第17話

 いよいよ、彼女の誕生日がやってきました。僕は、どうやってプレゼントを渡そうかとばかり思って、ほとんど仕事にならないありさまでしたが、思いがけないチャンスがやってきました。

 昼食を終えて帰ってくると、事務所に彼女が一人でいるではありませんか。

 僕はプレゼントを取り出すと、必死の思いで彼女の所へ行きました。手足の動きさえ思うにまかせないようで、前の日に一生懸命考えたしゃれた言葉など、とても口に出す余裕はありませんでした。僕はプレゼントを差し出すと、やっとのことで言いました。

「誕生日おめでとう。」

彼女は、しばらくけげんそうな顔で僕をみていましたが、不意に微笑むと、

「ありがとう、あけてもいいですか。」

と聞きました。僕は、黙ったままうなずきました。

 彼女は包みをあけて馬君をみると、歓声をあげました。

「わあ、かわいい!」

そして、しばらく抱きしめたり眺めたりしていましたが、不意にハッとしたように身をこわばらせると、小さな声でつぶやき始めました。

「いいえ、そんなはずはないわ。あのこは、こんなにきれいなはずないもの。きっと偶然よ。でも、ほんとうにそっくり・・・」

僕は静かに言いました。

「そうだよ。それは、君のお気に入りの人形なんだ。」

 驚いて顔をあげた彼女に、僕は全てを話しました。初めての出会いのこと、馬君の告白のこと、そして、僕の思いも。

 自分でも思いがけないほど素直に、彼女に話すことができました。彼女はうつむいて、黙ったまま聞いていました。肩が、少しふるえているようでした。そして、何度も、

「ごめんね、ごめんね。」

と言いながら、馬君を抱きしめました。

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