第2話 海を渡って逃げる

 もっと北に進むと、「失われた大陸」という不思議な場所に出た。

 そこは遊園地だった。しかし、まったくさびれていない。

 奥では、三体のロボットが一生懸命、掃除をこなしていた。地面にはゴミ一つ落ちていない。

 もう二体のロボットは、メリー・ゴーラウンド、観覧車、ジェットコースターを念入りに点検していた。

 さびたところはないか、故障しているところはないか、ネジは外れていないか、書類に書き込んでいるらしい。


「何かお乗りになりますか? 楽しいですよー」


 ロボットの一体は、愛想よくアルマ達に言った。


「いや、何か食べたいんだ。そうだな、果物を食べたいな」


 アルマはそう答えた。

 するとロボットは静かに、右の方を指差した。右手は震えている。右手のどこかが、さびついているらしい。自分のメンテナンスはできていないようだ。

 そっちの方には、灰色の屋根の工場があった。


「工場かい? 食べ物があるのかなあ。俺、お腹がグーグーなってるよ」


 ポックスは首を傾げながらつぶやいたが、セチアは伸びをしながら言った。


「行ってみたら、何かがあるはずよ。さっさと行きましょ」


 三人は工場の中に入ることにした。

 作業場ではロボット達が、ノートパソコンのような機械を作っている。部品なども作っており、忙しそうだった。

 ポックスは、「俺、一つもらおう」と言い、ノートパソコンのような機械を両手で持った。

 セチアは機械に向かって、手の平をつきつけた。彼女だけは水晶球を持っていない──。三人は機械のモニターの中に吸い込まれていった。気付くと三人は、巨大な海の前にいた。


 海岸だ。アルマ達は海に向かって歩き出した。さっきの機械は、瞬間移動装置だったようだ。海岸を振り返ると、遊園地の観覧車が見える。


「食料は、海の向こうにあるようね」


 セチアは、海を指差した。ポックスは、「で、どうすんの?」と腹をさすりながら言った。


 するとアルマは指二本を立て、宙を四角く何回か切った。これは大昔の術らしい。彼は海に向かって、念じながら歩いた。手に持った水晶球が、強く強く光る。セチアとポックスもアルマについて行く。アルマがついには海に入ろうか、という直前──。

 アルマ達の足元の海水は、ブロック状の硬い透明な粒子になってしまった。

 アルマ達が進むと、ブロック状の粒子は道を作り出していく。幅は二メートルあり、歩くのには不自由しない。

 アルマ達はコツコツと足音を立てて、海の上を歩く。まるでアクリル素材のような透明な道だ。

 道の左右は道になっていない。普通の海だ。ピンク色のイルカが泳いでいる。

 三人はどんどん海の上を歩く。500メートルは歩いただろう。

 海の向こうの方には、小さい島がぽつんと見える。アルマ達はその島を目指して歩いた。

 ──その時、大魚が海からはねた。鎧のような硬い殻に覆われている。古代の大魚だ。

 何と、三人めがけて海から跳び上がり、大口を開いた。三人を食べようとしたのだ。


「はやく逃げましょう!」


 セチアは叫んだ。アルマ達は海上に作られた、透明な硬い粒子の道を走り出した。


 ガツン


 そのような鈍い音がした。

 海水でできたブロック状の粒子が、大きな大きな硬い壁を作っていた。古代の大魚は、その透明な壁に激突したのだ。

 アルマ達は逃げていく。ブロック状の海水の粒子は、三人のための道をどんどん作っていく。


 ザーン


 という音とともに、大魚は海の中に沈んでいった。

 間一髪、三人は古代魚から逃げた。次々と形成されていく粒子の硬い道を歩き、ようやく島に到着した。

 そこは無人島。その島で、本当に美味しいバナナを食べることができた。


「愛し愛されるものよ」


 セチアがつぶやくと、周囲の景色は一転した。そこは、夕暮れの森の中である。

 三人はピラミッドの前に帰ってきたのだ。周囲はフェンスで囲まれている。空はデジタルの海のように、ザザーッとノイズが走っている。そこにライオンがいた。


「明日はどこに行こうか」

「そうねえ、西の方にデパートがあったでしょう。屋上に行ってみましょうよ。まぁ、誰もいないだろうけど」

「食い物がありゃ行くぞぉ」


 アルマ達三人がそんな話をしている姿を、ライオンが見ていた。

 ライオンは三人の姿を見てうなずくと、静かにピラミッドの中に帰っていった。

 フランスの旗が、空に舞っている。

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不思議な都市のアルマ 武志 @take10902

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