Epi64 有無を言わせぬ行動

 クラスの男女五人に詰め寄られて、不正だのなんだのと追及され、これまで見下していた相手が自分たちを上回る高得点を得た。その事実を認める事もできない、浅ましい存在だと認識した。

 俺相手なら締め上げれば不正したって認めると、そう思ってるんだろう。


 五人が詰め寄っていると教室のドアが勢いよく開いて、ものすごい勢いで入ってきた存在が、次々俺を詰問してた男女五人の頬を叩いた。

 いや、張り倒したって感じだ。

 あまりの衝撃的光景にクラス内が一気に静まった。俺も呆気に取られて暫し呆然。


「いい加減にしなさい! ここは高校で小学生の居ていい場所じゃない!」


 五人を張り倒したのは明穂だ。

 叩かれた頬に手を当て呆然としてる。


「くだらない言い掛かりを付けてる暇があるなら、死ぬ気で勉強すればいいだけでしょ。なにもしないで見下すだけで、どうして自分が優位に立てると思ってるの? だからあんたたちは簡単に抜かれるの! バカだから、努力しないから、下に見ても己の成長は無い。むしろ止まる。バカはそれに気付けない」


 明穂が捲し立てるように言い放つと、男女ともばつが悪そうでおろおろする感じだ。

 そんな明穂を見て怖いと思うと同時に、こういうことを許せない人なんだって。

 でもなんで、こんな絶妙なタイミングで来たんだろ?


「大貴」

「え?」

「言い返していいんだよ。こんな連中どうせ落ち零れでしか無いんだから」

「え、っと」


 言い返すといじめが発生するんですが。


「いじめなんてくだらないことする奴は一人残らず退学させてやるから、遠慮なく言い返せばいい。あたしが叩き出す!」


 怖い。

 本気で怒る明穂って誰の目から見ても怖いんだろう。


「あの、明穂」

「なに?」

「えっと、なんで?」

「教えてくれた」


 教えて? なにそれ?


「長山から大貴がいじめられてるって」


 長山? 誰それ?


「いつも席貸してくれる子」


 あー。俺の前に座ってる人の好さげな。


「常に監視の目があることを忘れないでね。いい? このクラスに居る他のバカにも言っておく。なにかしたら全員残らずぶっ飛ばすから」


 クラス内で宣言した明穂に意見できる人は居ない。むしろ明穂の味方の方が多そうだ。

 少しして落ち着くと十人以上の男女が、俺を責めてた五人に対して「いい加減認めてやれよ」とか「お前らくだらねえことすんなよ」と言い出した。さらに「成績良かったって言うなら、頑張ったってことでしょ。これ以上差を付けられないように頑張るしか無いよね」なんてのも。


「謝りなさい」


 五人に謝罪させる明穂だ。

 なんか、俺ってずっと明穂におんぶにだっこで、まるっきり明穂の子どもみたいだ。自力で立って歩いてるとはとても言い難い。もっとしっかりしないと駄目なんだよね。

 大変だけど明穂と付き合うってことが、少し理解できた。

 もっと自分を磨いて高めないと。


「大貴。帰るよ」

「あ、うん」


 教室を出ようとすると何人かに「成績上がったんだ、頑張ったんだな」とか、「いい先生見付けやがって、羨ましいぞ」とか「あんまイチャイチャすんなよ。見てるこっちが恥ずかしいから」だとかで、なんか、これまでと俺に対する雰囲気が違う気がした。


 明穂に手を引かれ教室を後にし、明穂の鞄を回収して帰宅する。


「気付いてる人は気付いてる。大貴が以前と違うって。でもバカは変化に気付けないから」


 今回の一件でクラス内での問題は以降発生しないはずと言う。

 まず監視の目があること。クラス内に留まらず校内にも多くの目があること。校内の件は前にあったいじめで理解してる。明穂の連れって言うだけで、注目を浴びる存在になってる。だから、誰かしら見ているんだと。


