第2話
あの緊急招集から2日後の晩、街の冒険者達はアンデッドの軍勢の侵攻してくる方角である西の門の前に集まっていた。近くには門の前で盾と槍を構えてアンデッドを迎撃する予定の兵士達もいる。そして集まった冒険者達にギルド長が話し始めた。
「喜びな!この戦で生き残った兵士と冒険者に領主から特別褒賞がでることが決まった!援軍もくる!相手はアンデッドだ、やばくなったら梯子で門の上まで上がってきな!ギルドのポーションをドバドバつかってやるよ!いいかお前ら!街を守れ!そして生き残れ!!!」
「「「「ウオオオオオ!!!!」」」」
前回よりも一段と大きい雄叫びが上がる。アンデッド如きに殺される冒険者などここに居るはずが無いと誰かがいった。士気は完璧だ。彼らは深い闇の門の外へと戦いに赴いていった。
アンデッドとの戦闘が始まって三刻程が経った。日は頂点に近づきつつあるがアンデッドの勢いは衰えない。しかし、確実に終わりが近づいている、正面と右側のアンデッドを大剣でなぎ払いながら男はそう考えていた。
戦は今のところ順調、怪我人が何人か砦へ避難したものの死者は0、流石は手練れの冒険者たちといったところだろうかアンデッドには引けを取らない。壁や兵士のタワーシールドを背面に置き戦っているため背後からの不意打ちもない、丁寧に目の前の敵を屠ってゆく。
勝てる、問題ない、男がそう思った直後であった。
ドォオオオン!!
西の門の方から轟音が聞こえてきた。何事か!?男は近づいていたアンデッドを剣の腹で叩き潰すようにして倒し、轟音の方を見た。
驚愕に目を見開く。大地が焼け、黒こげになった人のようなものが見える。戦場にぽっかりと穴が空いている。
「リッチだ!!」
砦の上の兵士が叫ぶ。リッチは高度な魔術を使うアンデッドだ。先の轟音とあの惨状も魔術によるものだろう。
あれがリッチによるものであるならとてもまずい。男は戦場の空白に向かって走り出した。
惨劇を目の当たりにした男は戦慄した。あらゆる生物が炭と化している。辺りを見渡していると他の冒険者たちも駆けつけてきた。
「おい怪物、アレを殺しにに行くぞ。」
冒険者の1人が睨みつけている方角を見るとローブを纏った人影が見えた。
「あぁ、行こうか。」
男と他の冒険者は人影に向かって走り始めた。
リッチの姿が大きくなるにつれて、奇妙な音が聞こえてくる、しわがれた老婆の声のような、気味の悪い音だ。まずい!?呪文の詠唱をしているのか!?そう思った男が足をさらに速めようとした瞬間、視界の外から2体のアンデッドが飛び出してきた。リッチに気を取られてリッチの周辺にアンデッドが多くいる事に気づかなかった。男は大剣を抜き放ちアンデッドを切り、跳ね飛ばし、踏み潰しながら進むことを試みるが、先ほどまで相手していた量とは比べ物にならない量のアンデッドが押し寄せてくる。
まずい、詠唱が阻止できない、男は懸命にアンデッドの軍勢を突破しようとするが叶わない。
「オオォォオオ!!!!」
男は攻撃することをやめ、重装備でのタックルでアンデッドを吹き飛ばしながら進む。
見えた!視界から一度消えていたリッチが再び視界に帰ってくる。
いける、そう思った刹那雷鳴が轟いた。
男や他の冒険者のみならずアンデッドも巻き込む広範囲の稲妻、地に倒れ伏す男は自分が間に合わなかった事を悟った。
「この街は主人が実験のために用いる事となった。拒否は許されないのだよ。」
リッチが気味の悪い声で何か言っている。意識が薄れる。感覚が消える。
コロセ…
クラエ…
コロセ…
稲妻を放った後リッチは戦場を見渡した。もう一度あの程度の規模の魔術を使えば戦える者はほとんど排除できるだろう。更なる呪文の詠唱を始めながら街へと歩を進める。先程魔術に巻き込んだアンデッドは既に補充された。
もうじき終幕だ、そう考えていたリッチは背後からの強烈で重厚な気配に飛びのいた。
巨大な男であった。先程自分に最も近づいた個体だとリッチは認識した。あの雷撃を耐え抜いたのか、リッチは驚く。男が突っ込んでくる。周りのアンデッドを呼び寄せ盾とし、その後ろで詠唱を続けながら男を観察する。
男は黒い靄のようなものを身体にまとっていた。よく見ればその靄が雷によって出来た火傷を修復している!?
クラエ… コロセ…
何処からか声が聞こえる。地獄の底から聞こえる声という比喩がふさわしいとさえ思える、重く、恐ろしい声。
男が大剣を振り回し近づいてくる。リッチは詠唱が完了した魔術を男に集中させ放つ。一瞬男の動きが止まる。リッチは次の詠唱を始める。
「タリナイ、タリナイナア」男の口から言葉が漏れる。まだ、死なないのか!?リッチは恐怖を覚える。恐怖を与えるはずのアンデッドなのにもかかわらず。
男が目の前まで迫ってくる。
「やめっ」
リッチはその言葉を紡ぎ終える前に男に斬られ消滅した。
コロセ…
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