Epi93 従妹と過ごす年の瀬
玄関ドアの開く音と同時に声がして、母さんが帰って来たことを理解した。
女性の声ばっかりで男性の声が聞こえない。そもそも何人で来たんだろうか。
リビングから俺と陽和、明穂まで顔を出して窺うと。
「大貴、そこで見てるなら挨拶しちゃいなさい。陽和も……。明穂ちゃんもしておく?」
母さんに程近い年齢の女性と少女が一人。親戚とは言ってたけど、母さんの姉か妹? 母さんよりは若そうに見えるから、妹になるのかな。
とりあえず挨拶することになったけど。少女の方は陽和と同い年なんだよね? なんか発育いいなあ。
「大貴」
「なに?」
「当たりじゃん」
なにそれ? 明穂が妙ににやけてるんだけど。
「こっちがあたしの妹で
なんか、この子、明穂を見て驚いてるみたいだ。俺を見ることなくずっと明穂を見てるし。美人過ぎて呆気に取られてるとか?
「あ、そうそう。こっちのすごい美人は明穂ちゃん。大貴の婚約者」
この言葉に思わず声が出たみたいで、二人ともすごいびっくりしてるし。
で、さっそく叔母さんの方から母さんにツッコミ入ってる。
「姉さん、大貴君ってまだ高校生でしょ?」
「いろいろ事情があるんだって」
「それにしたって早すぎない?」
「明穂ちゃんがね、言い出したら聞かないし、ただね、言うだけのことはある子だから」
その辺の詳しい話はリビングでちゃんと話すそうだ。事情を知らないと驚くだけだよね。
リビングで母さんと叔母さんで話をしてる間、俺たちはまず陽和の部屋を案内する。
「ここが陽和の部屋」
部屋の中を見てるけどあんまり関心なさそう。で、やっぱり視線は明穂に固定されてて、気になったのか明穂に話し掛けてきた。
「あの」
「なに?」
「えーっと、明穂さん、ですよね? それで、この大貴兄ちゃんと結婚、するんですか?」
「そうだよ」
俺を見てなんか溜息吐いたよ、この子!
「なよってる」
まあそうだろうね。体力ないし。
「なよってるけど、その分優れたものを持ってるから……。んー、まだ幼いから大貴の魅力には気付けないかな」
また俺を見て「魅力ってあるんですか?」だってさ。なんかやっぱり、そうなるんだよね。中学生って外見でしか判断しないって言うか。内面より見た目重視ってよくわかる。明穂の見た目はパーフェクトだから、なんで俺と、って疑問を持つんだろう。
「ここだとあれだから、部屋で話しようか」
四人で陽和の部屋に入って床に各々座ると。
「菜乃葉ちゃんに限らず中学生くらいだと、外見が気になるだけで中身は理解できないでしょ。でね、大貴にはすごい才能がある。あたしはそこに惚れ込んでる。いずれわかると思うけど、今、それを理解しようとしても無理だろうね。子どもだから」
なんかさらっと子ども扱い。
「でも、明穂さんくらいに美人なら、なにも大貴兄ちゃんじゃなくて、もっといい人いくらでも居そうです」
「ねえ、大貴とは初対面でしょ? ちょっとは聞かされてても、ほぼなにも知らない状態。だからね、そういう時は大貴の才能とか、いいところってなんですか、って聞くのが先。もっといい人なんてのは、菜乃葉ちゃんの主観でしかないの」
明穂とこの子だとなんか、精神年齢的には十歳くらい離れてそうな感じ。あと第一印象引き摺りすぎだと思う。確かに俺じゃ不釣り合いに見えるんだろうけど。
それでも少しは実績残してるし。全国の高校でもトップレベルだよ、一応。
ここで陽和も参戦してきた。
「あたしもこの前まで、こんなの、なんて思ってたけど、今は自慢できるすごいお兄ちゃんになってる。だから今は大好きなお兄ちゃんになった」
その好きは兄としてだよね? 異性じゃないよね? もし異性だったら困るんだけど。
言われてもなんか理解できないって感じ。また俺を見て……。そんなしげしげと見つめなくても。
「顔は、まあちょっと女の子みたいだけど、悪くはないかも」
顔じゃなくて中身で勝負してるんだってば。大したことないけど。
「じゃ、今度は大貴の部屋に行こうか」
