りという人種)
そんな事を考えているといつもの騒がしい三人組が現れた、
YAMAHAのR25
HONDA CBR250RR
KAWASAKI Ninja250
のニーハン(250ccのバイクの事)トリオ
トモ ヤス アキラ の20代の三人組だ、
夏のビーチで知り合ったという彼等は ビーチ・クラブ・ボーイズ
と名乗っていた。
「ちーすヒロさん!」「「ちーす」」口々に挨拶を口にする
最近この三人には妙に懐かれているのだ、
「よう、元気か?」
「さみっす」「寒さやべっす」
実は僕はライダースジャケットの下に電熱ベストを仕込んでいる
USB電源で作動する電気毛布みたいなやつだ、オジサンに無理は
禁物だしね
「ところで見て下さいよ、出来ましたよ!俺らのチームステッカー
これからみんなで貼るんですよ」とアキラ
見せられたステッカーはフワフワした雲の縁取りで、ヤシの木に
女の子、そこにカタカナでビーチクラブボーイズっとロゴが入り
オマケにホログラムでキラキラ光る馬鹿さ加減だ、
「いいねぇBLBにふさわしい馬鹿さ加減だ、完璧だね」
「ちょっヒロさんBLBはやめてくださいよ、
内緒なんですから」っとヤス、
ふははっ皆もビーチクラブボーイズだからBCBだと思うだろ?
違うんだなコレが、彼らのチーム名は海の渚の香りがする
ビーチ・クラブ・ボーイズじゃないんだ、会員だけが知る
本当の名前は ビーチク・ラブ・ボーイズ
無敵のDT軍団だ、以前アキラがうっかりそのことを僕に
話してしまい、
それ以来僕はそのことをネタに彼らをイジっている、
それを踏まえてステッカーをよく見ると雲の形はオッパイに
なっている、底抜けに明るい憎めない3人組
「ヒロさんも貼りましょうよ」っとヤス
「冗談じゃねーよ、どんな罰ゲームだよそりゃ」みんなで
わははっと笑う、
「でもよう、俺コレ貼ってもスグ納車なんだよな」っとトモ
が言う、彼の愛車はNinja250だが他の2台よりもボロっちい
買い替えるために必死にバイトを掛け持ちして金を貯めて
いるのは以前から聞いていた。
「お、いよいよ金貯まったんだ、マジかよ」っと僕
「はいーーー契約してきましたよぅ」
「何にしたんだ?」Kawasaki魔人な僕は当然Kawasakiを
期待している、
「えへへ、6Rです」
「マジか?うおおおお、良し、缶珈琲オゴったる」
ここに来ても飲み物さえケチっていたトモにこれまでも
僕は何度か飲み物をオゴってやっていた、6Rかぁ
Kawasakiの600㏄クラスの本気SS かなり早い
レースのベース車輛として開発された凄いやつだ、
「しょうがない、ステッカーは4枚あるからヒロさんのぶん
を6Rに回そう」っとトモ
「アホか、勝手に僕を勘定に入れるんじゃない」みんなが
また笑う、その夜BLBのバイクのタンク全部にステッカーが
貼られた、トモのステッカーが傾いて貼られているのは
貼る時にアキラがわざと押したせいだ。
数日後のある遅く起きた日曜日の朝、
何の気なしのV-tubeタイム
適当にネットをサーフしてると面白い物を見つけた、
山の中、抜けるような青空、崖に立つ女性
バックに流れるピアノでは運指出来ないような打ち込み
によるメロディは、ポップでキャッチーだ
そしてほんの少し毒のようなものがある、良い曲には
あるよねそう言うの、
ちょっとおかしなイントネーションとか、
あまり使われないような言い回し、過激な心情を現した歌詞
とか、思わず真似しちゃうようなトコロ、それがこの曲には
確実にほんのちょっぴりある気がする、
上空のカメラが女性にズームしてゆく
歌っている女性は Oh! 姫 じゃん
ドレス姿の彼女は凄く色っぽい、
ははっこの動画を見てる奴ら、バイク乗ってるときの装甲
ビシバシの姫の格好みたらひっくり返るぜ、きっと
なるほど、これが姫とユウジの妹ユリのユニットか悪くない、
どころか、いいね、再生数も公開スグなのに
中々のものだ、ユリちゃんは裏方に徹するのかな?
彼女も姫に負けず劣らずカワイイ系の
ルックスなのにモッタイナイ気が・・・
ま、とりあえず いいね しとこう。
ここで腹に何か入れたくなって動画を中断しキッチンへ、
ペペロンチーノを作っているとスマートフォンに
着信が入った,パスタの茹で上がりに実にタイミングが悪い
僕は受診ボタンをクリックしたあと、耳と肩でスマートフォンを
抑えパスタ作りを続行した、ここまで工程を進めたパスタを
パァにしてなるものか、なんせ今日のペペロンチーノには
邪道&贅沢にもプリプリの牡蛎が五つも入っているのだ
失敗は出来ない、絶対にだ、うわっちぃ
「あいよ、トモ、どうかした?」
「ちーす、ヒロさん今日納車なんすよ6R!
今から取りに行くんですけど一緒に行きませんか?」
「おお、マジか?いくわ」
僕は待ち合わせ場所と時間をテキトーに打ち合わせて
スマートフォンを切った、
向かった先はマッドバロン あの全国規模量販店の松戸店だ、
だから松戸バロン、略してMadバロンだ、このことは
お店の従業員は誰一人知らないが客はみんな裏でそう呼んでる、
ファンキーな店長の人柄に由来するとも言われているが、
真相は定かではない。
トモは先に来て手続きその他を進めている手はずになって
いた、
「ういーす、皆さんお元気ですか僕は元気です」一気に言い切ると
「ああ、毎度!」愛想よく店長が返答した、僕もココで
何度かバイクを買ったことが事があるから店長とは顔見知りだ、
愛想は良いのだが眼鏡の奥の目は何故か笑ってないような
気がする、まぁ何時もの事だ、
手続き終わるまでは暇だし、店長の軽口にでも付き合うか
っと思ってたら、
「今日はどれ買ってく?」、おっと機先を制されちゃった。
「えーと、じゃぁねぇ、そのCBRとこのR1-Mちょうだい、
ってアホか、そんなスーパーで大根買うような手軽さでバイク
買う訳ねーだろ」っとやり返す、
「ところで、さ、ヒロちゃんも気を付けなよ、最近すごく
バイク盗難が流行っててさ、ウチのお客さんも
3名程ヤラれちゃったよ」
「マジで?プロ?」
「そうみたい、手口から言って完全にプロだって」
「やっぱ海外行っちゃうの?」
「ウチのお客さんのはカウルにでっかい女の子のキャラの絵
が入ってるいわゆるイタ車だったんだけど、盗まれて2ヵ月後に
は向こうのサイトでそのまま堂々と販売されてたって」
「マジかよ?何やってんの警察、舐められ過ぎでしょ」
「ヒロ君防犯は大丈夫?」
「う~ん、チェーンロックが3つにディスクロック1つ、
防犯カメラが2台かな、でも足りないかな?
