McDonald Romanceに花束を

降雪 真

第1話 夕日とともに消えた恋

 あの日あの時、あの一瞬。

 私は私のすべてで恋をした。

 それはもう失われてしまったけれど、間違いなく私は君を愛していた。

 



「やっぱり、お前といるとラクでいーわ」


 そう言ってへにゃっと気の抜けた顔で笑うのは小野田裕樹。同じクラスで、私の幼馴染。


「バカ言ってないでさっさとデートの一つでも誘いなよ、まったくヘタレなんだから」


 そして私の好きな人。


「そうは言ってもなぁ」裕樹は頭を掻きながら言う。これは裕樹が気まずいときの癖だ。

 私はいつまでこんなことを続けるんだろうと時々思う。

 

「女子相手だと緊張すんだ」


 こいつはいつまでも私のことなんて見てくれないし、私の気持ちなんてこれっぽっちも興味がない。


「だからさ、その……楓ちゃんだっけ? 好きなこととか知らないの? そこからお近づきになればいいじゃない」


 本当はそんなこと望んでなんかないくせに。私は私の口が勝手に無難なことを話すのを、他人事のように聞いていた。

 

「そんなこと聞ければ苦労しねぇよ~」


 裕樹は呆れたように言った。

 そりゃそうだ。私だってそんな風に言われたらそう思う。

「は~、どうしようかなぁ」裕樹が大きなため息をついて俯いている。そのうなじを見ていると心がぐらつくのがわかる。仕方ないな。私は意識をちょっと自分に取り戻して考えてみた。


「一対一がツラいならさ。誰か誘って皆で行ってみたら?」


 するとぱっと、あからさまなくらい満面の笑みで顔を上げてきた。


「俺もそう思う!」


 なんだかイヤな予感がする。キラキラとした目でこっちを見ないで。ロクなことがないんだから。


「なぁ有紗、お前あの子と友だちだよな。頼む! なんでも奢るから誘ってくれよ」


 手元にはくしゃくしゃになったチケットと新しいチケットが2枚ずつ。某キャラクターが有名なテーマパークの入場チケット。最初は二人で行くつもりだったんだろうな。胸がちくりと痛んだ。


 本当はイヤ。


 友だちって言ったって、友だちの友だちくらいなもんだし。人混みは嫌いだし。何よりなんで私がこんなことしなきゃなんないの。

 でもこいつはチケットがこんなになるまで悩んだんだ。

 いまも必死になって頼み込む姿を見ると、私はどうすることもできなかった。


「……わかった。ランチは当然、クレープに、ポップコーン、フランクフルトも奢ってもらうからね。

 でも私が誘ってもOKしてくれるかはわかんないんだから」


 裕樹の顔がみるみる晴れていく。


「うん、うん! 任せとけ‼

 絶対来てくれるよ、信じてるぜ」


 嬉しそうな顔。それを見てると私まで嬉しくなってしまう。馬鹿な私。どうしようもないな。


 


 どうせ駄目に決まってる。私だってほとんど話したこともないし。せっかくの休日に、わざわざ知らないグループと遊園地になんて行くわけないよね。


 放課後、半ば自分に言い聞かせるようにあの子に近づいていった。

 あの子は友だち2人と話していて、最初は1人になるまで待とうかとも思ったけど、皆で帰ろうとしていたから慌てて引き留めた。


「あ、あのさ」


 するとあの子はちょっとびっくりしたような顔でこっちを見ていた。


「突然ごめんね。今度の日曜って、暇?」


 あぁ何言ってんの私。突然こんなこと言ったって答えられるわけない。


「今度友だちの裕樹と大吾の3人で遊園地に行くんだけど、チケットが1枚余っててさ。勿体ないから誰かほかに行く人探してて」


 てんぱって口調が速くなっているのが自分でもわかる。こんなんじゃ駄目だ。

 そのとき、彼女の鞄にあのキャラクターのキーホルダーがあるのを見つけた。

 これだ! 私はついそれを指差してしまった。


「これ! ここの遊園地のキャラクター好きだったよね」


 あの子と目が合う。気まずい沈黙が流れた。

 ……最悪な誘い方。ごめん裕樹。がっくりと項垂れていると、何やら友だち二人が静かに騒いでいるのが聞こえた。

 何だろう?

