Epi97 騒動は去り日常が戻る

 明穂に一杯食わされた。

 風呂場で菜乃葉ちゃんに蹂躙されそうになり、出ようとすると今度は浴室のドア開かないし。人影が見えることから明穂が押さえてるっぽい。

 ここで食われとでも?

 さっきから、俺の股間せっせと洗ってるし、ドア開けようとした隙に握られて、しかも密着して柔さが伝わってくるし。


「あああ明穂!」

「来ないって」

「そこに居るのは明穂だよね? 開けて、早くしないと食われる」

「大貴兄ちゃん、これ、どうするの?」


 それはどうするのではなく、ここで使ってはいけません。菜乃葉ちゃんにはまだ早いんです。もう少し大人になってからにしましょう、とか思ってる場合じゃない。

 みゃー! なんかどこかで感じた感触。明穂によくやられてる奴。


「ちょちょちょ、ちょっと」

「んんん?」


 あきまへん。もうがっつりいかれてるし。下手に動くと噛まれるし。

 陽和じゃないだけマシだけど、相手の年齢考えると罪悪感しか湧いて来ない。


「あの」

「ん?」

「どこでそれを?」

「あいおあん」


 やっぱ仕込んだのは明穂だった。明日には帰るから、その前に既成事実をとか考えたんだろう。こんなことばっかり手回し良過ぎるし。

 でも、なんか心地良いって言うか、少しぎこちないって言うか、じゃない!


「止めた方が」

「ん?」


 駄目です。離してくれません。

 結果、その瞬間にびっくりして離れたけど。


「うえー」


 初めてだとその反応になるんだね。

 って言うか、いい加減解放して欲しい。なんか従妹ってことで、抵抗は陽和ほどに無いせいもあって、少し冷静になれるけど。このままだと既成事実を積み重ねられちゃうし。


「出ようか」

「まだしてない」

「それはもう少し大人になってから」

「自分だけ満足して終わらせるんだ」


 そのセリフも出所は明穂でしょ? 俺がこう言ったらこう言い返せみたいな。

 ふくよかな体型は俺的にはありだけど、年齢がありじゃない。それに明穂以外は抱かない。決めたことだから絶対守り切る。

 鋼の意志で乗り切って、でも、ちょっとその、気持ち良くさせて満足させて、勝手に風呂からフラフラしながら出て行った。

 入れ替わりで明穂が入って来た。


「しなかったんだ」

「しない」

「なんで?」

「明穂以外絶対抱かない」


 俺の言葉になんか微妙な反応かと思ったら、俺に思いっきり抱き付いて来て「大貴がそう言ってくれるとすごく嬉しい」だって。

 やっぱ嫌なんじゃん。複雑な思いを抱えながら、経験ってことで自分を騙してたんだ。そんな明穂だから他の子とはあり得ない。

 でも風呂場でがっつり明穂に食われました。


「大貴の気持ちがすごく嬉しい。でも経験もさせたいって気持ちもある」

「無理しなくていいってば。俺は明穂だけで充分だし、その分明穂がいろいろ教えてくれれば」


 俺の部屋で抱き合って眠ることになったけど、やっぱ握られたまんまだし。

 滅茶苦茶やらかす明穂だけど、行動の裏には葛藤もあったんだと知った。そんな明穂が葛藤しなくて済むように、俺がしっかりしないと駄目なんだよね。


 翌日。


「姉さん、お世話になりました」

「お世話になりましたー!」

「今度は合格したらだね」

「必ず合格して大貴兄ちゃんと一緒に住む」


 見送りは全員で駅まで来てる。


「本当にこっちの高校受験するの?」

「当然です。大貴兄ちゃんが待ってるんで」

「待って無いけど」

「大貴兄ちゃん、昨日のことは忘れないから」


 ヤバい。

 佳菜子叔母さんは昨日のこと。


「明穂ちゃんに睨まれたし。好きにさせろって」


 事前に手は打ってあったってことか。相変わらず抜かりが無いのが明穂だ。

 陽和が悔しがってる?


「お兄ちゃん。あたしとは無いの?」

「だって、家族だから」

「家族でもお兄ちゃんの愛が欲しいな」

「愛だけならいくらでも」


 肉体的な繋がりは却下。

 それはまともな家族の姿じゃないし。

 二人を見送って家に戻ると、早速明穂に缶詰めにされた。


「ロスした分、取り返すんだからね」


 まあ仕方ない。明穂の本音もわかったし、心配とか葛藤とか、余計なことを考えずに済むよう、俺が頑張ればいいだけだし。


「菜乃葉ちゃんの体どうだった?」


 え?

