第4話

「彩子せんせー」

「何よ、高橋」

 彩子は斜め前に座る高橋の呼びかけに声だけで答える。


「聞いてます?」

「聞いてるから手短に」

 相変わらず高橋に対しては冷たい彩子。彼女にとっては高橋はうざい相手なのである。

 いろんな手を使ってでも彩子を口説きたい高橋。


「三分だけお話聞いてください」

 と高橋が言うと、またか、と彩子は机の棚の上に置いてある砂時計をひっくり返した。

「はい、どうぞ」

 ピンクの砂がサラーっと落ちていく。高橋はいつも以上に吃りながらも、彩子の気を引かせるような話を始める。


「僕最近、妖精を見るんですよ!」

「はっ?」

 彩子は唐突な話に高橋をつい見てしまった。高橋はヨシッ!と思って話し始めた。


「あ、妖精と言っても種類が分からないんです。きれいな羽をパタパタさせて、僕の前をうろうろするんですよ。とても眩しくて、でもちょこまかして……」

「はい、終了。眼科でも行ったら?」

 砂はもう落ち切っていた。


「が、眼科ですかぁ……」

 高橋はがっかりしてうつむく。


 そこに大島が来た。

「彩子先生……図書館に行ってこの資料を借りてきて欲しい。授業で使いたいから」

 彩子はあれから大島のことは諦めたつもりでいたが、まだ彼女の中ではくすぶっている。


 ◆◆◆

 彩子は図書館へ。

「にしてもなんで大島先生は妖精図鑑を借りて来いって……どんな授業で使うのかしら」

 と、目の前にあった「妖精図鑑」。作者名も頼まれたものと同じ。


「たく、いい年した人が妖精だなんて……高橋もさっき妖精がなんたらかんたらって」

 と図鑑をめくる。


 パラパラ……


 ヒラッ


 図鑑から一枚メモが。

「何かしら」

 彩子はそのままを拾った。


【彩子先生、付き合ってください。高橋より】

「はぁ?! なにこれ!!!」

 すると横には高橋がニコッと立っていた。


「そ、そういうことです」

「いつのまに! てかね、告白してくるの何回目なの。何度も断ってるでしょ!」

「諦めません」

「……バカっ」

「バカです、彩子先生好きすぎてバカになってしまったんです!」

「どこまでもバカ」

 彩子は顔を真っ赤にする。


「あれ、今回は嫌だとか言わない……もしかして?!」

 足早にカウンターに行って本を借り、図書館を出る彩子。

「オッケーってことですかぁー! 彩子せんせー!!」

 高橋は図書館で小躍りした。


 ◆◆◆


 職員室。

「大島先生! あなたもグルだったんですか?」

 彩子は頼まれた本をドン! と机の上に置く。

「グルってなにが? あー、読みたかったんだよね。妖精図鑑」

 大島はとぼける。

「そろそろ素直に高橋に言ったらどうだ?」

「うううう……」

 彩子は真っ赤になった顔を手で覆う。


 メモ用紙にはもう一つ文章が。

【僕の見た妖精は、彩子先生、あなたです!】

「バカ、高橋!」

 大島も笑う。高橋は図書館からもうすぐ帰ってくる。


 終わり

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