第3話

 男は目を覚ました。土の匂いが鼻腔を通り抜ける。そこで男は自分が地に付していることに気がつく。街は!?男は飛び上がり辺りを見渡す。どうやら森のようである。男は街の近郊の森であることに気づく。そして、自分の怪我が粗方治っていることにも。

 「そうか、喰らったのか…」

 そう言った男は握っていた剣をうらめしそうに見つめる。

 「帰るか。」

 男はつぶやくと歩き始めた。

 

 

 男が門の前まで着くと門番の兵士が大きく目を見開く。

 「あんた、生きてたのか…」

 「あれからどうなったか教えて欲しい。」男は言った。

 兵士は話し始める。

 「リッチが雷を放った後、ほとんど全ての者が勝利を諦めていたよ。でも、リッチの雷は止まった。みんな誰かがリッチを倒したんだと思った。そこからは早かったよ、残りのアンデッドどもを倒して回った、冒険者も兵士も関係ない、みんなが勝利をわかって、簡単な戦だった。アンデッドを殲滅したんだ。そして何人かがリッチの居たところに行ったんだ。酷い光景だったと聞いている。でもそこにはリッチの装備が落ちていた、ローブは切り裂かれていた。あんた以外はアレを倒すことなんてできないだろうよ。誰もが確信したね。」

 

 兵士は一息つく。

 「でもそこには誰も生者がいなかった。魔術に詳しい奴がリッチは最後に道連れの魔術を使ったんじゃないかと言ったのをみんな信じたよ。だから死んだと思ってた。」

 兵士はその巨大な体躯を見上げる。

 「まあ、入れよ、今夜は宴だな。英雄の帰還だ。」

 男は「あぁ」と答えて門をくぐる。

 兵士は遠退く男に「あんたがいなけりゃみんな死んでた、本当にありがとう。あと、最初はギルドに行ってやりな。」と声をかけ見送った。

 

 

 

 男がギルドの戸を開くと一瞬ギルド中が静まりかえった。誰かが呟く。

 「亡霊…?」

 

 次の瞬間、男の腹が大きな唸り声を上げた。

 

 刹那の間の後、ギルド中が笑いに包まれる。

 細身の男がはらを抱えながら言った。

 「ははは、英雄、あんた生きてたのか。一番最初に生きてる主張をするのが腹なんて相変わらず変な奴だな。あー、面白い。」

 男はガリガリと頭を掻くと、

 「なんとか生きてるよ、ギルド長にも顔見せなくちゃいけない。」

 と照れくさそうに言う。

 「そんなん飯食ってからでいいだろうよ、俺たちの奢りだ。おーい!お嬢ちゃん!酒と飯ありったけ持ってこい!!!」

 細身の男がそう言うのを皮切りにあらゆる冒険者たちが男の周りに集まり始める。バシバシと男を叩く者もいれば男の手を握り礼を言う者もいる。

 男は真に英雄であった。

 

 男が騒ぎ、飯を食い、酒を飲んでいると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。

 「おい!」

 男が振り返るとそこにはこのギルドの長がいた。

 「あんたは何で報告にも来ないで酒盛りをやっんだよ!!」

 男の近くに居た冒険者たちが離れ始める。

 「いやぁ、、腹が減ってましたし、みんなが

 男の頭に拳が降ってくる。

 「行方が知れなかった奴が呑気に飯食ってんじゃねぇ!!来な、あんたは今死んだことになってるから書類を変更しなきゃいけねぇよ。」

 男は顔をしかめる。これは時間がかかりそうだ。

 

 ギルド長は男を引きずって奥へ行く時酒盛りをしている冒険者たちに向かって怒鳴った。

 「酒盛りをするのに何であたしを呼ばないんだよ!!!ぶっ殺すぞ!!」

 冒険者たちは戦慄した。

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その魔剣は魂を喰らう @summer-shade

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