 まあ、それは個人的な感想で言えば、わりと好きな方なのかも。


「気に入ったんだ。そうかあ。肉付きのいいのが好みなんだね」

「えっと、そうでもない」

「あたしが少しくらい太っても大丈夫そうだね」


 明穂は自分を律することができるから、たぶん太ったりしないと思う。


「メリハリ利いてるから、明穂は別格なんだけどな」

「そう?」

「うん。全てに於いて最高だもん」


 なんか嬉しそうだ。

 机に向かう俺の後ろから抱き締めてくるし。柔いふたつの物体を頭に載せなくても。それ、気になっちゃうし、集中力が途切れちゃうし。


「あ、大貴のスマホ」

「メッセージ?」


 スマホに田坂さんからのメッセージが入ってた。


『初詣一緒に行きたいな』

「だって」

「みんなで行こうか」

「いいの?」


 初詣まで独占する気はないとか。

 別に新年早々なにかあるわけじゃないんだって。そこまで飢えた連中じゃないだろうってことで。

 返信は『明穂と陽和も一緒だけど、それで良ければ』って。

 すぐに返信が来て『みんなで初詣だね』と返って来た。


「長山からの誘いだと危ないけど、田坂はその辺一歩引くからね」

「そうなんだ」

「長山の誘いは乗っちゃ駄目だからね」

「気を付けるよ」


 この日もしっかり書き上げて、少しずつ仕上がってくると、明穂による校正校閲でしっかり完成度を高めていく。

 翌日は明穂にしては珍しく一度家に帰るそうで、駅まで見送ってそこで別れた。

 離れ際にしっかりキスしてハグして、名残惜しむ明穂だったけど、元旦早朝にはこっちに来るらしい。


 家に帰ると賑やかだった空間に静けさが。

 菜乃葉ちゃんとか明穂とか居ないと、急に静かになるもんだなあ、なんて思ってたら陽和が来て抱き付いて来るし。


「お兄ちゃん」

「なに?」

「菜乃葉ちゃんと同じことしたい」


 えーっと、それは、ちょっと遠慮したい。

 菜乃葉ちゃんにはそこまで抵抗無かった。明穂には悪いけど少し楽しんだ自分も居る。でも、陽和はやっぱ無いんだよね。


「俺的に無理なんだけど」


 その言葉でなんかがっくり肩落としてるし。そんな落ち込まなくても。

 明穂による洗脳が解けない限り、こんな状態なのかな。どこかで兄に恋するのは変だって、気付いてくれるといいんだけど。


「お兄ちゃん。同じことしたい」

「だから」


 抱き付きが激しいし、キスしてこようとしてるし。妹とキスは無いし、同じこともできないんだけど、これどうしよう。

 と思ってたら母さんが来た。


「仲いいなあ」


 あかんです。

 母さんも羨ましがりはしても、止めることはない。


「大貴」

「なに? なんとかして欲しいんだけど」

「しちゃえば?」

「は?」


 この親にしてこの子あり。どっちもモラルが崩壊してるし。インモラルなのは明穂だけで沢山なんです!

 陽和を引き摺りながら部屋に戻ると「お兄ちゃん、なんでしてくれないの?」だって。

 ベッドにドカッと座って俺を見てる。俺は立ってるけど。あ、そっちじゃないよ。


「妹だし、やっぱその関係性は無いって」

「一回だけでいい」

「えーっと」

「一回だけ、それで諦める」


 懇願されてもなあ。でも、仮に一回相手してそれで収まるの?


「それで本当に諦めきれるの? 逆に燃え上がるとかあるんじゃないの?」

「それは……」

「陽和が俺を好きだってのは、俺も嬉しい。でも体の関係は違う」


 俯いちゃって泣きそうだし、なんかブツブツ言ってるし。


「お兄ちゃんは意気地なし」

「えっと、それは違う気が」

「お兄ちゃんはヘタレ」

「だからそれも違うと思うし」


 ずっと念仏の如く唱えてるし、なんとかして欲しい。明穂が居たら少しは変わるのかな。


「お兄ちゃん」

「なに?」

「来年はお兄ちゃんとするから」

「えーっと、たぶんないと思う」


 絶対するんだとか、初詣でも祈願するんだって。神様もさすがに呆れそうだけど。


「高校合格祝いならいいでしょ?」

「それは別のもので」

「お兄ちゃん以外要らない」


 明穂も似たようなこと言ってた。誕生日プレゼントだった。大貴盛りとか。

 来年俺は陽和に食われる運命なのか。これ、どうしたらいいんだろう。

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