Epi95 家には家の流儀がある

 明穂に矛先を向けた佳菜子叔母さんだけど、その言い分にたじたじで言い返せないみたいだ。やっぱり口達者すぎて並の大人じゃ敵わないみたい。

 それに高校生としても異例の実績を持ってるし。文芸部に脚光浴びせたのも、明穂の新たな武勇伝になってる。俺のコンクールにしても、家の問題を片付けたのも、全部明穂。大人でも手古摺ることを成し遂げてるんだから、もうそれを聞かされれば、子どもの癖になんて言えないでしょ。関わったすべてのことがいい方向に向かったんだから。


 母さんも少し援護射撃入れて、佳菜子叔母さんの旗色は完全に悪くなってる。

 明穂自身が菜乃葉ちゃんと好きにしていい、とか言ってる以上、佳菜子叔母さんに打つ手は無いし。

 で、悔し紛れに俺に「なんなのあの子?」とか言ってる。


「俺にとってすべてです。明穂が居なかったら、この家に俺の居場所は無かったと思います。学校もそうですし、兄妹関係の改善も明穂の成果です」


 賢く聡明で行動力があって、なに考えてるかわかんない部分はあるけど、でも悪い方向へ向かったことがない。これってすごいことだと思う。って言ったら。


「勢いだけで進んでる感じだけど、今は成功してても、将来もそうとは限らないから」

「それはその時に工夫して乗り切ると思います。明穂は失敗して当然だと言ってますし、失敗があればそれを乗り越える努力は欠かさないです」


 失敗しないとはひと言も言ってない。

 大丈夫だと太鼓判押すことはあるけど。それは確信があってのことだと思う。


「天才肌なのかしら」

「だと思います」

「それにしても姉さんったら、大貴君を虐げてたなんて」

「でも、それがあって明穂のすごさを実感できたんです」


 俺を見て「辛かったんじゃないの?」って言ってる。確かに辛かったし、家でも学校でも扱いが最低だったから、なんのために生きてるか、わからなくなったこともある。

 でも明穂と出会って全てが一変した。この事実はどれだけ子どもだから、なんて言っても意味無いと思う。大人が道を誤ってそれを正した。子どもだと思ってる存在がだよ? 仮に佳菜子叔母さんがそれを正せるのか、ってなったら相当難しいんじゃないのかな。

 だから。


「人間だから間違う事もあると思うんです。でも明穂ならちゃんと正せる、そう確信してます」


 無鉄砲に突き進む訳じゃない。俺なんかの知らないところで、限界まで考え抜いて結論を得てる、そう思う。


「はあ……。なにを言っても無駄みたいね」

「明穂はこうと言ったら曲げないですから」

「で、全部良い方向にねえ」

「菜乃葉ちゃんが仮にこの家に居ても、明穂も毎日来るんで、道を誤れば正してくれますよ」


 すでに降参してるみたいだ。我が家の家族揃って明穂の援護してるし。これまでの経緯も話したらとても敵わないってなった。

 ひとりだけ敵に回っても損だと思ったのかも。

 菜乃葉ちゃんに向かって「どこの高校受験するの?」と聞いてる。


「大貴兄ちゃんと同じ高校」

「偏差値とか大丈夫なの?」

「えっと、うちの高校、偏差値割と高いです。入っちゃえば楽なんですけど」


 入学時に成績優秀でも落ち零れる生徒多数。

 それでも在学してるし、留年する生徒も少ない。だから変な奴も多いけど、明穂のお陰で俺の周りからは排除されてるし。


「代わりに大学受験とか難しくなる生徒も多いと思います。生徒の自主性に任せる部分が大きいんで」


 とりあえず戻って受験寸前まで意志が変わらなければ、都内の高校受験を認めるってなった。その際はこの家にお世話になることも。母さんも部屋なら用意するし、面倒見るから安心してとは言ってる。たぶん明穂が来ることを想定してるんだろうな。