追加でボウガンでも買っておくわ、ひひひ」
「やっば、矢ガモじゃないすか」
「いいんだよ、盗っ人なんか、首跳ねて四条河原に並べときゃ
いいんだ、端から順にしょんべんぶっ掛けてやるわ」
「死んだらチャラじゃないんだ?」
「当然でしょ、」
はははっと笑いあう、
そうこうしている間に手続きが終わったようだ、トモと一緒に
車輛の受け渡しに地下の駐車場に向かった、トモは少し
緊張してるようだ、
新車のZX-6R 真新しいライムグリーンが目に眩しい
栄光のSBK優勝記念カラー
トモは説明を受けながらも「やっべ」「やっべ」
っと舐めるように新しい相棒を見ている、
まぁ当然その気持ちはわかる、そうだよな
あまりの喜びようにコッチまで嬉しくなってくるよ、
店員が説明を終え帰ってからも飽きずに愛車を眺めるトモ
「あ、そうだ、アレ貼らなきゃ」・・・まさか
「じゃーん、ビーチクラブボーイズ特製ステッカー」
ああ、やっぱり貼るんだソレ・・・
トモは迷いなくタンクの給油口の下辺りにステッカーを
貼った。
「嗚呼~あ、貼っちゃった。」
「いや、残念そうに言わないで下さいよー」
「い、いや。イイんじゃないかな」
「あのですねぇ~コレ絶対ご利益ありますって」
「ご利益なんてあんの?ビリケンさんの足の裏みたいだな」
「もうちょっとマシな例はないんですか?」
マシな例?もちろんある、ローマのジュリエットの像とかね、
そんな立派なものでは断じてない、と僕のなけなしの知性は
判断したのだ、いや、それはそれでビリケンさんに失礼か
「これから らい子 行きましょうよ」
「ああ、いいよ」
初日からコカしたりしないように、しっかりエスコート
してやるか、まぁバイク買ったらまず らい子ランド だよな
夜中、急な着信で叩き起こされたのは
それからたった2日後だった。
ただならぬ時間の着信に僕は驚いた、ん?何だよ
暗闇で眩しすぎるスマホの画面に、起き抜けの涙目が
順応出来ない、
画面を読むのにたっぷり5秒はかかった3:35分?
んん?アキラだって? とりあえずスマホに出る、
この時間だ、どう割り引いても、緊急事態以外ありえない
「ん、もしもし」
「あ、よかったヒロさん!大変なんですよ、
トモの6Rが今しがた盗まれて、それを追ってヤスが原チャで
追っかけてて」
「まてまて、情報が多過ぎて処理出来ねえって、落ち着け、
な、で、順番を追って話せ! まずは今どこよ?」
「すいません、俺もパニくっちゃってて、今、ヒロの家です」
ヒロの家はウチからバイクで20分の距離だ
「わかった、とりあえずソッチにすぐ行くから、待ってろよ」
「すいません、お願いします」
ったくどうなってんの、これ? えっと靴下、軍パン、上は
ワークマンズのイージェスでいいや、
僕は2分で着替えて3分後にはバイクのカバーを
剥ぎにかかっていた、
自衛隊か消防職員の資質あるんじゃない僕?
くそっロック4つ外すのはこういう時
焦れるな、暖気は、まぁスクランブルだ、走りながらだな、
思うようにグリップしてくれない冷たいタイヤを
だましだまし なだめながらステップを刻む、
道路は静まり返っていた、時間的には当たり前か
ヒロの家の近くまで行くと家の前でトモとアキラが待っていた
トモはパジャマ姿、右手に懐中電灯をもっている、アキラは
Tシャツにジーンズだ、どちらの格好も冬向きじゃない
近所の人も2~3人家から出てきてて心配そうな顔で
口々に「何?」「え、泥棒?」などとヒソヒソ話している
僕は近所迷惑にならないようエンジンを切って二人に近づいた
「ヒロさん、どうしよう俺」っとトモ
「すいません、俺らどうしたらいいか分からなくて」アキラが言う
バイクを降り、ヘルメットを脱いだ僕は言った
「いいよ、それより状況を説明して」俺は努めて冷静さを
貫いた、俺が焦れば彼らも焦るだろう。
「いいか?トモ、俺が話して」っとアキラ
「ああ、頼む俺、説明上手くないし」
「んと、俺らトモんちで集まって遊んでたんですよ、散々ゲーム
やってみんなで雑魚寝してたら、ヤスが飛び込んできて
「おい、泥棒だ、誰かトモのバイクいじってるぞ!」って、
で、「バイクもう積み込まれてるってやべーよ!」
そう言って原チャの鍵を引っ掴むと外に駆け出したんすよ
俺とトモもスグ追って外に出たんですけど、
見たのは追いかけていくヤスだけで・・・」
「警察には電話した?」
「あ、はい、さっき、じきに来ると思います」トモは寒さで
細かく震えているが不安のほうが勝っているのだろう
スマホを握りしめて走り去った方をじっと見ている。
「あとはヤスからの報告待ちか・・・」
ヤスは三人の中では一番冷静になれるタイプだ。大丈夫とは
思うが、友達の事では張り切り過ぎるキライがある。
5分程の後、警察のパトカーが来るのとトモの携帯に
ヤスからの着信が入ったのはほぼ同時だった、
ヤスは開口一番「悪い、やられた」と言った
「どうした?怪我か?」っとトモ
「いや、俺は無事なんだけど・・・追跡は出来ねぇ
原チャ潰された」っとヤスは言った。
僕は警察に対応しなきゃいけなくなったトモに代わって
ヤスと話す、
「とりあえず怪我無いんなら僕がソッチ行くから
僕のスマホに掛けなおして」っと伝え、
とりあえずヤスの元に向かうことにした、場所は6号線沿いの
二輪専門館(バイク用品店)の近くだ、
ヤスはフロント回りのねじ曲がった原チャと共に歩道に
いた、缶のHOT飲料を飲んでいる、あわてて出たためだろう
ヤスも上はTシャツだけだった、下はヨレヨレのスエット
メットも持っていない
僕は寒さに震えるヤスから事の顛末を聞いた、
「俺、二人が寝た後スマホでV-tube見てたんすよ、そしたら
充電無くなっちゃって、原チャに充電器あるの思い出して
近所迷惑にならないようにそっと外に出たんすよ、
そしたら6Rをフルスモークのハイエースに積み込んでる
3人組とバッタリ出くわしちゃって、
3人じゃ勝てないっすから2人呼びに行ったんすけど・・・
間に合わねーなって感じだったからとりあえず
今日乗ってきた原チャで追いかけたんですよ、
上手く6号に出るところで追い付けたのはいいんですけど
6号を柏方向に右に曲ったタイミングでアイツらに
見つかっちゃったらしくて、振り切るつもりかな?
