Epi65 修学旅行で一緒は無理

 修学旅行の時期になった。


 毎年行先は決まっているらしいけど、その前にクラスの班分けがある。

 クラス内で仲良しグループは既に固定されてて、俺の入る隙は無い訳で。そうなると必然的にぼっち復活となる。

 単独行動でもいいんだけど、どっかで明穂と合流して一緒なら。

 でもクラスが違うから明穂と一緒は無理。


 班ができていく中でぼっち道を突き進む俺は、仕方ないから机に突っ伏して、知らん振りを決め込んでみた。

 いや、ぼっち道を突き進む気は無いけど、今さら仲良しグループに入るには、ハードル高過ぎるから。


 そうこうしている内に決まったようで、先生がなんか言ってる。


「あぶれてる奴は居ないか?」


 はい。ここに。意思表示はしないけどね。


「居ないならこれで決めるぞ」


 誰かがなにか言ってるみたいだ。


「浅尾がどこの班にも所属してません」

「浅尾? ああ、そう言えば」


 誰? 浅尾なんて奴は居ません。きっと気のせいでしょう。

 突っ伏したままでいたら、前の席の子が、確か長山って名前だったっけ、「浅尾。どこにも入って無いの?」って言い出した。

 この人、俺が絡まれてて明穂に連絡した人だ。お人好しなんだろう。

 頭を上げると「入るとこ無いの?」とか言ってる。


「これまでもこれからも無いと思う」


 少し呆れ気味だけど「じゃあ、あたしたちの班、女子ばっかりだけど入る?」とか言ってる。でもさ、他の女子に迷惑じゃないの?


「迷惑になるでしょ」


 この返答にも苦笑気味だけど。


「大丈夫だって。三菅さんと付き合ってるんだから、変な奴じゃないのはわかるし」

「でも女子の中に男子一人はちょっと」

「じゃあさ、女装して一緒に回るとか?」


 おかしなことを言い出す人でした。


「先生! 少し話し合いたいんで、他の子のとこに行っていいですか?」


 長山さん。本気で俺を班に入れるつもり?


「少しだけな」


 と言う事で、長山さんは席を立ち、仲良し連中各人に声を掛けてるようだけど。ここから見る限りだと、芳しい返事がもらえてるとは思えない。

 戻って来たと思ったら。


「一緒でいいって」

「マジ?」

「反対した人は居ないから大丈夫」


 あのー。それはいいんですが、女子の中に男子一人はちょっと。


「あ、それでね、試しに女装してみない?」


 あれはマジだったんですか? 俺にその趣味は無いし、未知の世界にご案内されても困るんですが。

 なんか、目が爛々と輝いてる気がする。もしかして「腐」とか思ったり。


「他の子も見てみたいって。満場一致で浅尾のコスプレ見たいって。浅尾には女の子の格好が似合うと思うし」


 絶対とは言わないまでも似合わないと思います。


「顔綺麗だし、肌白いし、ちょっと女の子っぽいから似合うと思うんだよね」


 勘弁して。

 明穂には食われ捲って、クラスの女子にはおもちゃ扱い? 俺って一体。


 結局、長山さんの班に入ることが決まったけど、男子の目が。


「男子の班の方が良かった?」

「いえ。どこでも」

「服はこっちで用意するから」


 最早逆らいようが無いみたいです。


 放課後に明穂と合流し班の話をしたら。


「見たい!」


 まあそうでしょうな。明穂はもともと女の子みたいだって、前から言ってたし。


「大貴の女装。なんか萌えるよね」

「萌えないと思うけど」

「だって大貴だよ? 萌えない方がおかしい。さすが、長山は見る目あるなあ」


 それは違うと思う。

 でも、明穂も乗り気になってるし、これは逃れられない運命って奴だと。


「あ、それで、あたしからも注文」

「なにを?」

「下着は女性用で」


 言葉も出ません。女性用って、ブラとかパンツ? ブラ付ける程に胸無いし、パンツは明穂の見ててもわかるけど、あれ、反応した瞬間はみ出したりしないかな。あーでも、そんな大きくないから大丈夫かも。いや、小さい……自分で思ってて情けなくなって来た。

