Epi71 グルメは旅の醍醐味

 時計台の見学が終わると赤れんが庁舎の見物に行く。

 やっぱり男子もぞろぞろ付いて来るし。


「大貴」

「え、なに?」

「サービスしてみたら?」

「なにそれ」


 お尻振ってスカート軽くたくし上げるとか、なんとか言ってるし。「男子全員喜ぶよ」じゃないってば。「お尻の振り方教えたじゃん」でもないし。

 赤れんが庁舎に着くとここでも記念写真を撮るってなって。そこらに居る男子生徒に撮影させてた。

 俺と明穂が中心に居る構図はすっかり根付いたみたいだ。明穂の反対側に長山さんが居るのが気になるけど。


「次行くよ」

「お昼どこで食べるの?」

「札幌に居るんだから、やっぱラーメンかなあ」

「ジンギスカンは?」


 俺としてはラーメンもいいけど、北海道の海の幸がいい、とか言っても無駄だと思う。女子連中であれ食べたいとかこれがいいとか、話がまとまらないし。

 明穂に至っては「大貴」とか、もう勘弁して欲しい。


「札幌ってことで、ラーメンにしよう」


 やっと決まったみたい。


「どこのラーメン屋さん?」

「この辺にも結構あるよね」

「待って、スマホで確かめる」

「美味しいとこがいいなあ」


 拙いラーメン屋もあるって聞くし。全部が全部美味しい訳じゃないから、口コミを参考に探してるみたい。

 因みにジンギスカンが却下された理由は、にんにく臭くなりそうだって。

 にんにく臭を放つ女子高生の集団。ある意味シュールだと思うけど。


「大通り公園の反対側に良さそうなのある」

「有名店は? この少し先にあるみたいじゃん」

「有名店って意外と大したことないって。売れだすと手抜きするから」

「じゃあ、無名の名店は?」


 某ラーメン店は昔、スープを水で薄めて出してたとか。家系は開店当初は濃厚だけど、一週間後に行くと水っぽくなってるとか、なんか言いたい放題だ。

 ラーメン店が決まると大通公園に向かって歩き出した。


「さっぽろテレビ塔の展望台も行く?」

「一応行ってみようか」

「人が多過ぎたら別の場所で」

「お土産屋さんも見ておきたい」


 お土産屋さんもだけど、スイーツも食べたいとか言い出してる。


「六花亭は?」

「普通に都内で売ってるから新鮮味無いよ」

「大丸にランキング上位の店あるみたい。ルタオもあるよ」

「パセオにもあるって。美味しいスイーツ店」


 どうせあとで札幌駅に行くから、パセオか大丸でってなった。

 札幌観光が終わったら札幌駅から小樽へ行くから、その方が都合がいいって。


「早く行ってハシゴもいいよね」

「あ、それいい」

「じゃあ、大通公園は適当に見て、さっさと行こうよ」

「大丸とパセオの梯子だね。ついでに六花亭もよりたいな」


 そんなに甘いもの食べたら気持ち悪くなると思うんです。女子はその辺平気なんでしょうか?


