第2話
放課後。
「彩子先生、生徒からのアンケートの回収はしましたか?」
「……すいません、早めに……」
「こないだも言いましたが。もう次はないですよ。仕事が雑すぎる」
「はい……申し訳ありません」
彩子は大島から説教を受けていた。座って低い声で淡々と喋る彼と、立ってうなだれる彩子は放課後の職員室の中で目立っていた。
「大島先生、僕が副担なのにサポート不足で……だから大目に見てやってください!!」
と、そこに現れたのは高橋だった。大島はむすっとした顔をしたままで席を立ち職員室を去る。
なかなかなびかない大島にモヤモヤしていた感情が仕事に響いてしまったのだ。そんな自分がバカだと思いながら彩子は椅子に座った。……が、高橋が彼女の右手を握り、
「彩子先生、こっちきてください!!!」
「え?」
「いいからっ!!!」
と曖昧な答えが言えぬまま高橋は彼女を連れて走り出した
職員室にいた教師たちは、目が点になった。
まだ校舎に残ってた生徒とすれ違いながらも、走る、走る。
外の景色は夕焼けのオレンジ色が眩しい。彩子は高橋に連れられわけもわからず走る。
両目から涙の粒が溢れてくるのがわかった。
そして向かった先は学校の屋上。
「きれいでしょ、この夕日!!」
「ハァハァ……すっごい走らせてここまできたのはこれを見せるため?」
「そうです!」
ニカーッと高橋は無邪気に笑う。彩子は手すりに手をかけて、その夕焼けを見る。
苦しくて息も絶え絶え、涙と鼻水も出てた。髪の毛もぐちゃぐちゃである。
「人間誰でもミスをするよ。彩子先生何かあったのかな?」
「……あったというか……」
「フラれた?」
「何でそんな発想?」
高橋はニコニコっと笑ってる。
「僕も元気ないんです。フラれちゃったんで。彩子先生に」
彩子は昨日、高橋に送ったメールを思い出した。フッたというか、突き放したメールだったのだが……。
「だから仕事中も、少しもやもやが残ってミスばかり」
「こんな私のどこが好きなのよ」
「うーん、顔です」
「は?」
「タイプだったんで」
あっけらかんに答える高橋にあっけにとられる彩子。
「何度も突き放してるのに」
「だよねー」
「ほんとバカ。私はあんたのこと……嫌い」
「うわー、目の前でフラれたー」
と笑いながら膝下から崩れる高橋。
「フッてないし。別に」
「いや、今嫌いって」
彩子は苦笑いする。高橋はニヤニヤ笑ってる。
「おい、そこのアベック。職場でいちゃつくな」
二人は声をする方を見ると、大島がいた。
「彩子先生、さっきは言い過ぎた。追っかけてみたらこんなところでいちゃついてるし」
大島は少しバツの悪そうな顔をしている。
「ちょっと聞いてくださいよぉ〜大島先生! 彩子先生にフラれちゃいました」
「変なこと言わないでよ、高橋!」
すると大島が
「どうだ? 今日金曜日だし、三人で呑むか?」
彩子はびっくりした。
「上司として彩子先生ともしっかり話をしたいし、それに二人きりだと、あれだからな……高橋も同伴な」
「はい……ありがとうございます」
彩子は涙を拭いた。
「まさか大島先生のおごり?」
と高橋が聞くと
「割り勘だ、調子乗るな」
と冷たく返し去って行った。
「なんだ、大島先生のおごりじゃないのか」
「調子のんな、バカ」
と、彩子は高橋の背中を叩く。
「もっとバカって言ってください、彩子先生!」
「この変態!!」
「もっと言ってくださいー!!!」
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