Epi72 最終日は自由行動です
スイーツ爆食いって言っていいと思う。恐るべし女子の別腹だった。
まさか本気で五軒も回ると思わなかったし。俺は最初の一軒目でギブだったけど。
「こういう時じゃないと本気で食べないし」
「だよねー。旅行だと遠慮しないし、遠慮したらつまんないし」
その細いお腹のどこに収納されてるんでしょう?
後でお腹見せてって言えば、明穂なら見せてくれると思うけど。
札幌駅の東西コンコースにそれぞれクラスごとに集合。点呼を取って全員集合してることを確認してから、改札を通ってホームに降りて一旦整列する。
JRの快速エアポートに乗って一路小樽へ。
電車に乗り込むとロングシートで、全員座れるのかと思ったけど、貸し切りだったこともあり、問題無く座ることができた。
明穂と長山さんに挟まれてるのは相変わらずだったけど。
小樽に到着するとホテルに移動して、順番に各部屋に割り振られて移動。
「大貴」
「一緒は無いと思う」
「長山と田坂とあたしと大貴」
なぜそうなってるのか。
部屋がトリプルか四人部屋になり、大部屋が無いからだった。
男女一緒は先生が許可するわけが無いけど、そこはやっぱり誤魔化すんだとか。ずるずると引き摺られて明穂と同室に。
夕食も済ませて各自部屋に戻って、暫く寛いでから風呂に入って寝るんだけど。
「やっぱ拙いって」
「大丈夫だってば。昨日だって平気だったでしょ」
「一応信頼してるから」
「うんそうだね。昨日なにも無かったから」
明穂が居て悪さできるわけも無いし、居なくてもそんな勇気ありません。
大浴場は無いから、各室備え付けの風呂に入る。当然だけど明穂はやっぱり雪崩れ込んでくるし。蹂躙してくるし。我慢しないから外に声聞こえてそうで。
風呂から出たら長山さんと鉢合わせ。トイレ行こうとして洗面所に来たらしく、丸出し状態の俺が見られました。明穂が慌てて隠そうとしても間に合わず、驚いてたけどしっかり凝視されて。
「明穂のせいだ」
「いいじゃん。減るもんじゃ無いし。あ、でもあたし以外に見られたのは悔しいかも」
「なんか見ちゃってごめん」
なんか長山さん、俺をじっと見てる。
「男だった」
そりゃそうだって。生えてるし。
で、旅も三日目となると少し疲れも出たのか、全員大人しく就寝した。お陰で明穂に遊ばれずに済んだのは良かったと思う。
でも、朝に長山さんにまた見られた。しかも元気な状態の奴を。
「いやー。見る気は無かったんだけど、なんか居たから」
明穂が黄昏れてるんだけど、長山さんに元気なのを見られて、悔しいんだそうで。俺も恥ずかし過ぎてパニクってたけど。
そんな間抜けなハプニングをこなして、ホテルを後にしこの日は小樽市内観光。
完全自由行動だけどメンツは昨日と一緒だった。
「今日は一段と寒いね」
「あのー。男子の制服着てもいいですか?」
「駄目。最終日なんだから諦めて女子になり切ろう」
俺の願いは聞き入れられませんでした。
「今日は小樽運河を見て美術館巡りするよ」
「妥当だと思う」
「小樽運河ってクルーズあるよね?」
「一時間に一回、乗船に千五百円かかるけど」
意外と高いです。団体割引があるって言ってるから、他の班と一緒になれば少しは安くなりそうだけど。そうなると明穂が誘って十五人以上になるよう調整。結果一人頭百二十円安くなった。
観光名所のひとつ、小樽運河に到着するとそこは写真や映像でよく見る光景。
「なんか風情があるなあ」
「ライトアップされる夜の方がいいかも。大貴とのデートコースにいいよね」
運河を見て俺を見る明穂は「雰囲気が盛り上がったら互いに貪り合うんだよ」とか言ってるし。なぜか毎回必ずシモに話が行く。
明穂と絡んではいるけど、反対側に長山さんが絡んでる。股間を見て男と認識したはずなのに、なんでこんなに張り付いてるのか。ちょっと気になったから、明穂に長山さんの様子が、と聞いてみたら。
「大貴。好かれてる」
「なんで?」
「最初は女装で可愛い程度だったと思う。でも、大貴の男の部分を見て意識したかも」