 顔を上げると、そこには私をしっかりと見据えるあの子の顔があった。


「……裕樹君も来るんですよね?」


「うんそう」私がつぶやくように答えると、友だち二人が手を取り合ってはしゃいでいるのが見えた。

「行きます」あの子は覚悟を決めたようにそう言った。気のせいか、その顔はほんのりと赤かった。

 

 その後はほとんど覚えていない。呆気にとられている内に、いつの間にか連絡先を交換して、いつの間にか集合場所も決めていた。

 裕樹にOKされたことを伝えると、いままでに見たことないくらい喜ばれる。あんた、そんな風に感情爆発させるのね。私は夢でも見ているんじゃないかという気持ちだった。


 悪夢だ。


 女の直感が告げている。多分二人はうまくいく。いってしまうって。




 その晩、同じく遊園地デートに付き合わされる大吾からメールが届いた。


『お前、馬鹿じゃね?』


 内容はシンプルに一文だけ。


「そんなのわかってるよ」


 思わずそう言って携帯をベッドに叩きつけた。わかってるよそんなの。

 だけどあんなに嬉しそうな顔されたら、何も言えなくなっちゃうでしょ。

 



 来なければいいのに。

 遊園地当日。空を見上げればこれ以上ないってくらいいい天気。私は眩しすぎる太陽を、恨めしい気持ちで睨んでいた。

 裕樹はそばでそわそわそわそわして鬱陶しい。私は引っぱたいてやりたい気持ちを必死で押さえていた。


 するとそこに「遅くなってごめん」とあの子がやってきた。


 丈長めの花柄ワンピースがちょっと大人っぽくて可愛い。あれ、こんな顔してたっけと思って見れば、うっすらと化粧をしてるのがわかった。

 一方私はデニムにシンプルなボーダーのトップス。可愛いかなと思って買ったハットが、逆に子供っぽく思えてぎゅっと握りしめた。


「いや全然待ってないよ」


 はしゃいだ声を聴けば、顔なんて見なくてもわかる。こいつ、嬉しそう。私の格好を見たときなんて何も反応しなかったくせに。私の中で殺意が芽生えた。


 デートは順調。始まってみれば心配したのがバカみたい。二人とも楽しそうだ。昨日散々電話でシミュレーションした時間を返してほしい。それでもちょっと楽しかった私は本当にバカだ。

 よかったね裕樹、うまくいきそうで。

 ちょっと涙が出そうだったけど、裕樹とあの子が楽しそうに笑っているのを見ると、それでいいような気がしてきた。うん、これでよかったんだよね。

 

 二人がジェットコースターに乗るというので、「ちょっと休憩したいから」と残った。もちろん邪魔者の大吾は無理やり引っ張って付き合わせた。


「なぁお前、いつまでこんな関係続けんの?」


 ぐったりとベンチに座り込んでいると、隣に座っていた大吾がいきなりそんなこと言ってきた。あ、こいつもいたんだった。私はじろりと睨んでやった。


 不機嫌そうな顔。


 思い返して見れば、今日はずっと不機嫌そう。付き合わされるのがイヤなら断ればよかったのに。


「言えるわけないじゃん」


 私が前を見ながらやっとの想いで言うと、大吾は呆れたようにため息をついた。何こいつ。


「いつまで悲劇のヒロインぶってんの?

