Epi89 それもあれもないのだ

「田坂さんとやっちゃうよ」


 脅しを掛けると。


「大貴。浮気するんだ」

「じゃなくて、気持ちが無ければ浮気じゃ無いって」

「大貴の屁理屈が出た」

「明穂が言ったと思うんだけど」


 とりあえず陽和と「やる」のは無くなった。

 俺の言葉に残念そうな顔してるのはなんで? 陽和はマジで俺と望んでたの? 異常者だよ? 兄妹の関係性なんて。放置してたら異常性愛の世界にいくところだった。


「じゃあ、大幅に譲って大貴のお母さん」

「そっちはもっとない」

「じゃあ、あたしのお母さん」

「明穂。そんなに誰かとくっ付けたいの?」


 経験させたいだけだそうで。ひとりしか知らない、一穴主義も結構だけど、やっぱり俺に魅力がある以上は、もうひとりふたり、知っておいて欲しい、そんな思いもあるから明穂が傷付かない存在、即ち陽和であり母さんであり、また明穂のお義母さんなのだと。

 そんな魅力があるとは微塵も思わないけど、今は認められたって事実があるから、前に比較すれば多少はマシになった、そう思うけど。


「あ、そうだ。親戚の子に適当なの居ないの?」

「親戚?」


 誰か居たかなあ。そう言えば親戚付き合いもあんまりない。


「山梨にいとこが居るとかお母さん言ってた」

「居るの?」

「どんな子?」

「わかんない」


 陽和から情報を得たけど、俺全然知らない。いつそんな話したんだろう。

 三人で揃ってリビングに行き、母さんに聞いてみることに。


「いとこ? 山梨の? 居るけど、確か今は受験生で陽和と同い年だった」


 居るんだ。


「俺、その話し初耳なんだけど」


 驚いた顔してるけど、俺聞いた覚え無いよ。


「言ったはずなんだけど? 山梨の親戚の家に行く時に、可愛い子が居るから大貴も来る? って言ったら行かないって、拗ねてて結局取りやめになったんだけど」


 わかりません。それは俺に化けた狸じゃ無いんですか?


「記憶に無いけど」

「大貴が六歳の時だから、覚えてると思ったけど。感情的になってて忘れてたのかも」

「陽和は覚えてるけど」

「陽和は遊びに行きたがってたから」


 つまり、俺がバカタレ小僧だったと。駄々こねて我がまま言って、母さんを困らせてたからその時の記憶が抜けてる?


「冬休みに来てもらう?」

「来れるの?」

「全然問題無いでしょ。山梨って言っても大月だから、それ程時間も掛からないし」


 受験前の息抜きで遊びに来たがってるそうだ。

 全然付き合いが無いと思ってたけど、単に俺が除け者だったってこと?


「確かに、一時期そうだったけど……。小学校以降は人に合うの嫌がってたし」


 その辺は記憶にある。

 その頃には学校でもぼっちになってたし。誰かと関わるといじめられるし。親戚の子もどうせ同じだと思って拒絶したかも。

 なんか思い出してきたような。


「大貴の根は深い。闇が深すぎるんだね」

「闇って。でも、その頃からだからキャリアは充分だと思う」

「そんなキャリアは無い方がいいのに」


 反骨精神を養ってきた明穂は自力で解決した。でも俺はそんなの無理だったから。自力で解決してきたから明穂は強い。俺は明穂に引っ張り上げてもらってるだけ。根本が大きく違うんだよね。


