第18話

僕はため息をつくと、

「それじゃあ、もう一度大事にしてやってね。」

と言って、席を立とうとしました。

 彼女はびっくりしたように僕を見つめると、小さな声で言いました。

「返事を、聞かなくていいんですか。」

僕は首を振りました。

「だって、フェアじゃないもの。君の心が乱れているときにつけこむなんて、僕にはできないよ。」

彼女は僕をみつめると、微笑みました。それは、とてもやさしい、とても暖かな微笑みでした。

 「でも、明日になれば、あなたはきっともとにもどってしまうわ。だから、今言ってください。私の返事は、かわりません。」

 僕は、彼女をみつめました。彼女も僕をみつめています。すると、ほのかなバラ色が、彼女の頬にさしてきました。

 僕は、ありったけの勇気をふりしぼって、言いました。

「あなたが好きです。あなたは、こんな僕を好きになってくれますか。」

彼女はにっこりすると、とてもやさしく、でも、とてもしっかりと、うなずきました。

今、僕たちの部屋には馬君がいて、やさしく僕たちを見守っていてくれます。あの頃よりだいぶよごれてしまっていますが、その顔は、とても幸せそうです。ただあの晩以来、馬君は僕たちに話しかけてはくれなくなってしまいました。

 きっと、新しい小さな友達と、おしゃべりするのに夢中なんでしょうね。

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こわれた人形 OZさん @odisan

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