 このままじゃあいつら付き合っちゃうよ。お前それでいいの?」


 知ったようなクチきいて。私は私の中で感情が爆発するのがわかった。


「だって仕方ないじゃない。裕樹はあの子のことが好きなんだから。

 あいつは私のこと、一度だって女として見てくれなかった。でもそれでよかったの。あいつの隣にいられたから。

 いつまでも続かないことなんてわかってた。きっといつかあいつにも好きな人ができるって。それが私じゃないことも。

 だけどそれでよかったの。だって私がこの想いを伝えたら、きっと傍にもいられなくなっちゃう。それはイヤなの!」


 この想いを告げれば、いまの関係性を壊してしまうかもしれない。裕樹がいままでみたいに私の傍にいてくれなくなる。それを考えただけで、私は怖くて何もできなくなる。勇気を出して踏み出さなければダメだと言うなら、私には恋なんてできない。


 この関係が壊れるのが怖い。

 だからいまこの瞬間を大切に生きたいの。


 いつの間にか涙が出ていた。私が慌てて涙を拭っている間も、大吾は黙って私の話を聞いていた。

 そこへ二人が帰ってきたのが見えた。


「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」


 私がそう言ってくるりと駆けだそうとしたとき、背中で大吾の声がした。


「何もしなくても、もうこのままじゃいられないよ」


 


 それからどう過ごしたのかはよく憶えていない。せっかく裕樹が奢ってくれたというランチやポップコーンの味も、何のアトラクションに乗ったかも。

 あれほど、もしデートに来たらどんなに楽しいだろうと想像していたのにな。

 

 楽しそうに話しながら歩く二人を見る。あの位置は私のものだったのに。

 きっとあの二人は付き合って、あの位置はこれからずっとあの子のものになるだろう。

 大吾の言葉がリフレインする。

 

 このまま何も言えずに終わるの?

 そんなのはイヤだった。


 観覧車。私がとっさに裕樹の手を取って乗り込むと、大吾があの子を引き留めてくれたのが見えた。 


 観覧車の扉が閉まり、裕樹と二人きりになった。

 

「あれ、あいつら何やってんだよ」


 緊張して、心臓がバクバクする。

 最初は戸惑い、ふざけていた裕樹も、私の顔を見て何かを察したのか黙ってしまった。早く、早く話さなきゃ。

 言うべきことはわかっているのに、言葉が出てこなかった。観覧車ががたりと揺れる。頂上に着いたのだ。

 

 これで終わっていいの?


 唇をぎゅっと噛みしめて、私は勇気を振り絞った。


「好き」


 裕樹は何のことかわかっていないようだった。聞こえてもいなかったのかもしれない。


「好きなの私。裕樹のことが」


 だから私はもう一度言った。すると今度はするりと言葉が出てきてくれた。

 そうなればもうあとは止まらなかった。


「裕樹のことがずっと好きだった。あの子じゃイヤ。お願い、私と付き合って。

 ずっと一緒にいたのは私じゃない。私といたらラクだって、前裕樹言ってたでしょ。私、これからもずっと裕樹と一緒にいたいの」


 裕樹は頭を掻きながら泣きそうな顔で私を見ていた。


「えっと、本気で言ってんだよな」


 私はあまりのことに息を飲んだ。それを見て裕樹は慌てて言葉を続けた。


「ごめん、冗談じゃないってわかってる。お前がそんなこと冗談で言う訳ないってことも」


「だけどごめんな」裕樹は静かに言った。


「お前のこと、友だちとしか見れない」

 