って最初思ったんですけど、そこの9時閉店の
ガススタの所で犯人のハイエースが止まったんですよ、
俺もその後ろに原チャ止めて、
ひとまず相手の出方みようかと、そしたら車から
「わかった、バイクは返す」って聞こえてきて、
俺、原チャ降りてハイエースの運転席のほうに
歩きはじめたら、ハイエースが猛スピードでバックしてきて
グシャッって原チャ潰して・・・
そのまま逃げやがったんすよ、糞っ 迂闊だった」
「ナンバーは?」
「駄目っす、なんか段ボールみたいなのがテープで
貼ってあって」
僕の頭の中で カチリッっと何かのスイッチ
が入った感じがした、ここまでやられちゃな、くそっ
しばらくすると通報でパトカーが駆けつけてきた
ヤスが一通りの状況説明をすると警察官は同じことを
2度3度繰り返し聞いてきた、まぁこんなもんだよな
事情聴取した警察官は明日もう一度署で聞きたい
っと言い残しパトカーは帰っていった、しばらくするとアキラが
メットと上着を持ってCBRで現れた、
「ヤスこれ着ろよ、風邪ひくぞ、とりあえずヒロさん
今日はこれでお開きにしましょうよ、ヤスは俺が
送っていきます、原チャは・・・今日はそこの牛丼屋の
駐車場に頼んで置かせてもらいましょう」
「だな、ヤス、明日の警察署には僕も行く、その後3人で
今後の事を話し合おう」
そうしてこのウンザリするような夜は終わった。
次の日、僕とトモとヤスは再度の事情聴取のため
南松戸警察署に出向いた、
南松戸警察署は6号線沿いにある、6号線に背を向けるように
建てられた建物は割と新しめの外観だ、
トモが再度の事情聴取に応じている間、僕はヤスと生活安全課
の前の背もたれのないベンチに座って話し込んでいた、
壁には交番なんかでよく見る指名手配犯の顔写真が並べられた
例のやつ(おい!小池 的なやつ)や、行方不明の
女の子の情報提供を求めるもの、自殺した人の遺留品から
本人を探そうと情報提供を求めるもの、(赤いマフラーとか
冬の話らしい)
この警察署眼前の路上で5月に起こった発砲事件の
情報提供を呼びかけるものもあった、犯人は渋滞の中
ビックスクーターで車を襲撃、逃走しており、
スクーターの特徴などが事細かく書かれている、まぁ署の
真ん前でやられてるんだ、メンツ丸つぶれだからポスターの
気迫も凄いな、偉い人の首でも飛んだかね?
ヤスが言う
「警察、トモの6R探してくれますかね?」
「まずないだろうな、バイクの盗難で警察が動いてくれたこと
なんて聞いた事ないし」
「でも、俺のあの原チャ見てくれたらちょっとぐらい普通の
盗難じゃない扱いとか」
「っと言っても彼らにとっちゃ只の器物破損事例だろうな」
「そんな、トモのやつここ1~2年ずっと必死に貯めてた金
っすよ、牛丼行っても並、ファミレス行ってもドリンクバー
無しでカレーとか超必死で貯めた金で買った6Rなのに、
こんな事なら車に接触しとくんだったな、そしたらひき逃げ
で捜査してくれたかも」いつもの僕なら「食い物の話ばっかだな」
っとでも言う場面だが、流石にそうは言えない
「おいおい、物騒な事言うなよ、僕は君たちが無傷だった
だけでもホッとしてるんだぜ、それにな、そのポスター見ろよ、
目の前の道路で起こった発砲事件さえ解決出来てないんだぜ、
捜査してくれたところで、な、過剰な期待するなよ」
「おいおい、容赦ない市民の声だな、おじさん泣いちゃいそうだわ」
ふいに右から声をかけられ驚いて見上げると久木山だった、
「バイクの盗難だそうだね、災難だったね」
初見のヤスを見て急に口調が柔らかくなった、
「友達のバイク見つけて下さいよ、おまわりさん」
「うん、こっちとしても出来る限りの事はするよ、君、スクーター
の子だろ、とりあえず怪我なくてよかった」
ヤスが呼ばれて部屋に入って行く、
久木山は何故か立ち去ろうとしなかった、
・・・うへぇコイツと2人かよ勘弁してくれ そう思っていると
「いつぞやの軽のお姉ちゃんの件では世話になったな、つか、
オマエ知ってたんじゃねぇか」ユウジの妹の事故の件を言っている、
「誤解だよ、あの時点じゃホントに何も知らなかったし」
「ふ~ん、まぁいいや、ところでまたオマエが関わってるんだな」
「後輩みたいなもんなんだよ、ほっとけなくて、他にもバイク盗難
頻発してんだろ、なんとかなんないの?」
「よく知ってるな、俺個人としちゃ動きたいんだがな、今は
俺も他の件で忙しいしなぁ、正直後回しにはなるだろうな」
「悠長な事言ってるなぁ、こんなのすぐにコンテナ積まれて海外
行っちゃうじゃねーか、2カ月ほどで盗まれたバイクがそのまま
海外で売られてるんのSNSで見たぜ、船便なの考慮に入れりゃ
一週間か二週間で箱詰め完了、即出荷 だろ」
「こりゃ驚いたな、今じゃ一般人のほうが情報速いんじゃないか?」
「警察も時代に追い付いてよ」
「ふむ、なるほどな、じゃオマエの line君 のアドレス教えて
くんないか?」
「なんでそうなるんだよ」
「市民からの情報提供募ってんだよ俺としては」
「他あたってくれ、アンタからスタンプとかきたら僕卒倒しちゃうよ」
すると久木山は急に真面目な顔になって言う
「いいか、こっから先の話は俺とお前の個人的な話な、
俺はお前がお前さんなりの道理でもってガキどもの面倒を見てる事を
知ってる、が、お前はガキどもとは違って世の中の仕組みってのも
ちゃんと利用できるだろ、手に余るような事態になった時に知り合いは
多い方がいいぞ、
あー何なら298を突っ走ってる緑色の彗星のようなbikeの捜査、先に
しちゃおうかな~」
「お前ロクな死に方しないぞきっと」
「警察官になった時点であきらめてるよ、それは」
俺はしょうがなく line君 のアドレスを交換した、
交換しているあいだ中、イラっとした僕の頭の中では80年代の
大ヒットTV刑事ドラマ「太陽に放て」の数々の殉職シーンを思い浮かべて
俳優の顔を久木山とアイコラしてやった、どれがいいだろう?
倒れてエレベータのドアに挟まれてるやつが一番しっくりした。
夜みちかわに集まって今後の作戦会議を三人でした、
警察が頼りにならない以上、自力で出来るところまでやる、
それが僕ら4人が出した答えだった、
絶対取り戻してやる!
