第9話

 気が付くと、僕は絵の前に倒れていて、係員が心配そうに覗きこんでいました。僕は起き上がって、なんとかその場を取り繕うと、逃げるように立ち去りました。

 それ以来、僕はずっとこの絵を追いかけて暮しているんです。

 あの時のことが、どうしても頭から離れないのです。僕は本気で彼女を愛しています。だから、どうしてもあの夢の館へもどらなければならないんです。今日、あなたに絵をみてもらって、彼女が生きていると確信できました。これで、あの主と対決する決心がつきました。ありがとうごぎいました。」

 Mは深々と頭を下げました。僕にはとても信じられないような話でしたが、Mの真剣な様子は、とても笑い飛ばせるようなものではありませんでした。僕達は、握手をして別れました。

 それから一週間ほどして、警察から電話がありました。Mが行方不明になって、僕宛に遺書らしいものがあるので来てほしいということでした。

 書置きは簡単なものでした。僕宛に、

「行ってきます。」

と、一言だけ書いてありました。

 僕は係官に、あの絵の話のほかは、全部ありのままに話しました。書置きについては、心あたりがないとしか言いようがありませんでした。

 僕は帰りに美術館へ行って、あの絵をみました。はじめてみた時と同じようにみえましたが、よくみると、あの館の色合いが少し明るくなっているようにもみえます。もちろん気のせいかもしれません。

 でも、僕はMのために、Mと彼女のために、彼がうまくやったのだと思いたいのです。

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夢織り人の館 OZさん @odisan

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