Epi98 その時審判は下った
元旦当日。
明穂は有言実行だ。早朝、それも午前五時半に来て、俺のベッドに潜り込んでた。
しかもパジャマを脱がされ、ご機嫌な状態の俺を食ってたし。気付いたら明穂が上に乗ってるんだもん。
「勘弁して……」
「元気が一番だよ大貴」
事後に再び眠りにつくと、目覚ましで目覚めることに。
「大貴。おはよー」
「明穂のせいでなんか寝不足な感じ」
「あたしのせいじゃないって。あたしの性欲のせいだから」
それは結局明穂ってことでは?
仕方なく起きて身支度を整え、今日はみんなで初詣。
「もしかして始発で来たの?」
「待ちきれなかった」
始発であの時間だと誰も起きてない。どうやって家に?
「合鍵もらってるよ。もうこの家の一員だし」
いつの間に。
そうだ、陽和の件も話しておこう。
「陽和なんだけど」
「遠慮要らない。陽和ちゃんだけはあたしも許すし、一度でいいから相手してあげて」
駄目だった。近親相姦だからって思ったんだけど、明穂にそんなモラル求めても無意味だ。逃れられない運命ってあるんだよね。陽和の相手なんてしたくないんだけど。でも、このままじゃ明穂みたいに、部屋に忍び込んだり、風呂に入り込んでとかありそうだし。だったら自分の意志で……。無い!
時間になると陽和と明穂で駅まで、田坂さんに長山さんのお迎えに行く。
両手に花。明穂と陽和。明穂は嬉しいけど陽和じゃなあ。せめて田坂さんなら。
「いてっ」
「大貴。田坂に会えるって喜んでるでしょ」
「喜んでない。ただ、この状態なら片方は田坂さんが、いてっ! 痛いって!」
田坂さんは本気で駄目なんだ。俺の気持ちが入っちゃうって、そう思ってるから。
でも陽和まで俺を抓らなくても。一番可能性が無いのが身内なんだし。
駅まで行くと長山さんに田坂さんが居て、俺を見るなり手を振って近付いて来る。
「あーちゃん、あけおめー!」
「あけましておめでとう」
あーちゃんはデフォになったんだ。
で、陽和と明穂に挟まれた俺を見て「妹は無いよ」だって。それを聞いた陽和は舌出して「お兄ちゃんは渡さないんだよ」とか言ってるし。なんなのこれ。
その後近所の神社へ出向いてお参り。
「お兄ちゃんとできますように」
「あーちゃんとする」
「あーちゃんと一歩先へ行けますように」
なんだこれ?
三人とも声出して俺と? 明穂はと言えばかなり真剣。しっかりお願いしてるみたい。なにを願ってるのかは聞いても言わないと思うけど。他の三人はねえ。欲望丸出しで。少し控えめなのは田坂さん。長山さんはもう、やる一択。陽和もにたようなものか。
初詣が済むと屋台でなにか食べようってなって、りんご飴だのタコ焼きだの食べて帰った。
人が多過ぎて長居する気も無かったし。
で、全員集合で俺の部屋が狭い。
「リビングと思ったけど父さん帰って来て、寛いでるの邪魔しちゃ悪いか」
「挨拶くらいはしてもいいと思う」
「じゃあ、みんなで」
「お年玉とかくれるの?」
陽和と俺ならともかく、長山さんに渡すわけ無いじゃん。なんかずれてるし。
リビングで正月早々少し酔い気味の父さんに、女子連中が挨拶すると鼻の下がね、ものすごい伸びてるのがよくわかる。女子高生に挨拶されたら、日頃そんな若い子に相手にされないおっさんは、喜ぶのも当然だよね。これ、強請ったらお年玉出しちゃいそうだし。
さっさと切り上げて部屋に戻ると密度高い。
ベッドに四人。俺は椅子に座ってる。
「あーちゃんの匂いー」
変態が居ます。長山さんって人はいいんだろうけど、明穂同様変態入ってる。
田坂さんはにこにこ笑顔でなんか癒される。見てると明穂に睨まれるけど。
陽和はこの中ではやっぱ子どもっぽいな。
「大貴。そんなとこ居ないでこっち」
明穂の隣にと言うか、膝の上? 俺、いくら細身だって言ってもそれなりに重いよ。
でもそこに移動したらあっと言う間に押し倒されて、俺の上に結局乗っかってるし。
「大貴は渡さないからね」
抱き締めて独り占め状態。いいんだけどね。明穂だから。
三人とも悔しそうだけど、比較的冷静に見えるのは陽和。田坂さんまで指咥えてみてるし。長山さんは明穂をどかそうとして、睨まれて怯んでる。