みちかわなのは三人が一番集まり安い距離にあるからだ、
ベンチにアキラ、僕、ヤス、トモと並び分かっていることを順に
スケッチブックに書き出してゆく、書記はアキラ
一番字が綺麗なのだ、
まず
・犯行は18日の午前3時半
・犯人は3人 バイク盗難は手慣れたプロ
・うち一人はヤスの証言から関西弁のニュアンス
・同一犯かもしれないバイク盗難が頻発している
・犯行に使われたのはフルスモークの白のワンボックス
ナンバー隠蔽でヤスが言うには (有)の消された文字あり
ヤスの原チャにぶつけた傷もあるハズ
・高速三郷方面には向かわず6号を柏方面へ
こんなところか・・・
正直、砂漠で針を探すようなもんだな、情報が少なすぎる、
「何してんのぉ~」背後から急に女性の声がして、僕と
ヤスの間に小さい整った顔が差し込まれた、 姫 だ、
「ちょ 驚くじゃん姫」っと僕が言うと
「なに?なに?何それ?」っと姫は興味深々だ
とりあえず今までの経緯を一通り説明した、瓢箪から駒って
事だってあるかも知れない、味方は多い方がいいに決まってる
「なにそれ、許せない、私も協力するよ」
「ありがと、頼もしいや」僕は気のない返事を返した、
「まずは情報を集めようよ、T-ツイートとかline君とかに
書き込みしてさ」
「拡散するならT-ツイートかぁ、でも僕フォロワー少ないしなぁ、
一回5000人以上までいったのにアカバンされて
(アカウントを運営側判断で凍結されること、この際フォロワーは
0にされる)
今じゃ50人程だよ、この3人も似たようなモンだけど・・・まぁ
やらないよりマシか」
「えへへぇ~ わたしフォロワー6000人超えてるよ、協力して欲しい?」
「ええ、ホントウっすか?是非是非!」美人に耐性のない
ビーチクラブボーイズは大喜びだ、お前らバイクどうでもよくなってない?
が、姫は僕だけを見て駄目押し
「どうする?貸しにしとくけど」
ぐっ ぐぬぬー ま、まぁ後輩モドキ達の為か
「うん、協力お願いします、玲奈さん」
一瞬キョトンとした姫だがすぐに
「しょうがないなぁ、じゃ、じゃぁ line君 のアカウント交換しとこうか」
と引き受けてくれた、
その日のうちに今回の盗難事件は瞬く間に拡散される事になったのだが
僕やビーチクラブボーイズが一生懸命考えて投稿した書き込みをヨソに
姫が騎兵隊(姫の囲い)のIT担当と考えた文面と写真(ヤスの原チャ)
はすぐにバズった。神様って不公平だよな,
ちょっとスネた僕は、息抜きに姫のT-ツイートを、見てみる事
にした、美人は癒されるし情報は多いほうがいいからね、
バイク、顔、スタイル、ユリとのユニット
いろんな情報が見れた、ついでに過去の書き込みをざっと見ると
姫のフォロワーの女の娘がニンジャ650の盗難にあっていた、
・・・あのオンナ 最初っから今回の件カラむ気マンマンだったろ
やられた、女って怖い
僕は今回の件について色々と考察してみた、思考を加速させる、
バイクで緊急事態の刹那に猛烈に考えを巡らせるあの感じだ、
引っ掛かる部分はある、
道順からいって犯人らは外環の下道に逃げ込むのは容易だったはずだ
あの時間、あの真っ直ぐで空いている道ならば原チャをチギるなど
簡単だ、それこそ高速に乗ってしまえばヤスは手も足も出なかった
ろう、リスクを負ってまで速攻でヤスの原チャを始末したのも
何か意味があるような・・・
犯人は盗んだバイクを海外に売り飛ばすプロだ、
恐らくコンテナに詰め込んで・・・だとするならば船賃も考慮に入れれば
複数台、出来るだけ多くのバイクを出荷しなければペイしないだろ、
以前SNSにあがってた埠頭での摘発例では20台近くが詰め込まれていた、
っとすれば、一時的にとはいえそれほどの台数を保管する場所が
必要だ、
倉庫・・・ いや、よくある倉庫の前に駐車場があるタイプじゃ
駄目だな、犯行時間が3時頃だ、4時5時にバイクの積み下ろしを
毎日のようにしてたら怪しまれる、新聞配達なんかが動いてる時間だしな
倉庫なら車ごと入れるくらい大きいもの それなら車を中に入れてしまえば
やつらにとって安全に積み下ろしが出来る、が、そんな倉庫、維持コスト
もかなりかかるだろう、なにしろ本来の倉庫としての機能は発揮できない
盗難専用倉庫・・・しかもコンテナに積み込むのも容易じゃない
やるか、そんなの?違うなあ・・・僕だったらどうする?
こいつらを、SNSによく登場する窃盗団だと仮定すると、盗んだバイクを
ずっと寝かしていたりはしない連中だ
ばばっっと盗んでぱぱっっと出荷するスタイル、保管している間のリスクを
低減させる狙いもあるんだろう、だとするならば・・・
ワンボックスで盗んでるんだ、一日に多くて二台か三台を毎日のように
盗む時期があるハズ、そんなスタイルに適した保管場所
やっぱ郊外の倉庫?・・・そういえば噂を聞いた事がある
三メートルはあろうかというような鉄板に囲われた解体ヤード
16号沿いにあるそのどれかが盗難車をバラシて
海外に売り飛ばしている・・・と ネットでの噂っと一笑に付していたが
確かに、ああいう施設なら人目に触れずコンテナに積むのも出荷するのも
機材を揃えておくにも絶好だ、しかも盗みを終えたのが3時半頃だ
高速を使わず、下道で何時間も移動すれば朝になってしまう、
案外近い場所に運び込んだのかもしれない、
そう仮定すれば、6号をあのまま真っ直ぐ逃走すれば、20分足らずで16号に交わる
それならなるほどヤスの追跡を早めに切らなきゃならない訳だ・・・
色々と辻褄は合う、しかしどうする?16号沿いの森に覆われたような
ヤードはあの近辺20や30ではない、どうやって絞り込む?
・・・駄目だ、情報が少なすぎる
頭がオーバーロードしている、耳から煙が出そう、ストップ!ストップ!
効率よく拡散したにも関わらず有力情報は得られない、
意気消沈しのかけた僕たちに2日後、意外なところから福音はもたらされた。
金曜の仕事終わりの午後7時頃だった、SNSの line君 の着信音が
鳴った、line君無料通話 間の抜けた発信音
発信者は ユウジ っとある、誰だっけ?
