第3話
「本当にすいませんでした……うちの生徒が……」
「たく、何度謝られても変わりませんから。なに? わたしの芸術作品を『ゴミと思って捨てました』って」
職員室で廊下に立たされた生徒のようにうなだれて立っているのは高橋、もちろん怒ってるのは彩子であった。
美術教師である彩子の作品を高橋の受け持つ生徒が美術室を掃除中に捨ててしまったのだ。
あまりにも抽象的な作品のため仕方がないとは思うが。
「あとこんなときに、こんなお願いをするのはあれなんですけどぉっ」
高橋はオドオドする。オドオドしてるのは高橋が彩子のことが好きであるからであって、それプラス何かお願いがあるらしい。
「なによ、手短に」
と砂時計をひっくり返す、ことは今日はしないらしい。話の長くてうっとおしい高橋が嫌だった彩子が導入していた砂時計なのだが。
「あ、あの。今度ですね……学校祭、C組で白雪姫やるのですか、彩子先生に是非とも……」
「C組って、大島先生のクラス。……て、私に魔女をやれって?」
「いえ、姫……」
「は、は、はっ、ひ、ひめ?」
彩子は高橋を見る。彼女は生徒たちから魔性の女と言われていた。彩子もそれを聞いていて、魔女でしかないと早とちりをしていた。
「白雪姫、はい」
この学校の学校祭は毎年クオリティが高く、プロではないかと思われるくらいで、もはや戦争状態。
先輩後輩関係ない。この学校祭でのパフォーマンス次第でその後の状況が変わるのだ。
劇をやるクラスは少しでもインパクトをあげようと衣装や音楽にもこだわり、普段劇をやらなさそうな教師をゲストに出して笑いを取るところもある。
「今回は白雪姫と言っても、主役は七人の小人ならぬ三十五人の小人……かれらが合唱をして物語を進めるので王子と姫と魔女は脇役に過ぎません」
「なんだ、脇役……」
「僕にとっては主役でしかないんですけどね……いや、なんでもない……」
ほぼ心の中をしゃべる高橋。彩子は鼻で笑ってる。
「彩子先生はりんご食べて倒れて寝るだけですから、はい。お忙しいかと思いますがご検討を……受け取ってるクラスの出し物が展示のみと聞いたので、はい」
と高橋が去ろうとすると、彩子は彼の腕を握った。
「あ、彩子……先生?」
彩子は顔を真っ赤にして下を向き
「あのさ、キ、キ、キスで目が覚めるシーンは?」
と小さな声で話す。
「あ、キスの時は三十五人の小人で隠すのでしてもしなくても構わないんですよ!」
と高橋は大きな声で話すから職員室にいる他の教師が二人を見る。
「バカ、高橋! ……ん?」
「どうしました?」
「もしかして、王子って……」
高橋がニッコリ笑った。
「僕です!」
「ばかばかばかばかばかーーーー!!!」
実はこの学校祭では白雪姫で王子と姫をやったカップルは結婚する、というジンクスがある。
私立で異動も少ないこの学校、忙しくてなかなか恋人が他ではできないそんな先生たちのためではないかと言われているが……。
大島はそんな二人のやりとりを苦笑いしながら見ている。C組の生徒が不安そうに声かけてきた。
「大丈夫なのかな……あの二人」
「まぁ、なんとかなるだろ」
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