Epi88 最終目標に向かって

 緊張し過ぎで具合悪そうな表情だったようで、母さんに心配され陽和も心配したみたいだ。

 でも、家に帰って来てやっと緊張が解れてきて、リビングで寛いでるといつも通りに。


「これが表彰状なんだ」

「こっちは盾……三つもある」

「最優秀賞、浅尾大貴殿だって」


 こんなの生まれて初めて。

 表彰されることも称賛されることも、人からなにか認めてもらった記憶すら無い。


「新聞はいつ載るの?」

「えっと、明日?」

「じゃあ記念に買っておかないとね」


 そんなの恥ずかしいから要らないんだけどな。

 ソファに座ってるとスマホがぶるぶる言ってる。


「明穂だ」

「来るのかな?」

「わかんない」


 電話に出ると。


『大貴! 表彰式終わったんでしょ? どうだった? これからそっち行くからね』


 通話終了。

 俺がなにか言う前に電話切れてるし。もうすでに向かってるんだろうな。と思ってたらドアホンが鳴るし。もう来てんじゃん。

 玄関で出迎えると。


「表彰状見せて」


 遠慮なく家に上がり込み「大貴の部屋? リビングで見てた?」とか言いながら、母さんと陽和の居るリビングに顔を出して「あるじゃん」じゃないってば。

 母さんが持ってた表彰状を受け取って、にやにやしてるし。表彰盾を見てもにやにや。


「明穂」

「なに? やっと形になったね」

「いや、あの。顔の表情怖い」

「なんで?」


 喜んでるのはわかるんだけど、口角が上がり過ぎて目も弓なりで、なんか悪巧みしてる時の表情みたいで、後が怖いんだけど。


「あとで楽しもうね」

「えっと、少し加減を」

「昨日も一昨日も無かったんだよ?」

「それは、充電と言うことで」


 俺を見て更に悪そうな表情で「充電したなら朝まででもできるよね」じゃないってば。


「あとね、小説ネタ、仕入れて来たから」

「あ、でも今書いてる奴は?」

「それも並行して進めればいいし、仕入れたネタを使うかどうかは、大貴に任せるから」


 でも、明穂が来てくれてすごく安心できる。

 これ、表彰式で一緒だったら緊張しなくて済んだんだろうな。明穂に冗談言われて気持ちを解してくれてただろうし。

 明穂が陽和を見てる。なんか嫌な予感しかしない。


「陽和ちゃん」

「え、はい」

「少しお話ししようか」

「えっと、ここで?」


 じゃなくて陽和の部屋だそうだ。悪巧みしてないかな。ちょっと心配なんだけど。


「大貴は後で呼ぶからね」

「俺も?」

「そうだよ。当事者抜きじゃ話進まないし」


 えっと、これって。


「なんの話するの?」


 母さんも疑問持った。


「わかんない」


 明穂が陽和に話をするってことは、俺に抱かれてしまえとか、わけわかんないことを言う気がする。上手く口車に載せられてその気になっても、俺がその気になるわけが無いから、その企みは無駄になると思うんだけど。でも、俺にも話があるってことは、それも織り込み済みなんだろうな。

 なにを言われても大丈夫なように、先に心構えだけでも。


「大貴。またお祝いする?」

「要らない」


 母さん、あの醜態をまた晒したいんですか?


「大貴に介抱してもらいたいなあ」

「なんで? 陽和でもいいじゃん」

「大貴だからいいんだけどねえ」


 俺はそう遠くない未来に母さんにきっと食われる。陽和にも食われるのか? だとしたら母さんより陽和の方がマシな気がする。

 母さんを前にしたら間違いなく縮む。でも陽和の場合は……無い! 無いんだってば! あやうく陽和と関係を持つことを想像するところだった。

 これも明穂が目論んだ結果かもしれない。危ない危ない。


「大貴、陽和ちゃんの部屋に来て」


 明穂に呼ばれた。母さんは蚊帳の外なのだろうか。


「あとで教えてね」


 話せる内容ならね。


 陽和の部屋に行くと椅子に座る陽和が居て、そう言えばこの部屋に入るのは何年ぶりだろう。明穂の部屋と似たような感じで、ぬいぐるみがそこかしこに、色味はピンク系が多いけど、女の子の部屋だって一目でわかる。


「で、大貴」


 きた。なにを話す気なんだろう。


「大貴、妹もの書いてるでしょ?」

「えっと、書いてる」

「で、実践した方がリアルさが増す。これは間違いない事実」

「無いから」


 仕入れたネタってこれじゃないよね?