とりあえず出ると
「よう、久しぶりだな」ああ、スティール・ハートGT-Rのユウジか
「ああ、イケメンのユウジ、久しぶり、あれ? line君 のアド交換したっけ?」
「妹経由で姫様に連絡とってもらった、オマエ姫とはline君繋がってるだろ、
ちょっと急ぎの用だったしな、悪かったら謝るよ」
「いや、別にアンタに恨みはないし、俺のアドなんて価値ある訳でもねーから
全然いいよ」
「助かる」
「ところで用ってなに?」
「ああ、オマエにはでっかい借りがあるしな、それを返したい」
「んん?何の話?」
「お前面白い事やってんのな、T-ツイート バズってんじゃン、その情報だよ
しっかしオマエ人気ないな、フォロワー50人ってwww」
(奴のフォロワーは2万に迫っている)
「ほっといてくれ、地味に傷ついたぞwww ところで情報って?」
「ああ、なかなかの情報だぜ、その盗まれたバイク、タンクに変なステッカー
貼ってないか?」
「ああ、貼ってある、キラキラの馬鹿みたいなの」
「なら確度は高い、これからみちかわで会えるか?
今、目撃者が一緒なんだ」
「ホントかよ、わかったスグ行く、関係者に声かけていいか?」
「かまわない、じゃ、8時頃な」
「わかった」通話を切ると僕はビーチクラブボーイズと姫に連絡を入れた。
みちかわには8時頃着いたのだが既にほとんどの関係者は集まって
いた、
遠くからでもシルエットでGT-Rに並んでインプレッサWRX
たしか涙目って呼ばれてるモデルだ その傍らに2名の男、
あとはバイク乗りが数人見える、バイク乗りは格好がごついからな
「悪い、遅かった?」僕は言った
「いや、みんな今しがた着いたばかりさ、メンツの自己紹介しないとな
俺はユウジ スティール・ハートの現リーダーをやってる、
で、彼がウチのメンバーのアツシだ」
え?リーダーやったん?知らなかった
「私はヒメノ、こっちがシンタニ君」いつぞやの病院で会った眼鏡くんか
「僕等はビーチクラブボーイズです、今回盗難にあった6Rはウチのチームの
やつなんです、協力ありがとうございます。」アキラが言う
「えっと、ヒロです」なんか一番雑魚っぽい自己紹介だな、僕って
さっそく自己紹介もほどほどにアツシ君の話を聞くことにした。
「19日の早朝の話です、日にち合ってますか?」とアツシ
「間違いない、僕らが遭遇したのは19日の午前3時半頃だし」と僕
「じゃぁやっぱり時系列的に繋がると思います、順を追って話します
俺はいわゆる首都高攻めの平日組なんですよ、あの日、休日の夜を
首都高で楽しんだあと、何か腹に入れようと思って16号線の大室の辺り
のセブンレイブンに入ったんですよ、だいたい午前4時頃かな?
クルマの中でカップ麺食ってる時にフルスモークのハイエースが入って
来たんですけど、何がどうとは言えないけど嫌な感じのやつ
で、40歳位の奴が一人出てきて弁当買いに行ったんですよ、
一直線に弁当売り場に向かってたし、車の中にいる奴に何か声掛けてたから、
一人じゃない事はスグわかったんです、まぁべつに珍しい光景じゃ
ないんですけど、で、俺カップ麺食い終わったんで容器を捨てに車
出たんですよ、スープこぼさないようそうっと、入り口辺りで
ハイエースから出てきたやつが後ろからぶつかってきて
なんか粗暴なやつで回りとかどうでもいいようなタイプの
ガタイのいい輩なんですけど、結構勢いよくドンってきたから
俺にもソイツにもスープかかっちゃって
「んだよてめぇ、どうすんだよコレ」ってきたから俺も
「ちょっと待てよ、アンタからぶつかってきたんだろうが」って
口論になっちゃって
「ダセぇ車乗りやがってキモオタブルーとか草生えんな」
とか車の事まで言われたんでこっちも
「うるっせーよ乞〇ドカ〇野郎、土でもカマでも掘ってろ!」
って言ったら
「てめぇ取り消さねえと殺すぞ」ってワンボックスのスライドドア
開けてバール取り出してきて、流石にヤベェ コイツ逝っちゃって
んわとか思ったんだけど・・・中にはハイエースには不釣り合い
なピカピカの新車みたいなライムグリーンの単車、
たぶんカワサキだろ?俺でもわかる、
タンクにはピカピカ光る変なステッカーが悪目立ちしてて、
なんだコイツら?バイク屋やレーサーには見えないし、
まさか・・・
とか思ってたら、弁当買いに行ってた奴が戻ってきて
「何やっとんや弁当が冷めるやろうが、行くぞ!オマ〇▽◇×」
って、言い終わらないうちに開いてるスライドドア見て
血相変えてさ、バール男を突き飛ばして、ドア閉めたんよ
それで中にいるだろうもう一人の奴に「何やっとんねん、止めれや」
って怒鳴ってたから車には3人いたんだろうな
「早よ乗れ!行くぞ」ってそのオヤジが言ったらバール男も
素直にしたがって車に入っていったから、正直「やっべ、助かった
収まってよかった」ってホッとしたんだけど、
ユウジさんから次の日にT-ツイートにバイク盗難情報求ムの
書き込みじゃない、あれだ!!って思って」
「なるほどね、間違いなくやつらだな、問題はその後
何処に行ったか?だよな」っと僕が言うと
「おいおい、案外鈍いなヒロ、よく考えろよ」
え?んんー
「あっ」
「気が付いたか?」
「ああ、弁当が冷める事を気に掛ける奴が 弁当を温めた
って事は、そのコンビニから弁当の冷めない所に奴らのアジトが
あるって事か」
「その可能性が高いだろうな」っとユウジ
僕はこれまで考察したことをみんなに説明した、
「ヤードねぇ、なるほど」
シンタニは早くも付近のガーゴイル空撮画像を呼び出している
ガーゴイルマップの実写空撮サービスだ、
「半径2キロメートルなら、4つほどに絞れる」シンタニが言う
おお、一同からどよめきが漏れる、
「有限会社らしきものは2つ、一つは重機置き場だ、屋根もない
空撮映像でも重機がビッシリだ、もう一つは倉庫に事務所らしき
プレハブ、コンテナ 白いワンボックスも見える、キマリだな」
「で、どうすんの?」姫が僕を見て言う、続いて全員が僕を見る
ええーっと思いつつも僕は考えを言った。
「まずは証拠を掴みたい、盗まれたバイクを拝まない事にはね、
でもこのヤードは高い塀に囲まれている、流石に付近を
うろつけば奴らも気が付くだろう、かといってこの情報を
そのまま警察に言ったところで動くとは思えない、中を気が付かれずに
見る方法か・・・」
「あ、シンちゃんアレ、アレ使えない?」姫が顔の横で手をヒラヒラ
させる、
「使えるね」っとシンタニ
「何?それ」僕は聞いた
「ドローンだよ、空撮 姫のV-tubeで見ただろ?」
「おお、あれ君の仕事だったんだ、でも流石に昼間じゃ見つかるだろ