 それがすべてだった。わかっていたことだった。それなのに、溢れる涙を止められない。涙でにじむ視界の向こうで、おろおろと裕樹が戸惑っているのがわかる。

 こんなことがしたかったわけじゃない。笑え、私。笑えよ。

 私は零れる涙を手で必死になって拭うけど、涙は次から次へと出て止まらなかった。


 そのとき、きらりと温かい光が目に入った。何だろう。ふと横を見て、私はそれに見惚れ、一瞬、涙も裕樹のことも、何もかも忘れた。


 私はこのときの景色を忘れないだろう。

 私の恋の終わりを告げるその夕日は、山に隠れるその間際、すべての力を出し切るように紅く辺りを照らしていた。その光は残酷で、だけどとても綺麗だった。


 私の視線に気づいた裕樹も夕日に見惚れていたみたい。


「綺麗だね」

「あぁ、綺麗だ」


 そういったきり私たちは無言のまま夕日を眺めていた。

 観覧車もあと残りわずか。下には心配そうにこちらを見つめる大吾とあの子がいた。最後にわがまま、言ってごめんね。




 数年の時が過ぎ、私も社会人8年目を迎える。

 あれから裕樹はあの子と付き合い、私は身を引くように離れていった。正直、あれから卒業までどう過ごしたかは憶えていない。走り去るようにあっという間に過ぎてった。


 恋なんて私には無縁のものだ。


 あれから何人か付き合うことはあったけれど、どれも長続きすることはなく終わってしまった。


 SNSを見れば、結婚や出産を報告する楽しそうな顔と称賛の声で溢れている。羨ましいとは思うけれど、それと同じくらい自分とは関係のない話だと思う自分もいる。

「恋しなきゃ駄目」と言って常に惚れたフラれたと一喜一憂している人を見ると、驚くというよりも呆れる。多分私とは人種が違うのだ。

 もしかしたら今後私も結婚して、子どもを産むこともあるかもしれない。だけどそれはそれだけのこと。私にはもう恋なんて無縁の話なのだ。


 あの頃の私はそう思っていた。


 そんなある日、30を迎えた私たちの元に届いたのは1通の手紙。同窓会への招待状だった。

 一瞬裕樹の顔が頭に浮かぶが、何をいまさらと自嘲した。それよりも久しぶりに会いたい友だちがたくさんいる。皆元気にしているだろうか。何をしているのかな。私は迷わず「参加」に〇をつけた。




 ざわめく会場の中、あちこちで再会を喜び合う声が聞こえて騒がしいくらいだ。

 気持ちはわかるけど。

 少し苦笑しながら辺りを見渡せば、こちらを手招く集団がいる。

 よく遊んでいた子たちだ。懐かしい。

 皆それぞれがやっぱり相応に歳は重ねていたけれど、どこかしらに残された面影に、どうしようもなく懐かしさを感じた。同級生が集まれば盛り上がるのは学生時代の話。

 盛り上がった文化祭の話、部活動で絶対にひいきされていたエースの話、滑舌が悪くて「キャッチ」が「キャッヒ」になっちゃう英語教師の話。

 取り留めない話はいくらでも出てくる。私たちはその度に大きな声で笑いあった。こんなことじゃ自分も人のこと言えないな。笑いすぎて出てしまった涙を拭いながらそんなことを思っていると、不意に友だちのひとりがこう言った