 母さんが親戚に連絡取って冬休みに遊びに来ることに。


「どんな子だろう」

「可愛いって言ってるけど、身贔屓もあるから」

「陽和ちゃんくらい可愛ければ、大貴もできるよね?」

「なんでそれが前提なのかわからない」


 俺ができる、じゃなくて相手が嫌がったらとか、考えないのかな。

 そもそも会ったことも無いのに、できるわけないって普通は思うよね。


 夕食後は少し小説を書き進めることに。


「いい感じだね」

「そう?」


 明穂に読んでもらったけど、どうやら好感触のようで一安心。


「このお母さんだけど、もう少し描写を細かくして、息子への愛情を書き足した方がいい」


 やっぱ駄目出しきた。明穂から一発合格をもらおうなんて甘いよね。

 暫く書いてたら急に部屋から連れ出され、脱衣所で丸裸に剥かれて風呂で蹂躙されました。

 さらに部屋に戻ると追加で蹂躙され、俺は抜け殻も同然です。

 精魂尽きて干からびて、ミイラ状態でベッドに転がってる状態。


「二日間お休みしてたから」

「もっと間隔空いてもいいと思う」

「それじゃつまんないじゃん」


 エネルギーをチャージした明穂は明日も元気一杯なんだろう。


「小説書く元気ある?」

「あるわけない」

「じゃあ明日だね」

「明日、あ、そうだ。陽和が友達連れて来るから」


 明穂もすっかり忘れてたみたいだ。


「見せ付ける」

「なにを?」

「性交」

「無いからね」


 俺の股間を握り締めながらじっと見つめてる。で、なにを言い出すかと思えば「全員落としちゃえばいい」だって。無理に決まってるじゃん。

 陽和の色眼鏡で見てる俺と、知らない人が見る俺じゃ、魅力に感じるかどうかも、大きく違うんだから当然、想定される反応なんて「なんか普通」ってのでしょ。

 直接見てきた人は違うかもしれないけど、全然知らない中学生が、会っていきなり好きです、なんてあるわけ無いし。


「大貴は後ろ向きだなあ」

「明穂が変なんだってば」


 その後は大人しく就寝したけど、妙に心地良い感覚で目覚めると、明穂に食われてるし!


「あき、ほ?」

「おはよ」


 あきまへん。

 しっかり運動してます。


「トイレ行きたい」

「ここで出すのは?」

「後が大変だってば」

「仕方ない」


 にゃー! なんで? 急に締め付けが激しくなって、逃れられないんですけど。


「あ、明穂!」

「新技を体得したんだよ」

「そんなの要らない。トイレ行きたい」

「もう。大貴は楽しみ方が足りないなあ」


 解放されてとりあえずパジャマを着て、下着は穿かせてもらえずぶらぶら。

 トイレに言ったら陽和と遭遇。


「お兄ちゃん、おはよう?」

「お、おはよ」


 ちょっと不思議そうだ。っていうか俺前屈み。

 朝の準備運動中だったのと、トイレ行きたい症候群。そのせいで起立しっ放し。


「えっと、なんかすごいから、早くトイレ入れば?」

「そうする」


 股間に視線が行ったみたいで、赤くなってたし。認識したんだろうな。

 恥ずかしいんだってば。もう明穂って、俺の羞恥心で遊ぶんだから。


 トイレを済ませて部屋に戻ると、布団を捲って中に入るよう促されるし。


「大貴。つ・づ・き」


 性欲の権化は朝から旺盛すぎる。

 がっつり食われてやっと解放されたけど、ベッドの上で屍になってます。


 体力が少し回復してから着替えて身だしなみを整え、少し遅い朝食に。


「ずいぶんゆっくりだったけど……大貴の顔見てわかった」


 朝から食われ捲ったら顔に出るよね。即座に察した母さんもやっぱ経験者だからか。ってことは母さんも似たようなことしたんだ。朝からなんて普通は無いと思ったけど、それって標準なの?


「明穂ちゃんは艶々してるし」


 そりゃあ、俺の全精力を吸い取ってるんだから、肌の色艶も良くなるよね。


「あたしも欲しいなあ」

「無いから」

「明穂ちゃんの肌艶見ちゃうとねえ」

「無いんだってば」


 母さんがどんどん明穂に毒されて行く。


「今度父さんが帰って来たら励めばいいでしょ」

「あれ、疲れ切って帰ってくるし、飽きてるし、オヤジ臭するし」


 酷い言いようだ。

 で、明穂も思ってたようで母さんと意気投合。親父は臭いし疲れてるし、少しは身だしなみに気を使って欲しいとか、若々しさを発揮して欲しいとか、もう父さんと明穂のお義父さんに同情するしかない。


「それに比べて大貴は若いからねえ」

「回復早いんです」

「いいなあ」

「いいですよー」


 そこ、話合わせないで。


 食後は部屋で小説の続きを書くことに。


「疲れてる?」

「うん」

「大貴はやっぱ体鍛えよう」

「死ぬ」


 毎日ランニング五キロくらいからスタートして、徐々に距離を伸ばせば無理も来ないとか、なんかわけわかんないこと言ってる。

 体が資本だから若い内はまだいいけど、年食ったら影響が大き過ぎるんだとか、だから今の内に鍛えておけば将来も若々しく居られるだの、お義父さんみたいに草臥れずに済むとか。


「あのー小説書きたいんですが」

「書いてていいよ。あたしは勝手に喋ってるだけだから」


 それでも「今度ちゃんと計画立てて鍛えよう」だって。

 明穂が食わなければもう少し元気で居られると思う。

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