夜でも使えるのか、ああいうの?」
「大丈夫ライトも付けてあるし、僕のは音もすごく小さくチューン
してある、動画はもちろんスクショ(スクープショット)も撮って
送るのは簡単さ、もちろん夜ドローンを飛ばすのは違法だけどね」
「面白くなってきたな」ユウジがニヤリと笑う
「俺ら車乗りもアメリカの25年規制が外れたGT-Rやスープラなんかが
ボコボコ盗まれててムカついてる、馬泥棒に一泡吹かせようぜ」
「わぉ!馬泥棒は縛り首よね」っと姫
「もう無責任な事言っちゃってサ、一歩間違えたら犯罪者じゃん」
「何言ってんだ、スピード違反だけでも十分犯罪者レベルだぞ、お前」
ぐうの音も出ねぇ もう腹をくくるしかなさそうだ。
「わかった、じゃぁこうしよう、明日の夜、空撮組は現場から映像を
ここみちかわに送信する、
ここには直近1カ月以内にバイク盗まれた奴を集めておいて自分のバイクを
確認させる、ナンバー見ればわかるだろ、連絡は奴らに漏れないよう
念の為SNSは禁止、手間はかかるけどTEL回しまくろう、で、
証拠を掴んだら後は警察に任せる。バイク仲間から怪我人や逮捕者
出したくないしな、襲撃して取り返すとかはナシだ」
「なんか地味ねぇ」っと姫 あのねぇ
「わかった、車はウチが手配する、機材の事考えたらバイクって訳には
いかないだろ」ユウジが言う
「無理じゃないけどその方が助かるな」っとシンタニ
ビーチクラブボーイズはやけにおとなしかったが
更に計画の細部を詰めてその日はお開きとなった。
そのヤードは例のセブンレイブンから1キロくらいの位置にあった、
16号を柏に向かって大室の交差点を左に、500メートルばかり進むと
一本道との分岐があった、ヤードはその分岐を右に入った先にある、
森の中にある、窃盗団の白い城 逆に言えばヤードに向かうには
その真っ直ぐな道を行くしかない、道の途中には監視カメラまで
あった。
ドローン隊は4人編成でドライバーはユウジ、
ドローン操作がシンタニ、アツシが見張り役だ
車はスティール・ハートのメンバー経由でプリウセが
調達されていたハイブリッドは音が小さいから、だ、そうだ、
ドローン隊は泥棒城の後ろに走る道にいい場所を確保出来た、
泥棒城の全体が把握出来るロケーションで、泥防城とは
道が繋がっていないのも好都合だった。
ただ付近住民から通報される危険もある、
活動は一時間位が限度だろう、
午前2時の作戦開始を前にみちかわ側も準備を終えつつ
あった、集まっているのは、僕、ビーチクラブボーイズの3人、姫
あとは被害者3人
ニンジャ650を盗られたトモミ、
CBR1000RRを盗られたカツキ、
YZF-R1を盗まれたタチバナ
だ、
自分のバイクのナンバー、と、その他車検書類、
バイクの色や特徴などバイクを特定出来るもの
を分かり易いように準備してもらっている、
バイクを盗られている4人は、みな緊迫した雰囲気を漂わせている
カツキとタチバナとやらはギラギラとしたものを発散しているし
トモミって女の子なんかは泣きそうだ、意外にトモは何か
考え事をしているようだ、
ノートPCはこういうのに一番強いアキラが担当、
僕とドローン隊のシンタニとは通話状態を維持している、
僕が指示したスクショをシンタニが僕のスマホに転送する手筈だ
テストも上手くいった、
「よし、そろそろ始めるぞ」
うなずく一同はアキラのノーパソを要に
扇型に囲むように陣取っている。
「よし、シンタニさんお願いします」
「OK」するとすぐに画像がノーパソに送られてきた、
スイっと浮いたドローンは、ものの数秒で白い壁の3倍程の高さまで
上昇した、100メートル四方の正方形に近い泥棒城の内部は正面から
見て右奥に巾、奥行き、共に10メートルほどの
小さい2階建てのプレハブがあり、
その手前には白いハイエースやビックスクーターが置かれている
プレハブの隣にはバイクが30~40は置けそうな倉庫があった、
倉庫の入り口は開け放たれており中はのぞける状態だが、
ノゾくまでもなく倉庫の前には30台程のバイクがビッシリ並べて
置かれていた、コンテナは2台あった、コンテナの1台は
コンテナ2台積みのトラックの荷台に既に積載されており、
もう一台のコンテナは扉が開け放たれ、中は空だった、
「ビンゴだな」僕の発言から堰を切ったように皆が話始める
「くそ、もう出荷準備してるぞ」「バイク泥野郎共め!」
「何が (有)本郷解体 だよ、ふざけやがって、盗っ人が」
が、まずは証拠を掴むのが先だ
「静かに!まだ終わってない」僕の言葉に皆が黙る、
「シンタニさん、打ち合わせ通り、居住スペースらしきプレハブの
状況確認を、そのあと犯人グループの使用してる車のナンバーや
後部の傷の有無のスクショ バイクの確認スクショ の順で
お願いします。」
「了解している」
映像はプレハブをゆっくり舐めるように映してゆく、事前の情報
では中に複数人いるようだ、使用車輛の台数からすると窃盗犯
3人全員がいるのかも知れない、1時間ほど前に明かりが消されたのは
ドローン隊が確認している、
窃盗グループの車輛撮影が終わり、いよいよ映像は
バイクに近づいてゆく
だがココで僕らは重大な事実に気が付いた、バイクのナンバーは
全て取り外されていたのだ、
「ナンバーがない、くそ、特定が厄介だな」っと僕
「ステムの所の車体番号じゃどうですかね?」アキラが言う
「どうだろうこの光量で車体番号確認出来るかは微妙だぞ」
ここで法的証拠とまではいかなくても、自分の気持ちの中で
確証がなければ今後大胆に動けない、どうする?
そのとき暗闇の中でライトを反射しキラりっと光るものがあった
あれは・・・
「シンタニさん!今のキラっと光ったやつ見してください!」
「わかった」
すう~っと映像が流れる、真新しいライムグリーンのタンク
キラキラしていたのはオッパイを
ヤシの木に美女 キラキラのホログラム
ビーチクラブボーイズ!!
「うおおおおおおーーーーウチのステッカーだ!!!」
「うわ、マジ?」
ビーチクラブボーイズが一斉に叫ぶ!
いやはや確かにあんなステッカーを貼ったバイクがこの世に
2台もある訳ない、僕にとっては確証はこれで十分だ、
オマケに隣は量販店で売ってるウサギの
ステッカーが貼られたトモミのバイクだった、
トモミは感極まり泣いていた、
「大丈夫だよ、見つけたからにはきっと取り返す」っとトモは
今日会ったばかりのトモミを励ましている、アオハルだなぁ
カツキとタチバナも何を根拠にかはわからないが、次々に写る
バイクを見ては
「アレは間違いなく俺のだ!」っと口々に言う、
確定だ、こいつらやっぱりバイク窃盗団に間違いない!