 それでもやっぱ、かなり変態だと思う。


「化粧もしようね」

「無くていいと思うんだけど」

「するんだよ。それでね、美味しく頂くんだ」


 明穂はすぐそっちに行く。


「それにしても女子の班かあ」


 俺を見る明穂はちょっと悔しいのかな。


「ハーレムじゃん。モテモテだね」

「それは絶対違う。女装するって条件付いてるから、ただのマスコット扱いだと思う」

「いいじゃん。あ、でも、ねんごろになるのは駄目だからね」

「なれないってば」


 修学旅行前日。

 部屋で着替えとか荷物をまとめてると、明穂から電話が掛かって来た。


『大貴。当日一緒に回れないのかな?』

「それは難しいと思う」

『あたしの班と長山の班で合流すればいいだけだと思う』

「先生が許可するの?」


 それは無理やりでもねじ込んでやるとか言ってるし。

 強引だけど押し通すだけの力あるんだよね。


『女装大貴と回るんだよ。楽しいと思うんだ』

「いや、あの、ずっと女装?」

『移動中着替えなんて無理だよ』


 そうかもだけど、男子に思いっきり変態扱いされる。


「変態扱いされるってば」

『変態って言った奴はあたしがぶっ飛ばす。可愛い大貴は変態じゃないから』


 明穂の言い分では『可愛いから大貴であって、女装しても似合い過ぎるから大貴なんだ』とか訳のわからないこと言ってるし。

 完全に面白がってるとしか思えない。

 そして、俺の手元には女装用の服が一式。これを着て当日電車とか飛行機に乗れと。


「これ着て行かないと駄目なの?」

『当然。どこで着替えるの?』

「電車内ならトイレ?」


 それじゃ面白くないとか、じゃないってば。

 明穂に押し切られて明日の朝は、この女子の服を着ることになった。どこで用意したんだか。

 これって女子の制服だし。誰かの着古しかなあ。

 自分の制服も一応持って行こう。ずっとこんな格好してられないし。


 全部荷物を詰め込み……やっぱ女子の服は無い!

 母さんとか陽和が見たら絶句する。


 修学旅行当日の朝だ。


 普通に自分の制服を着て集合場所へ向かう。

 明穂の班と長山さんの班は既に合流して、なんだか楽しそうに話しをしてる。


「あ、大貴?」

「服は?」

「普通に制服着てるし」

「女装じゃないの?」


 どこまで落胆すれば気が済むんでしょう?


「大貴。自前の服着てどうするの」

「だって、恥ずかしいじゃん。母さんとか陽和に見せらんないって」

「じゃあ、わかった」


 なにがわかったなのか。

 ずるずる引っ張られて駅前の公衆トイレ、しかも多機能トイレに連れ込まれた。


「脱いで」

「えっと」

「全部脱ぐんだよ」


 問答無用って奴だった。毟り取られて丸裸にされると、下着を身に付けさせられ、女子の制服を着せられ挙句化粧までも。

 完成するまで鏡を見ることは禁止されて、明穂のなすがままだった。


「時間無いから化粧は簡単に済ませたけど」


 俺を見てものすごくいい笑顔になってる。


「あたしより可愛いかも」


 それは無いと思います。校内トップレベルと比較しちゃ駄目でしょ。


「じゃあ、鏡見ていいよ」


 そう言われてトイレの鏡に映る自分を見て絶句した。


「どこから見ても女の子。これ、男子全員騙されるね」


 鏡の中に愛らしい少女が一人佇んでます。

 あまりに可愛らしいから、自分とは認識できず、しかし、明穂と俺しか居ない訳で、そうなるとこの鏡に映るのは自分。


「髭とかすね毛とか腕の毛も無いし、まんま女子だし。これなら女子の班に居ても誰も気付かないね」


 なんかヤバい感覚が。


「これ、夜もそれだったら怪しい雰囲気で楽しめる。百合と勘違いされるけど、でもだれも疑わないね」


 励みたい。とかじゃないってば。

 トイレから連れ出されて女子の前に立たされると。


「ちょ、マジ?」

「同一人物?」

「なにこれ、めっちゃ可愛い」

「ほんとは女子なんじゃ?」


 全員驚愕の表情で俺を見て、かつ大絶賛の状態です。


「でも、ちゃんと付いてるんだよ」


 余計なことは言わない。


「なんか悔しい」

「女子だったら明穂と並んでモテそう」

「ヤバいってこれ」

「可愛過ぎるでしょ」


 俺、いや、あたしは女子にされました。

 この格好で移動? 先生が見たら誰だかわからないんじゃ?


「あのー。これ、先生が見てもわからないと思うんだけど」

「あたしたちが説明するから大丈夫だって」

「校則に違反してるでしょ」

「修学旅行で校則もなにも無いでしょ。煩いこと言うなら、あたしが黙らせる」


 もうなんでも力技で解決しようとしないで。

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