なんだかなあ。
ラブコメにありがちな展開。ハーレムって奴だ。
実際にこんな事はない。ずっとそう思ってた。俺のどこにそんな魅力があるのか。これは考えるに明穂の存在が大きいんだろうな。最高峰の女子が捕まえた男子は、何かしら魅力があるから、そう考えて寄って来るんだと。
どっちにしても明穂以外とは無いから。あ、でも田坂さんとは「いてっ!」って、なんで明穂には気付かれるかなあ。
「どうしたの?」
「いえ、なんでもありません」
暫く話をしたりして二人が帰って行った。
「あーちゃん、また学校でー」
「今度二人でデートとかしたいなあ」
「無いでしょ」
「大貴、デート程度なら許すから」
それ以上先へ進んだらチ〇コ捥ぐとか言ってる。怖いんだってば。
部屋に戻ると「小説書こうか」だって。
明穂は本気で盆暮れ正月は無いを実践したいようだ。已む無くパソコンの電源を入れて、小説を書き始めると脇で見てるし。
時々「そこの字違う」とか「その文章だと前後の繋がりが悪い」とか指摘が。
常に校正校閲が入りながらの作業だけど、あとで手直ししない分、結局効率はいいみたい。
正月もそうだけど、学校が始まるまで毎日小説書いてた。
「明日から学校か」
「書く時間が限られるけど、それでもやるんだよ」
「うん。まあやるしか無いよね。ここまで来たんだし」
「大貴がやる気出してくれて嬉しい」
始業式当日は早く帰れるから、やっぱり小説漬け。
「もう時間無いから」
残りもわずかしかない。ここで一気に仕上げないと、せっかくお膳立てしてくれた明穂のお義父さんにも悪いし、なにより期待してる明穂に悪過ぎる。こんなに協力してくれてるんだし。
締め切りと言うわけじゃないけど、一月中旬前に小説が仕上がった。
「できた」
「間に合ったね」
実際には四日後が一応の期限。
あとは持ち込んで読んでもらうだけ。
「正直なところ、最初の一発目から採用してもらえるとは、あたしも思ってない」
なんか弱気な発言が明穂から出た。
「商業ベースに乗る小説って、読めばわかるけど人を引き込む力が強い。今回の大貴の小説もその力はあるけど、じゃあ、今出てる小説と比較してどうか、って言ったら、まだ力が足りてない。ただ、将来性を感じさせるから、何作か持ち込めばきっと本になる」
高校生という年齢を考えても、その将来性は極めて高いのだとか。これが大人なら先々期待薄でも十代っていう年齢が、期待値を高めるのだとも。有望株として出版社からお抱えの声が掛かる可能性はあるそうだ。
「だから今回駄目でも気落ちしちゃ駄目だから」
「うん。俺もそんな簡単なことだとは思って無いし」
無理をお願いして時間を取ってもらった編集者と面会に。
事前に明穂のお義父さんから連絡してもらって、出版社に出向くんだけど、緊張感が半端ないし、それでも今回は明穂が一緒に居るからいくらか和らぐ。
出版社に到着し受付で担当編集者を呼んでもらい、待つこと暫し二十分。
「お待たせ。君が三菅さんの言ってた浅尾君だね」
「はい。無理なお願いを聞いていただきありがとうございます」
「じゃあ、原稿を預からせてもらおうか」
「これです」
原稿を手渡すとしっかり受け取ってくれて「二週間後に連絡するから」と言われた。今回は駄目でもなんでも連絡だけはするそうだ。通常駄目な場合は無言だから、明穂のお義父さんの力なんだろうな。なにからなにまで特別扱いだ。
手渡しが済んで緊張が解れると、明穂と手を繋いで家に帰ることに。
結果が出るまで少し時間は掛かる。でも他の作品をすっ飛ばして読むのだから、どれだけ好待遇なのか。これで全然駄目だったら、明穂のお義父さんにも申し訳立たないんだよね。
そう考えるとなんか胃が痛い。
「大貴。考えすぎない方がいい」
「でも」
「大丈夫、酷評されるような作品じゃない。それだけはあたしが太鼓判押す」
そして二週間後。
俺のスマホに着信があって、担当編集者から話があった。
『浅尾君、高校生だよね? ちょっと他とは隔絶した感じだね』
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