「シンタニさんOKです、出来るだけスクショ撮って
俺に送って下さい、その後即撤収で!」
「了解だ」シンタニさんっていつも冷静だな、ユウジや
アツシにも御礼はしなきゃな、
間も無く、次々とスクショが僕の携帯に送られてきた、
映像もスマホの通話も切った、知りたい情報は全て手に入れたのだ
もう事態は、この後どう決着をつけるか に変わった。
まずは全員が興奮状態だ、落ち着かせないと
「みんな見てた通り証拠は確実に掴んだ、僕はこれから
この情報を警察に通報する、みんなが確実にバイクを
取り戻せるよう全力を尽くすから安心して欲しい」
一瞬の沈黙の後タチバナが話し出した、
「その事なんだけどさ、ここまでやってもらっといてホント
悪いんだけど・・・見ちゃった以上もう一秒もほっとけないよ」
「ああ、俺も最初は計画通りってのに協力するつもりだった
んだけど・・・もう出荷寸前じゃねーか、どうせ出荷され
ちまえば泣き寝入りだ、ヒロさん、アンタもバイク乗りだ
わかんだろ? 実力行使で取り返しに行くよ」
「だめだ、だめだ、絶対だめだ、よく考えろ!こんな
僕には確証に近いものがあった、
「ヒロさん・・・俺も無理っすよ、
わかるでしょ?こっから先はヒロさん手を引いてて下さい、これ以上
迷惑かけらんないし、オレはもう不法侵入とかでも良いっすよ」
トモお前もか・・・
「馬鹿、冷静になれって」
ヤバいかもしれない、確かにこの状況じゃ冷静になれってほうが
無理だ、バイクはホントにバイク乗りにとって体の一部だから
「わかった、ちょっとだけ時間をくれ、僕も警察には知り合いが
いる、なんとかスグ動いてくれるよう掛け合ってみるから」
「無理ですよ、窃盗事件で警察が速攻で動いてくれるわけない、
今日抑えた証拠だって合法性を問われたら・・・」っとカツキ
「やってみなきゃわからない、もし、動いてくれないようなら
その時は僕も一緒に行く、だからちょっと待っててくれ
TEL入れてくるから、いいね?」
返事はなかったが仕方ないだろう、姫が事の成り行きに不安な
顔を僕に向ける、ひとまず笑顔を返す 大丈夫! 心の中で言う
「ついてこないでくれ」そう言い残し、僕は一人その場を離れ
100メートルほど離れたみちかわ内のトイレ兼多目的ホール
のような場所に向かった、会話の内容がぼくの思う通りに進むとは
限らない、正直聞かれたくなかった。
不本意だがしょうがない、僕は line君 のアプリを開き久木山に
無料通話の発信をした、
時間が時間だ出るかどうかは賭けだ、
意外なことに久木山はスグに電話に出た、
「よう、早速連絡してくるとは結構友達がいのある奴だな、当直の
暇つぶしになる面白い話を聞かせてくれよ」
「ああ、結構面白い話だぜ、あんな」
「なんだよ?」
「実は俺ら自力でバイク窃盗団見つけたんだ」
「・・・いつ?」
「いま」
「・・・うーん、なるほどな、どうやって見つけたかは聞かない
方が良さそうだな、よし詳細を教えてくれ、犯人グループが
分かってるなら俺らが合法的な証拠固めをして始末をつけてやる」
「それじゃ困るんだ、もう出荷寸前なんだよ、遅くても今日の
朝には押さえてくんないとバイクは片道切符の海外旅行だ」
「オマエ無茶言うなよ、こういうのは手続きとか大変なんだぞ」
「いろいろヤバいんだよ盗まれた奴らがいきり立っていて、取り返しに
襲撃しそうなんだ」
「馬鹿、押さえろよ、じゃないと捕まえるのお前らのほうに
なっちまうだろうが」
僕は観念して、知ってる事気が付いた事を洗いざらい話した。
「・・・オマエそれを先に言えよ、で、写真とかはあるのか?」
僕は証拠写真を久木山のline君に送り付けてやった。
「少しまってろ」
たっぷり10分後返信があった
「おい、なんとかガキどもだけは押さえとけよ、コッチは
コッチの仕事をキッチリやってやる」
僕は走ってバイク駐輪場に戻った、悪い回答ではないハズだ
駐輪場に戻ると出迎えたのは姫だけだった
「何処行ってたのよ!!みんな行っちゃったよ」
「はぁ?嘘だろ、やばいんだってマジかよ」
「トモ君って子がトモミ後ろに乗せて、ビーチボーイズの
あと二人がCBRで、カツキとタチバナって人も乗せてきてもらった
仲間のニンジャで」
「糞!追っかけなくちゃ」僕は慌てて愛車に駈け寄る
「あ、駄目!!H2は」
おっとと、はぁ?なんぞコレ?