この状況を明穂が許すのか、と言えば長山さんは俺を明穂から奪えるわけがないと、ちゃんと認識してるはずだし、こうしてるだけで今は満足してるはずだとも。だから旅行中くらいは大目に見るんだそうだ。教室では席を貸してもらったり、絡まれた時に呼びに来てもらっていたり、相応の恩義は感じていて、ご褒美の意味合いもあるらしい。
「でも、大貴は手を出しちゃ駄目」
「出さないし出す勇気ないけど」
「襲われたら一度は全力で拒絶して欲しい」
「抗えなかったら?」
難しい表情になった。理由を問うと「経験」とだけ。
明穂も葛藤してるのかな。俺の女性経験って明穂だけだし。たくさん経験積むのは小説を書く時に役立つって公言してるし。違う女性の心理を知るのも勉強だろうし。
「明穂」
「なに?」
「俺には明穂だけだから」
じっと俺の顔を見る明穂だけど笑顔になった。
運河の散策が終わると運河クルーズに。
船に乗ってのんびり移動する。凡そ四十分のクルーズなのに乗下船に三十分程かかるのは想定外だった。
船が中央橋を出発すると月見橋を抜けて一度小樽港に出る。そして旭橋に向かいそこを抜けて再び運河に。北運河に入って北浜橋を抜け転回したのち、また北浜橋、そして竜宮橋を抜け中央橋から浅草橋手前で転回。乗船場所まで戻る。
「じっくり見て回るんだね」
「寒いんだけど」
「厚着しないと確かに寒い」
「夏なら涼しいんだろうけど」
船上は思った以上に寒かった。
ゆったり流れる時間に景色を眺め下船すると、冷え切った体を温める食事がいい。
「ラーメン?」
「寒いからそれがいいかも」
「二日連続だけど」
「でも、寒いし温まるし」
みんな寒いってことで手っ取り早く体が温まるラーメンになった。
「北海道だしラーメン美味しいって言うし」
「だねー」
「それより寒くて早く店に入りたい」
でも、俺は両側を挟まれてなんか、少しぬくぬくしてる感じ。二人ともべったり張り付くから。
ラーメン屋は運河沿いに一軒、少し駅方向へ戻ると一軒。駅前まで行けば数軒。ってことで運河沿いじゃなく少し戻った先のラーメン屋に。
メニューを見てあっさり醤油、塩、味噌の三種とこってりで三種。俺はこってり味噌にした。明穂も同じものに。他の子はそれぞれ注文。
「温まった」
「ほっとするよねー」
「美術館行くんだよね」
「小樽芸術村とかだっけ」
小樽芸術村と名付けられた施設は三つ。似鳥美術館、ステンドグラス美術館、旧三井銀行小樽支店。全部回ると結構時間食うから、場合によってはふたつくらいで終わるかも。似鳥美術館が本格的な美術館で、他ふたつは元倉庫と銀行だし。
似鳥美術館も元は拓銀だったみたいだけど。
「時間の都合もあるから似鳥美術館を見て、ステンドグラス美術館の順に回ろう」
お土産も買いたい。のんびり観てると集合時間になるから、適当なところで切り上げないと。
でも、三館共通チケット買っちゃうともったいなくて、全部観ようってなるんだよね。
ぞろぞろ連なって美術館巡りをする。
明穂は時々美術館とか行くだけあって興味深そうに見てる。他の子もティファニーのステンドグラスに歓声を上げてたり、アールヌーヴォー、アールデコグラスなんかで楽しんでた。
俺もステンドグラスはすごいなあ、って感じだった。日本画とか洋画のギャラリーもあったけど、よくわかんなくて明穂の解説もあったけど、やっぱ理解しきれず。
「大貴ももう少し美術に関心があればなあ」
「少しは感動もするけど」
「少しの感動じゃなくて感性なんだってば。なんでも敏感に感じ取る感性。それが創作者に必要なもの」
それに磨きを掛ければさらに小説に奥行きが出るという。
今後小説の幅を広げる意味も込めて、たくさん経験してもらうから、と言ってた。
美術館巡りは予定してた時間内に終わり、土産物を駅周辺で物色して集合時間になった。
これで修学旅行の全日程が終了。
あっと言う間だった。
「もう帰るんだ」
明穂はもっと遊びたかったんだろう。
長山さんはと言えば。
「浅尾。学校でも女装しない?」
それだけは勘弁してください。結局ずっと女装だったし。
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