Epi96 一夜の過ちではない

 同じベッドで寝るのなんて、いつ以来だろうか。

 まだ陽和が三歳か四歳の頃が最後かもしれない。その頃は仲も悪くなかったし、良く俺に甘えてくる可愛い妹だった、と記憶している。

 ただね、その頃は幼いこともあったんだろうけど、朝起きるとね地図が描かれてて、なんかやたら寝心地悪かった。べちゃーって感じで。


「お兄ちゃん、そんなの今言わなくても」

「でもさ、全部俺のせいにしてたじゃん」

「わかんないけど、お兄ちゃんだからかも」


 さすがに中学生でそんなのは無いだろうけど、こうして仲直りして妹と同じベッド。うーん。世間ではこんなの無いと思う。ブラコン属性が陽和にあったとは、新たな発見ではある。俺にシスコン属性があれば、たぶん俺の小説同様の展開に……。


「お兄ちゃん」

「なに?」

「明穂さんも言ってたけど、いいんだよしても」


 えーっと、それは男女の関係? 無いでしょ。相手は妹だし、やったら近親相姦だし。明穂の言い分をいちいち真に受けてたら、ただの変態になるから、聞き流すことを覚えてもらった方がいい。


「陽和にはいずれ相応しい相手が見付かると思う。それまでは大切に守った方がいいよ」

「相応しいって相手って、お兄ちゃんはあたしより遥かに先に行ってる。だからあたしが相応しくないってこと?」


 なんで? 陽和が相応しいかどうかじゃなくて、その関係性が異常だって気付いて欲しい。ましてや兄が喪失相手なんて、まともじゃないし。


「そうじゃなくて、俺よりいい相手なんて、それこそ溢れ返ってる。だから自分に磨きをかけて、いい相手を見付けて俺に自慢してくれればいい」

「お断りってことなんだ」

「いや、あのね、兄が初体験の相手なんて、どう考えてもおかしいでしょ」

「いいって言ってるのに」


 陽和の洗脳を解くのは骨が折れそうだ。明穂に深い暗示でも掛けられてるんじゃ?

 隣で物欲しそうに見つめられてもないからね。


「お兄ちゃんの意気地なし」

「いや、意気地の問題じゃないと思う」

「ヘタレ」

「だから」


 どうすれば理解してもらえるのか。兄妹では広く世間を見渡しても、そうそうあるもんじゃないって。


「じゃあ、お兄ちゃん。十八歳でも処女だったらいいの?」

「問題を履き違えてるって。年齢とかじゃなくて、兄妹ってそういう関係になるものじゃないから」

「菜乃葉ちゃんと比べたら発育不良だよね。だからなの?」

「そうじゃないってば」


 これ、どう言えばいいの? 俺には難題が過ぎー!

 だー! なにしてんのさ!


「ひひひひよりー!」

「お兄ちゃんだ」


 まさかの明穂仕込みの股間まさぐり。間違いない。一瞬明穂かと思うような扱い方だし。

 こんなことまで教えてたの? どこまで陽和とさせたがってるんだって。

 取り出しちゃ駄目だってばー!


「お兄ちゃんはもらった」

「もらうとかそうじゃないって」


 ベッドで互いの攻防が始まり、しかしすでに俺は陽和の手の中にあって、下手に動くと痛いしもげそうだし、俺が圧倒的に不利。先手を取られたのは痛すぎた。


 結局攻防に決着がついたのは小一時間も経過した頃。ずっと握られてて反応した俺の負けだった。

 だって、刺激加えられたら相手関係ないし。それだけで反応しちゃうし。情けない俺の相棒だし、それでも最後の一線を越えることは阻止して、陽和の手の中で力尽きた。弱いよ、俺。


「今度は繋がろうね。お兄ちゃん」

「ない……」


 陽和と並んで疲れた体を横たえ、そのまま眠りについた。


 朝になると明穂が部屋に来て、掛け布団を剥いで俺と陽和を起こす。寒いんだけど。股間が。って、穿いてないからだ。昨日陽和にパンツごと下ろされたから。


「大貴。それもらっていいの?」

「勘弁して」

「あ、明穂さんおはようございます」


 陽和も起きたようで見ると。


「なんで? パジャマとか下着は?」


 全裸だし。本気で奪いに来たと理解したけど、辛うじて阻止した……んだよね? まさか繋がって無いよね? この状況だと明穂が勘違いするかもしれないけど、無いはずだよね? その前に液漏れしたから。