明穂に連れられて俺の部屋に移動するんだけど、理由はわかる。表彰盾とか表彰状が飾ってあるから、それを見て理解させるつもりなんだろう。
俺の人生で初のものだし、記念になってるし。新聞の切り抜きまで明穂が用意して、額に入れて飾ってるし。それは要らないんだけど。
「そこに飾ってあるものが大貴の努力と才能の結果」
三つの表彰盾に三つの表彰状。切り抜きはまあおまけ。文芸集は部室に置いてきちゃったから、俺の手元にはないんだけど。
「これってなんですか? 表彰状? 最優秀賞?」
「全国高等学校文芸コンクールで得たものだよ。大貴の書いた小説が高校生の頂点として評価された証」
なんか背中が痒い。
少しの間眺めてたけど、中学生くらいだと、アニメやコミックしか関心ないと思う。小説なんて一部の子が読む程度で、ほとんどの子は読みもしないし関心ないし。
学校で習う程度で受験に必要なもの以外は、どうでもいいって感じだろうしなあ。
「これ、すごいんですよね?」
「快挙だよ。三冠達成した高校生は居ないんだから」
ちょっと考えてる感じで、また俺を見るし。
「なんかわかんないけど、それなりにすごいんだってのは、わかった気がします」
呆れ気味の明穂と陽和が居て、明穂に至っては「可愛らしいけどバカだ」だとか、俺に囁いてくるし。「これなら陽和ちゃんの方が全然優秀」だとか。さらには「陽和ちゃんはやっぱ大貴の妹だから、理解力あるけど、こっちは駄目だね」だってさ。
で、呆れた明穂の発した言葉は。
「栄養が胸に行って頭に行かなかった残念な子なんだ」
ふくよかなんだよね。
「あの、それって」
「言葉通りだよ。残念な頭の持ち主なんだねって。賢さは陽和ちゃんに遠く及ばず、その体形だと運動も苦手でしょ?」
なんかいじめてない? 明穂は優秀だから理解しない子は嫌いかもしれないけど。
ちょっと泣きそうになってるし。
「だからね、努力するといいよ。勉強でも運動でもなんでも、どれかひとつ、抜きんでるものを持てば、外見なんかに囚われず内面を見ることができるようになるから」
その後、明穂による説教? でもないけど、話が続いて徐々に打ち解けてきた。
ただ、明穂の俺に対するヨイショがすごすぎて、明らかに菜乃葉ちゃんを洗脳しようとしてる。俺には魅力がたくさん詰まってて、手を付けない女子は一生、半端な男しか相手できないんだとか、感性に触れれば虜になるんだとか。
明穂さん、一体なにを吹き込んでるんですか?
「あの、大貴兄ちゃんとエッチしたら、あたしもよくなれるんですか?」
「なるなる! 一発やれば頭もすっきり。感覚が冴えてくるから」
「明穂」
「なに?」
こうやって陽和も洗脳したんだ。
「一発とか、エッチとか無いから」
「なんで?」
「なんでじゃなくて」
「経験だよ大貴。お母さんは嫌だ、あたしのお母さんも、陽和ちゃんもってなれば、あとはこの子しか居ないじゃん」
そんな経験は無くても小説は書けると思う。明穂が期待するものに至らないにしても。
「無いってば」
「この子も大人の経験をすれば、一皮以上剥けるよ」
本来なら陽和ちゃんとも、とか言ってるし。
「そもそも従妹なら結婚できるんだから、することしても問題ないし」
その辺は確かにそうだけど。だからって違うと思うし、洗脳状態でってほぼ犯罪じゃん。
「あのー。明穂さんはいいんですか? 婚約者ですよね」
「ちゃんと理由があるんだよ。大貴には多くの経験を積んで欲しい。それは婚約云々とは切り離さないと、将来を狭めちゃうから必要と割り切るの」
口達者にもほどがある。思わず納得しちゃいそうになるし。中学生だと上手く丸め込まれちゃうし。
俺の抵抗空しくすっかりその気になった菜乃葉ちゃんだった。
「大貴兄ちゃん。あたしも協力します。未来の文豪のために」
洗脳されてすっかりその気。これを見て陽和が我に返ってくれることを期待、と思ったら「お兄ちゃんのためにあたしも頑張る」とか言ってるし。
明穂は楽しそうだ。
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