届け

「先生っ!」


職員室のドアを勢いよく開け、担任の香坂こうさか先生にかけよる。


「おー杉山。おめでとう、金賞だって!」


先生の言葉を遮るように、私は続ける。


「大樹が引っ越したって本当ですかっ?」


先生は少し驚いたような表情をした後、話をはじめた。


「そうなんだよ、少し前にお母さんが迎えにみえて。あれ、杉山知らなかったのか?」


知らない。聞いてない。どうして…。


「本当は一昨日おとといにここを出発する予定だったんだけど、田中がどうしてもこの学校で、って無理を言ったらしい。


しかも今日まで絶対にみんなに知らせないでくれって。」


先生の言葉を最後まで聞かず、私は走り出した。


「おい、杉山?」


走りながらスマホを取り出す。しっかり充電してこればよかった。電池のマークが赤くなっている。


リダイヤルをスクロールする。電話なんて、お母さんか大樹にかけるぐらいなので、すぐに見つかった。


発信音が鳴るまでの時間が永遠に感じる。早くつながって…。


「もしもし、沙紀?」


大樹の声を聞くと、涙が止まらなくなってしまった。


「花、届いたか?」


お花?そういえば楽屋のテーブルにバラの花束があった。


「あ…。忘れた…。」


そうポツリと呟く。あれ、大樹がくれたんだ。


「忘れ…、まじかっ…。まあいいか、それより、金賞おめでとう!」


いつもなら散々からかわれるだろうに。いつもみたいにからかってよ。バカみたいなこと言ってよ。


「ありがと…じゃなくてっ!なんで、なんで言ってくれなかったの?」


ちょっと気持ちが乗りすぎて、大きな声が出てしまった。大樹は驚いたようで、少し空白の時間が流れる。




「あぁ、悪い。」


ショックだった。大樹にとって私はそんな存在だったのか。


「悪いって…。」


次の言葉を探そうとしていると、大樹が先に言葉を続けた。


「だって、引っ越すなんて言ったら、お前、来ちまうだろ。コンテストほったらかして。」


「そんなこと…。」


言い返そうとするが、恥ずかしながら、あったと思う。それくらい大切な存在になっていたことに、あらためて気づく。




「それにさ、俺、遠距離も悪くないと思う。」




大樹の声に、足が止まる。確かバラの花言葉は…。


「えっ…。」



「こうやって話せるじゃん。すず虫の音は聞こえねーかもしれないけど。


ちゃんと聞こえるよ。ピアノの音も。


俺の…お前の声も。」



時計は4時56分を指している。電車が走り出すまであと5分。

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想いを託して くるとん @crouton0903

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