「大貴、繋がった?」


 とか言いながら、陽和の脚広げてなにしてんの? 俺に見えるように広げるから、見えちゃったじゃん。


「残念。まだだった」

「いや、あの、陽和になに仕込んだの?」

「なにも仕込んでないよ。繋がりたいって言うから、ひと晩貸すって言っただけで」


 なんか気まずさもあるけど、陽和を見ると手をぐっと握って「次こそ」とか言ってるし。明穂は明穂で「応援するから」とか、面白がってるでしょ。

 で、身支度して部屋を出る際明穂が「いい具合に仕上がった」とか言ってる。やっぱブラコンに仕立て上げたでしょ。中学生くらいだと手玉に取っちゃうんだろうし。


「明穂」

「なに?」

「ブラコンは拙いって」

「いいじゃん。あたしは他人よりその方が安心できるんだよ」


 明穂はそうかもしれないけど、田坂さんとか長山さんより、マシとか思ってるんだろう。でも俺から見れば田坂さんの方がいいんだけど。妹は無い。


 ダイニングに行くと佳菜子叔母さんと菜乃葉ちゃんが居て、朝食の準備もできてるようだった。


「大貴兄ちゃん、おはよう!」

「おはよ」

「明穂さん、陽和ちゃんもおはよー」


 こうして見ると菜乃葉ちゃんの方がマシか。少なくとも陽和とするよりは。

 でも、マジでうちの高校受験するつもりなのかな。


「菜乃葉ちゃん、明日には帰っちゃうんだよね?」


 明穂がなにか企んでるようで、菜乃葉ちゃんに声掛けてるし。

 予想では夜に俺の部屋に夜這いさせて、事に及ばせようなんて考えてるんだろう。明穂が譲るそぶりを見せたら、それで間違いない。

 朝食が済んで、今日は陽和と菜乃葉ちゃんの二人で、どこか出掛けることになった。俺は小説を書く必要があるから、って一緒の行動をさせなかったのが明穂だ。


「なんで?」

「なにが?」

「今日も菜乃葉ちゃんと遊ぶのかと思ってた」

「大貴には小説仕上げてもらわないと」


 すでに一日でも惜しい状況だから、冬休み中に何としても仕上げて欲しいとか。

 夕方までひたすら缶詰め状態の俺になった。そのお陰かどうか、一万文字程度書き上がって、全体の三分の一は仕上がったかもしれない。


「いいペースだった」

「明穂」

「なに?」

「頭が朦朧とするんだけど」


 少し体を動かした方がいい、と言われて部屋でストレッチ。

 明穂に手を取られて背中に背負われて、明穂を背負って、互いに腕を引き合ったりして、開脚からの前屈み。一通りストレッチが済むと少しはっきりしてきた。


「運動不足になるから、朝はちゃんとジョギングしよう」


 朝はきついんだよね。

 夕食後にまた少し書き進めるんだ、とか言われて部屋に缶詰め。暫くすると「お風呂入るんだよ」と腕を取られ脱衣所に放り込まれた。


「ゆっくり浸かって血行促進だね」

「あとがつかえない?」

「今日は最後だから大丈夫」


 いつの間に。

 そう言えば脱衣所の時計を見ると、すでに十一時。風呂の明かりは消し忘れ?


「さっさと入るんだよ」

「あ、うん」


 服を脱いで入ろうとしたら、明穂はまだ脱いでない。


「明穂は?」

「先入ってて」


 なんか変だけどまあいい。とりあえず肩こりも酷いし温まろう。明穂は一旦出て行ったみたいで、なにか用でもあるのかな?

 浴室のドアを開け――。


「あ、大貴兄ちゃん。待ってた」


 目の前に全裸の少女一人。実にふくよかな体型で陽和とは全然違う。じゃない!


「ななな?」

「なななじゃないよ。菜乃葉だよ」


 そうじゃない。なんで、と思ってたら風呂に引き摺り込まれて、俺の股間がヤバいんです! しっかり反応しちゃって、それを見て顔真っ赤にして、それでも視線をそらさず凝視する菜乃葉ちゃんが居て、なんで? どうして?

 暫しパニックの俺とは裏腹に、ボディシャンプーで俺の体を洗い出すし。


「ちょ、ちょっと、待って、なの」

「なんか変」

「変じゃなくて、なにしてんの!」

「大貴兄ちゃんの体洗ってる」


 明穂とも違って、出る所は出てるけど、引っ込むべきところも少々出てる。まあいわゆる洋ナシ型。だからふくよか。

 で、ここに来て少し冷静になって気付いた。


「あきほー!」

「大貴兄ちゃん、明穂さんなら来ないから」

「じゃないってば! これ拙すぎ!」

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