「あのね、妹の意見を取り入れないと、永久に読まれないよ」


 刺さるそのひと言。

 今までのはリアリティもリアルさも無い、ただの童貞が思い描く妄想。と見事にバッサリ切り捨てられた。

 だから、陽和をモデルにしてでも、読者が飛び付く作品に仕立てろと。


「以前と違って陽和ちゃんは、大貴を尊敬する状態だし、今の大貴なら好きだから気持ちも違う。別にエッチしろとは言ってない。してもいいし、その方がリアルさは出るけど」


 たかがラノベでも内容が陳腐な妄想じゃ、白けて誰も読むはずもない。でも、陽和と話し合って作って行けば、真実と思わせる迫真の描写も可能になる。だから、妹ものもまた、出版社向けに書けばいいと。コンテストなんて年中開催されてるから、どこか適当なとこに放り込んで、参加して行けばいいんだとか。

 文学文芸に関しては大貴本来の作風で、ラノベはせっかく居る妹を上手く使えと。


「でね、陽和ちゃん。あーでもこれは本人の口から言った方がいいね」

「なにそれ?」

「陽和ちゃん」

「あ、えっと。あの、お兄ちゃん」


 悪魔の囁きじゃないだろうか。

 俺の天使が耐え切れなくなったら、きっと陽和と。


「協力するのは惜しまないから、なんでも言って欲しい」


 えっと。協力ってどこまで? なにを協力するの?


「陽和ちゃん盛りとかどう?」


 明穂の妄言に思わず口に出そうになる言葉を押し込んで。


「明穂」

「なに?」

「それやったら俺、ただの変態」


 いいじゃん、じゃないってば。やっぱ明穂って筋金入りの変態だ。

 他がパーフェクトな分、すごくもったいない。

 でも、陽和がまんざらじゃないのはなんで? まさかそんな変態行為も許容しちゃうの? これ、明穂にしっかり丸め込まれたでしょ。あとで変なマインドコントロール解いておかないと、本当に事件になる。


「明穂の提案は一部却下」

「いいと思うけどなあ」

「無いんだってば」


 面白がってるのが半分、残りは本気と見た。

 ただ、明穂は文芸とラノベのどっちでも、とにかく世に出したい、その意気込みだけはわかった。俺がのんびりしてるから、またいろいろ画策しちゃってるんだ。


「今は母子もの書いてるから、そっちが優先。妹ものはまた少ししたら書くから」

「そう? じゃあ、お母さんとするの?」

「しないってば! それじゃ近親相姦だし」

「すればいいのに。お母さん期待して待ってるよ」


 きっと吐く。


「それに純愛って言うか親子愛だし」

「猟奇的な親子愛とか、歪んだ愛情の果てに子どもができちゃうとか」

「どこのエロ本だってば」

「エロ本じゃなくて官能小説だよ」


 それは俺が大人になってからでも遅くは無いし。


「お兄ちゃん」


 陽和がなにか言いたそうだ。


「なに?」

「お兄ちゃんがその気になったら、あのね、その、いいからね」


 頭が噴火しそうだ。

 陽和と俺? 無い。絶対にあってはならない。そんなのまともじゃ無いし。

 じっと俺を見つめる陽和だけど、って、明穂! なにしてんのさ!


「ほーれ、膨らみかけは美味しいよ」


 じゃないってば! なに陽和の服捲り上げてんのさ。

 陽和もなすがままじゃなくて少しは抵抗しないと。

 でも、確かに明穂みたいな大きさは無いけど、いい塩梅に育ってきてはいる。この前見て思ったけど、ちゃんと女の子になってるし。ん? ちがーう!


「明穂。それ以上やったらアウト」

「なんで? ブラコンものって、需要あるんでしょ?」

「あるけど、ほんとにやったら変態どころじゃないってば」


 明穂は本気で俺と陽和でやらせたいんだ。

 こればっかりはいくら明穂が言っても、絶対実践できないことだから。


「お兄ちゃん。見たいのかと思った」

「仕舞ってくれる?」

「なんかお兄ちゃんが変態じゃなくて良かった、って思えばいいのかな」

「二人とも固いなあ。もっと砕けて乱れ捲ればいいのに」


 明穂になっちゃうってば。俺が校内でナンバーワンの頭持ってたら、少しは壊れた発想に至ったかもしれないけど、生憎、ちょっとだけできる程度の頭しか無いし。


「明穂。あんまりおいたが過ぎると、田坂さんとやるよ」


 脅してみた。

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