「大貴も食べる?」

「どこか一ヵ所で一個食べれば充分だと思う」

「女子力足りないなあ」

「男子だってば」


 すっかり女子扱い。

 わいわい喋りながら大通公園まで移動すると。


「普通に公園」

「マジ普通」

「雪まつりとか無いと面白くないね」


 遊園地じゃ無いし。イベントが無い時なんてそんなものだと思う。

 季節的にも寒さが厳しくなる頃だし。華やいだ雰囲気も無いから。


「テレビ塔行こう」

「だね」


 大通公園を歩きテレビ塔へ向かうと、途中で先生数人と遭遇。


「一段と華やかな集団だと思ったら、三菅と……浅尾。まだその格好なのか?」


 普通の格好は却下されてるんです。先生からも注意して欲しい。


「それにしても、その格好似合いすぎだろ」

「他の先生にも言われてます」

「本当は女子とかじゃないだろうな?」

「天地神明に誓って違います」


 明穂お気に入りのもの付いてるし。ちゃんと機能するし。


「先生、手を出したら駄目ですよ」

「出さないけどな。若かったらわからんが」


 やっぱり俺の顔をじっくり見てるし。


「俺が若かったら間違って告白しそうだ」

「先生この女子の中だったら誰選びます?」


 そう言うのは要らないと思う。

 全員を見て出した結論は。


「浅尾、か三菅だろうな」

「やっぱそうなりますよねえ」

「あたしたちが自信喪失しそうだもん」

「可愛すぎだよね。なんかずるい」


 新たな魅力もいいが、羽目外し過ぎるなよって言って、この場から離れて行った。

 テレビ塔に着くとやっぱ生徒が多い。


「これ、展望台に行くまでどのくらいかかるかなあ」

「一時間は待ちそう」

「時間の無駄になるね」


 エレベーター待ちしてるのは男子グループだ。人数も相当多いみたいだし。

 これは無理そうだとか思ってたら、ひとりが俺に気付いて明穂を見た。で、隣の奴に話始めると一斉にこっちに視線が。


「見るなら優先してくれればいいのに」


 明穂のこの言葉で男子全員脇に寄った。マジ? 明穂の言い分が通っちゃった。まるでモーセの十戒みたいだし。エレベーターの乗降口まで、見事に人が割れて道ができてる。


「なんか、いいみたいだよ」

「明穂……。男子を手玉に取り過ぎ」

「あたしだけじゃなくて大貴の可愛さもあるでしょ」

「あー。そうだよねー」


 少し呆れ気味の女子連中だ。


「最強美少女二人組だもんねえ。向かう所敵なしだね」


 一人は最強美少女で納得だけど、俺は違うんだってば。

 せっかく順番を譲ってくれたってことで、その好意は受け取って展望台へ。

 女子特有の甲高い嬌声をBGMに展望台へ。


「眺めいいね」

「札幌の街並みが一望できるんだ」

「こっち面白いのあるよ」

「どれ?」


 外に向かって傾斜のある窓がある。怖窓って書いて「こわそー」だそうで。女子連中が覗き込んで奇声あげてて楽しそうだ。


「大貴も」

「やだって」

「落ちないんだから大丈夫だってば」


 無理やり引き摺られ窓際に立たされると、縮み上がっちゃうんだってば。


「縮み上がった?」

「う、うん」


 窓枠に付いてる手すりにしがみ付いてると、長山さんと明穂でその手を無理に剥がさないで! マジで怖いんだってば。


「大貴怖がり過ぎ」

「男子って苦手な人多いのかな。あ、違った、女子なのに苦手なんだ」


 違います。男子です。


 テレビ塔で眺望を楽しんだらさっさと降りて、昼ご飯にするんだとかではしゃいでる。大通り公園から少し離れた場所にあるラーメン屋さん。口コミもそれなりで美味しいんだろう。創成川を渡った先にあるから、そこまでぞろぞろ連なって行く。

 ラーメン屋に到着したけど混んでる。


「どうしようか」

「待ち時間どのくらいかな」

「見て考える」


 明穂と一緒に店内を覗くと客数は十二人程。一番奥の四人掛けテーブル席とカウンターに別れて、半分が食べ終わって退席してくれれば入れそうだ。


「十分から二十分ってとこかなあ」

「先に店の人に声掛けておく」


 明穂が率先して店に入って「九人。こっからここと、こっちの席で」って指定してた。女子高生相手だと店の人も愛想がいいのか。笑顔で対応してるし客もまた、明穂を見て鼻の下が伸びてるし。目立つし可愛いし綺麗だし。

 外で待ってると店の人が空いたからって、全員招き入れてくれる。

 全員「札幌と言えば味噌ラーメン」とか言って、揃って味噌ラーメンを注文してるし。カウンター席に俺と明穂、長山さんに田坂さんとあと二人。まだ名前わかって無いし。テーブル席には明穂の班の子たち三人。


「お腹空いたね」

「うん」


 味噌ラーメンが出されるとみんな一斉に食べ始めて、「美味しいね」とか「外寒かったから温まるう」とか。やっぱ女子も寒いんじゃん。

 本場の味噌ラーメンを堪能して、札幌駅に行くんだけど「スイーツのハシゴだー!」とか気合入ってるし。

 昼食べてそんなすぐに甘いもの食べられるんだ。


「甘いものは別腹なんだよ」

「そうそう。美味しいデザートは別腹」

「楽しみだよね」

「大貴も女子力高めないとね」


 だから男子だってば。

 ラーメン屋で明穂や長山さんと会話してたら、店の人が不思議そうだった。


「見た目は完璧な女子なのに、大貴とか呼ばれて、声も少し低いし戸惑ってたね」

「呼び方変えようか?」

「たいちゃんとか良くない?」

「いいかも」


 ますます女子に近付くから止めて欲しい。

 外に居る間は男子として扱う気ないみたいだし。


 札幌駅の大丸に着くと早々に店を探して、お目当てのスイーツをゲットしてるし。

 その後本当にハシゴしてた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る