「そういえば有紗、裕樹君も今日来てるけどもう会った?」


 ちくりと胸が痛んだ。


「え、そうなんだ。いやまだ会ってないけれど」


 自分でも意外なほど動揺したけれど、目の前のサワーを煽って、何でもないように平静を取り繕った。

 友だちが指す方を見れば、そこには裕樹がいた。あの頃と何も変わらない。時にへにゃっとした笑顔を見せながら友だちと笑いあっていた。


「あんなに仲良かったのにね」

「二人は絶対付き合ってると思ってた」

「挨拶位してきなよ」


 勝手なことばかり。無神経な言葉に正直腹は立ったけど、これも私が自分がそう振舞ってきたからなのだろう。私は面倒だったけど、何でもないことのように言葉を躱していた。


 だけどお節介な友だちの一人が名前を呼んでしまい、そのとき裕樹と目が合った。合ってしまった。


 裕樹は嬉しそうにこちらを見ながら手招いている。こういう無神経なところも昔のままだ。こうまでされたら無視するのもおかしな話。私は渋々裕樹の元へ行くことにした。


「有紗久しぶり! 元気してたか?」


 招かれるまま右手に座る。左手には大吾がいて、相変わらずの仏頂面だ。ちらりと裕樹の左手の薬指に目がいったけど、よく見えない。どうでもいいけど。


「お前卒業してからも全然連絡くれないよな」


 拗ねたように裕樹が言った。


「私も忙しかったから」


 なんて言ったらいいかわからなくて、それきりきまずい沈黙が流れた。


「そういえばさ、有紗憶えてるか?」


 頭を掻きながらしばらく何かを考えていた裕樹は、そんな空気を振り切るように言った。


「前にお前たちと遊園地行ったことあったよな。そのとき最後に見た夕日。憶えているか?」


 私はぱっと裕樹の顔を見る。もちろんだ、いまでも夢に見ることだってある。私は裕樹の言葉に耳を傾けた。


「あの夕日、綺麗だったよな。

 俺さ、夕日を見る度、あのときお前に酷いこと言ったんじゃないかって思うんだ。だから謝りたかった」


 そんなことない。そう言いたかったけど、それは声にならなかった。いまでもそう思ってくれたことが嬉しくて。

 だけど裕樹は続けてこう言った。


「あのときお前が言ってくれた言葉のおかげで、俺ちゃんと告白しなきゃって思ったんだ。ありがとな、情けない俺に勇気をくれて」


「そんなこと」


 私はそれだけ言って息を吐くと、脱力してしばらく何も言えなかった。


「あのままだったらいつまでも告白なんてできなかったんだから、感謝してよね」


「昔から情けないとこは変わんないんだから」気づけば私の口からはすらすらと言葉が出てくれた。もう大丈夫、いつものように振舞えばいいとわかったのだから。

 私がそう言うと、裕樹はほっとしたような顔をして、過去の思い出を話し出した。ときにふざけて、ときに怒って、ときに笑って。

 その左手の薬指には指輪が光っていた。




「ごめんね、今日は私帰るから」


 二次会へと誘う声を振り切って、私は独りで歩いていた。どこへ行くかなんて知らない。適当に歩いてふと横を見れば、人気のない公園があった。ベンチにどかりと座り込む。


 もうここなら誰もいない。


 そう思ったらやっと、我慢していた涙が零れた。

 裕樹にとってあの夕日は、美しいだけの思い出だった。それが私にはどうしようもなく悲しかった。


 私はあなたを愛してる愛してる。


 いまでもどうしようもなく裕樹のことを愛してた。私はそれに気がつかないように蓋をしていただけだった。そのことに気がついたのだ。

 何故いまさら気づいてしまったのだろう。気づきたくなんてなかった。

 嗚咽が聞こえる。私はいつのまにか子どもみたいに泣いていた。


 そのとき、誰かが近づいてくるのがわかった。恥ずかしいから来ないでほしい。ちらりとそう思ったけど、どうせ知らない人だろうし構いやしない。どうでもいいと無視することに決めた。

 しかしそいつは近くで立ち止まるとそれきりどこにも行こうとしない。空気を読めよと睨んでやった。

 

 そこにいたのは大吾だった。むすっとした顔で、呆れたように私を見下ろしている。すっと差し出され、何かと思えば温かいコーヒー。砂糖入りの嫌いなやつだ。いらないと返してやろうかとも思ったけど、それきり大吾はそっぽを向いてしまったから、私はそれを飲むしかなかった。

 プルタブを捻るとコーヒーが薫り、口に運ぶと豊かな香りと一緒に優しい甘みが口の中に広がった。

 ……おいしい。思わず私はため息をついた。いつのまにか涙は止んでいた。


「なぁ」


 ぶっきらぼうに大吾が言った。


「気づいているかわかんないけどさ。

 お前って勝手だし、面倒くさいやつなんだよ。

 時々すげえ無鉄砲だし。こんな夜更けに女一人でいるなんて、危なくて見てらんねえだわ」


 大吾がこんなに喋っているのを私は初めて見たかもしれない。私はびっくりして大吾を見ていた。

 大吾ってこんな顔してたっけ。


「そんなお前にこうして付き合うやつなんて、そうそういないんだぜ」


 ぽかんとして大吾を見る私。それを見て「あーもう!」と頭を掻きむしり、大吾は私の肩を掴み引っ張ると言った。


「だから何が言いたいかっていうと。

 お前には俺がいる。このいまを憶えていてくれよって、そういうこと」

 

 いつも無表情でよくわからない奴だって思っていたけれど、よく見ればいまは耳まで真っ赤にして照れているのがわかる。

 可愛いかも。私は他人事のように大吾を見ていた。

 真っ赤になりながら真剣な表情でこちらを見据える大吾の向こうで、街灯がちかちかと点灯していた。

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