 居れば家のことも手伝ってくれるし。


 夕食が済んで暫くみんなでリビングで寛ぐ。


「大貴君が高校の頂点……」


 文芸コンクールの結果を教えて無くて、それを伝えると目を丸くしてるし。その成果は明穂が居てこそと伝えると、明穂を見て感心するしかないみたい。

 でも、その明穂は俺に張り付いて、離れないどころか、股間を堂々とまさぐってて、目のやり場に困ってるみたいで。


「それ、いつもなの?」

「みんなの前では初めてかも」

「二人の時は?」

「いつもです」


 当然だけど、この光景に面食らってるのは、佳菜子叔母さんだけに非ず。

 菜乃葉ちゃんも陽和もさすがに恥ずかしそうだけど、陽和もなんだか目付きがヤバい感じ。母さんに至っては指咥えて、撫でたそうにしてるし。それだけは無いから。


「大貴。それあたしもしてみたい」

「母さんとは無いから」

「ケチねえ」

「ね、姉さん? まさか自分の息子に?」


 虐げてた分、愛しさが溢れ返って俺のすべてが愛しいそうだ。もちろん股間も食べたいとか抜かしてるし。自分の股間も疼くとか、もう明穂並に恥ずかしげが無い。年食ってる分もしかしたら質が悪いかも。


 こんな時間を過ごして客間に二人を。そして俺と明穂は自分の部屋に。陽和も自室に戻りあとは順に風呂入って寝るだけ。

 先に客二人から風呂に入ってもらって、そのあと、俺と明穂だって。

 順番決めの時に「一緒に入ってるの?」って聞かれたけど、いつものことだから、と全員で口にすると「婚約してるんだっけ」と、なんか納得したのかどうなのか。


 風呂が空いたからと菜乃葉ちゃんが呼びに来て、明穂に引き摺られながら風呂へ。

 当然だけどしっかり蹂躙されて、リラックスどころか搾り取られました。


 部屋に戻ってベッドに二人並んで寝そべってる。


「持ち込み用の小説、早く書かないと駄目なんだけどなあ」

「この状況じゃ仕方ないと思う」

「じゃあ、正月返上だね」

「それもどうかと思うけど」


 俺の股間をすりすりしながら「二日間は痛いなあ」とか言ってるし。

 だから取り出してどうするのさ。もう今日は草臥れてて動かないんだけど。


「同じ高校受験してもらって、一緒に住むようになったら、やり放題だね」


 えっと。放題は無いし、やることも無いと思う。


「ぼよんぼよんのあの体を持て余してるんだよ? 大貴が頂かないと、どこかの馬の骨の餌食になるよ。うちの学校、バカが沢山居るし、調子のいいこと言って手を付けようとするかも」

「それは明穂がなんとか防いでくれるんじゃ?」

「大貴が抱かないなら放置かなあ」


 俺のお手付き物件なら全力で守るんだとか。なにそれ。

 取り出されて遊ばれてると、ドアがノックされた。


「誰だろうね? 陽和ちゃんかな。今日は大貴お兄ちゃんとイチャイチャできなかったし」

「とにかく仕舞わないと」

「駄目」

「だから、仕舞わないとこんなの見せらんないってば」


 精一杯の抵抗を試みて仕舞うことに成功すると同時に「入っていいよね」と言いながらドアが開いた。間一髪セーフ。


「つまんないなあ」


 明穂って、この部分だけ見たらアホすぎる。


「お兄ちゃん、お楽しみだった?」

「いや、そうでもない」

「あのね、少し一緒に居ていいかな」


 明穂にお伺い立てるまでも無い。「いいよ。こっち来なよ」とか言って呼び込んでるし。

 で、ベッドに座るかと思ったら、俺の隣に無理やり体を押し込んできた。


「あのお、すごく狭いんですけど」

「陽和ちゃんも大貴の温もりが欲しいんだよ」

「でも、狭くて身動き取れない」

「そこは我慢だよ」


 そういう問題なのだろうか。

 さすがに三人並んで寝ることは無理。ベッドから転げ落ちるし。


「仕方ないなあ。今日は陽和ちゃんに譲ってあげよう」

「なにを?」

「寝る権利」

「明穂は?」


 陽和の部屋で寝るから大丈夫だって。


「お兄ちゃん。たまにはいいよね」

「なんで?」

「なんか、今日、ちょっと焼いちゃった。菜乃葉ちゃんが居て」


 俺の視線が時々菜乃葉ちゃんの胸元に行き、楽しんでるんじゃないかって、そう思ったらしいけど、無いから。確かにふくよかではあるけど、今日初めて会った子に欲情しないし。


「大貴。今日くらい大目に見てあげなよ。やれ、なんて言わないから」


 仕方ない。甘えたいだけならいいか。今までの分を取り返したい、そんなのもあるんだろうし。


「じゃあ、二人で楽しむんだよ」

「楽しむってなに?」

「好きにすればいいじゃん。抱くも良し、そのまま一緒に寝るだけも良しだよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る