斜面にへばりつくように建物が建ち並び、その一番上に神社が建っている。

 神社は他の建物とは違い、広く平坦な境内の奥に堂々と鎮座して温泉街を見下ろしていた。

「常に目を光らせて護ってくれているのです」

 誰かがそんなことを言っていたと女が言う。

「ここに来たのは初めてじゃないのですか」

 男が女に聞き返した。

 女は無言のままただ微笑んでいる。

 階段を息を切らせて登ってきた男。境内の柵に両手をついて、息を整えながら眼下に広がる温泉街を見ている。

「何も見えないじゃないか」

「ずっと向こうに川が流れているの」

 男は少し視線をあげた。暗闇の中に点々と灯りだけが見える。

 川らしきものは見えない。

 しばらくしてもう一人の女が上がってくる。女は三人には目もくれず神前に向かって歩いていく。

 女は神前でお参りをし、手を合わせたままじっと動かない。

 眼下の温泉街の灯りがひとつ消え、またひとつ消えていく。

 翌朝慌ただしく団体客が宿を去ったあと、一組の男女は宿に残り、一組は宿を後にしてゆっくりと温泉街の階段を下りて行った。

「だから何なの?」

 女は男にそう言うと二階の部屋につづく階段を上がっていく。階段がきしむ音が聞こえる。


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だから何? 阿紋 @amon-1968

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