僕のH2のリアホイールにはバロンのロックが掛かっていた
嘘だろ
「なに?これ」
「トモ君がもうアナタにこれ以上迷惑かけられないって
だから・・・」
「あんの馬鹿、最初っからそのつもりだったろ、くそっくそっ
どーすんだよ」
「あのさーココにあるじゃん それもKawasakiがさ」
姫が自分のZX-10Rを指さして言う
僕は姫をジッと見た
「貸してくれんの?いいのかよ」
内心ヤッターっと思った、ZX-10RはH2に乗る前の愛車だ
知り尽くしている、
「いいよ、急ぐんでしょ?」僕は聞き終わらないうちに動いた
H2のメットホルダーからメットを外してかぶり、顎ひもを
締める
するとメットのスピーカーから声が聞こえるてきた
「インカムは繫げといたわよ」っと姫・・・
見ると姫もメットをかぶっている
ええーー
「え?い、一緒に行くつもり?タンデムで?」
「当然じゃない、じゃなきゃ貸さないけど」断固とした意思を
感じる言葉 本気でやんの マジか
「あのさ・・・ あーもう、わかった、責任は持てないからな」
「冗談でしょ、何かあったらタップリ責任取ってもらうわよ」
やれやれ・・・腹をくくるか
エンジンをかけ姫がまたがってくるのを待つ、タンデムは
またがってくるタイミングが一番嫌いだ、すごくバランスを
崩しやすいんだ、
ズシンッっとリアに体重が乗る、リアサス固いな、たぶん
初期設定のままなのだろう、輸出車のリアサスの設定は
90㎏もある外人がタンデムしても平気なセッティングだ
平均的な日本人が普段乗りには硬すぎる設定だが
今このシュチュエーションでは都合がいい、
そのうち調整を手伝ってやろう
「あのさ、ベルトもったほうがいい?それとも腰に手をまわす?」
操縦者のお腹にぎゅっと手を回して密着してもらえば
タンデムでもすごく運転しやすい、が、当然 アレなわけで・・・
きわめて冷静を装って僕は答える
「そりゃ手をまわしてもらった方が運転はしやすい よ」
「・・・だよね」
背中に姫の豊かなナニカが触れた瞬間、僕は変な声が出そうになった
同時にさっきまでの闘志が半分位になったが
まぁコレは致し方ないと思う
まぁコレは致し方ないと思う
大事な事なので先生2度言いましたよ。
通常バイクで1時間くらいの距離の場合、10分の遅れは致命的だ
まず追い付けない、多少バイクが速かろうと関係はない
だが下見までした僕と場所を知らない彼らとではワンチャン僕に分が
あると思った、突入だけは阻止したいのだ、
姫は体を預けてくれるので運転にはほとんど支障がない、順調だ
あまりタンデム慣れしてない人を乗せる場合、操縦者は大変なのだ
傾けて曲るバイクの場合、慣れていない人は一緒に傾くのを恐れて
反対側に体重を掛けようとしたりする、コレをやられると
バイクは全然曲ってくれないのだ、姫にはその心配はなかった
タンデム慣れはしてるようには見えないんだけどな
事故る訳にはいかないからスピードは出しても慎重に
ちゃんと踊りきらなきゃ
早くも6号から16号へ、信号がいいタイミングで助かる
不思議な事に、自分の走りに感じた事のない重みを感じる
命の重み、確かに一人だともっと早く走れたかもしれない
しかしこれほど運転を丁寧にすることはなかったかも
しれない、確実に加速させ、減速させ、止まり、曲る
自分の走りにまだまだ詰める余地はあるのを思い知らされた。
もう464号線と交わる地点を超えた、そろそろ捕捉出来ないと
マズい っと前方にバイクの集団が見える、4台だ
ビーチクラブボーイズの2台だ
カツキとタチバナがそれぞれ乗っているのだろう、
だが僕が追い付いて来たのに気が付いても
4台とも止まろうとしない、集団の右に並んで声を掛ける
「おい!ちょっと話だけ聞けって!マジヤバいって」
あーもう、どーすっかな
するとわき道からスッっとプリウセが合流してきて集団の
前で減速をはじめた、前をプリウセ、右を僕に抑えられて
止む無く集団は止まった。ナイスアシスト!!
ユウジか?
「さっきアナタを待ってる間に連絡しておいたのよ、よかった
間に合って」姫が言う。
僕を抜きに色々話が進むのにはちょっと
とりあえず止めるのには成功した、良しとしよう
泥棒城に行くために曲る所はもう見えるところにある
はぁ~何とかなった~
取り返し組の言い分はおおよそさっきと同じだったが
今度はユウジ シンタニも口添えしてくれた事で僕の
言う事も少しは聞いてくれる雰囲気になった、
シンタニは「中途半端な状況で事が騒ぎになれば
当然僕らの行動も明るみになり問題視される、それは困る」っと、
当然の主張だった、
少し頭を冷やそうという雰囲気になったとき、後ろから
けたたましいサイレンと共にパトカー6台が現れ泥棒城の
方に曲っていった、
これには僕以外の全員が驚いていた、唖然とした表情で
パトカーを見送る、「ホ、ホラな」っと僕
「話がうまく転がり過ぎる、オマエどんな魔法使ったんだ?」
ユウジが呆れた顔で言った、
まぁ当然なのさ、
こうなっては取り返し組も納得したようだ、帰路に着く
事を了承してくれ、僕とユウジと姫以外は帰ってくれた、
僕らも出発の準備を終え、ユウジの横にバイクを並べて
サヨナラの挨拶をする、
「ホント今回の事では世話になったありがとう、今度
礼はするから」
「いや、いい、俺はこれで借りをようやく返せたようでホッとしてるんだ
それよりよかったな、念願のタンデムが出来て」ニヤニヤしながら
ユウジは言う
「コレは・・・いろいろあったんだよ」ちょっと気恥ずかしい
「なんだ、念願だったの?こんなのいつでもしてあげるのに」
っと姫
「はっはっは、よかったな」
「くそ、コレだからイケメンは嫌いだよ、モテない奴の気持ち考えろよな」
「はぁ?ったくオマエらバイク乗りってのは普段メットかぶってるせいか
手元が見えてねぇんだよな」
「そんなん当たり前じゃん」
「そういう意味じゃねーよ、じゃ、またな、コンビニにアツシとシンタニ
さん待たしてるんだ」そう言い残しユウジは去っていった
この日トモからバロンのロックのキーをもらいみちかわ
に姫と戻った僕だったが、
により不動だった、ツイてない、なぜなんだぜ
あれやこれやと試す僕に
「ところで、ねぇ、この子ってオス、なのメスなの?」っと
からかうように姫が言う、
「オスとかメスって、大事な彼女だよ」ああ、糞、バッテリー端子が
外れてるだけであってくれ、明け方の薄暗さの中、手探りでバイクを
まさぐる。
「ふ~ん、無駄よ、動くわけないわ、馬鹿ね」っと言い残し
姫はあっさり帰ってしまった、なんかいい感じだと思ったのにな
女ってわっかんねー生き物だよな、どーすっかなコレ
途方に暮れ、だがしかし朝は明ける。
ところで、今回の事件は週明けに新聞にデカデカと載った、
松戸の銃撃事件の容疑者逮捕 だ、
犯人は抵抗して発砲もあったらしい、こわーい
僕の久木山に送った画像のうち彼にとって重要な画像は
盗難バイクではなかった、
窃盗団のビックスクーターだった、僕はドローンの映像を見た瞬間、
警察署で見た銃撃犯ポスターのビックスクーターとナンバー、傷、
ホイールの色、尖ったグリップエンド、の特長や、
しばらく使われてない様子などに気が付いたのだ、
海外逃亡を恐れた久木山は、驚くべき速さで捜査令状を用意し
強襲、それに驚いた犯人が発砲、銃撃戦騒ぎにまで発展し
結果3人は御用となった、
大手柄の久木山から上機嫌のスタンプが送られてるのが
今回の件で一番ムカつく点だが
ともかく盗難バイクは、みな愛しのご主人様の元に帰って行った、
まぁ良しとしよう。
ところでトモとトモミはこの事件がキッカケで付き合い始めたらしい
全くKawasaki乗りってのは手が早い、いやいやKawasaki乗りの男じゃ
ないぜKawasaki乗りの女 ったくアイツら怖いんだから、
前世は狩猟民族かなんかじゃね? よく考えればバイク乗りの女って
みんなこんなだったような気もする。
はっはっはっトモのアホウめ、まんまと狩られやがって、ばーか
あれ?姫からline君じゃん 最近整備を覚えたいってよく連絡来るんだよな
え?プラグ交換?あれはエアークリーナー外してって工具とかあるの?
え?無い
しょうがないウチでやるか?
住所?しょうがない今送るよ
おわり
Motor Boys life ナシキ @kengo-634
★で称える
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