 俺の学校内での立ち位置は確実に上昇しているとも言ってる。


「部での実績。あたしが一緒に居る。もし大貴が本当にどうしようもない、あいつらみたいなクズなら、とっくに別れてる。でも現実はそうなって無い」


 ここからがバカと賢い人の境界なんだとか。


「じゃあその理由を考えれば、大貴にはあたしを惹き付けるなにかがある。そう考えるのが頭のいい人。嫉妬しかないバカは考えることを放棄してる。だからなにも見えない」


 俺は確実に一歩進んでいるんだから、自信を持っていいんだよと。

 ただし「横柄な人間になっちゃ駄目」と、ここでも念を押された。


「自信を持つのは自分の成長にも繋がるし、なによりコミュニケーションする上で、欠かせない要素だから」


 うじうじしてていつも下を向いてる、そんな人は周りも面倒臭がるし、相手にする気も起きない。自信を持って普通に行動していれば、大概の人は話もしてくれるし、相手もしてくれるんだとか。

 その上でひとつひとつ積み重ねたものがあれば、みんなが一目置く存在になれる。

 それが明穂なんだろう。


 いつ明穂に追い付けるか、そんなのわからないけど、俺を好きだと言ってくれてる間に、追い付ければいいんだと思う。難易度滅茶苦茶高い気がするけど。


「大貴。少し違うから」

「えっと、なにが?」

「追い付くんじゃなくて、大貴ならではの才能。小説があるでしょ。あたしに小説なんて面倒臭くて書けない。でも大貴にはその才があるんだから、それで頭角を現していけばいい」


 それが一番難しいと思うんですが。でも、明穂と結婚とかまで考えるなら、避けて通れないんだろうな。


「頑張ってみる」

「うん。あたしが支えられる範囲で支えるから、大貴は躊躇しないで突き進んでね」


 で、両手を広げて待ってるんだよね。

 軽く抱き寄せると、明穂の温もりと優しさと気遣いを感じ取れる、そう思った。


「明穂。いつもありがとう。感謝してもしきれないくらい、明穂にはお世話になりっ放しだなって」

「大貴。お礼は体でいいんだよ」


 えーっと、それはさすがに限度が。


「手加減してください」

「だーめ」

「死んじゃう」

「死なない程度には加減する」


 絶倫明穂に食われるのもいいよね。今できることなんてそれしかないし。

 でも、やっぱ少し加減して欲しい。


 俺のクラス内でも俺に対して変化があったみたいだ。

 今までとは違う空気。全員が無視してる訳じゃなく、意識される存在になってる。

 絡んでくるのも目障りってのはあるんだろう。でも目立つ存在になったから、絡んでくるんだと。


 少しずつだけどクラスにも馴染んで行けそうな気もする。

 全部明穂のお陰だけど、いずれは自力で打開できればいいな、と思ったり。


「少し前向きになれた?」

「えっと、少しは」

「じゃあ、お礼は期待できるね」

「あの、そこは加減を」


 そして今日は明穂の家に連れ込まれた。


「あのー。小説を書きあげたいんですが」

「お礼くれるんじゃないの?」

「いや、それはまあ」

「じゃあいいよね。お礼もらっても」


 明穂の部屋であっと言う間に剥かれて、そのまま風呂へ連れて行こうとしてる。


「あの、この格好」

「大丈夫だって」

「明穂のお義母さんに」

「キッチンに居るから大丈夫」


 この前しっかり目撃されてるし、これ以上は勘弁して欲しい、と思う間もなく、部屋から連れ出され風呂へ向かう最中。


「やっぱ見られた」

「なんか勘がよくなってる」


 まさか、廊下に立ち塞がって、いや、正確には洗濯物を抱えてただけ。でもそのせいで真正面から対峙することになり、哀れ俺の股間を凝視されました。

 その状況で「サービスしてくれるの? 若い子はそれでこそね」とか言ってたし。

 明穂は明穂で「なんでそこに居るの?」とか。もうお義母さん明らかに狙ってる。


「今度わけてね」

「あげない。あたしのだから」

「ケチねえ」

「ケチじゃない。お父さんを他の人にあげられる?」


 正論が出たけど、そもそもの原因は明穂が俺を裸で連れ出すからで。


「あれで良ければいつでも差し出すから」


 哀れなお義父さんだ。

 明穂の少し悔しそうな顔が。


「あげない!」

「ちょっとでいいのに」


 こんなやり取りのあと風呂場で蹂躙され、部屋に戻る際にもまた目撃され、完全にタイミング見計らって出現してるよね。

 なんて言うかロープレで遭遇するモンスター状態。


「お母さんにタイミング読まれてる」

「風呂だと出るのがわかりやすいから」

「仕方ない。戻る時はパジャマ着て戻る」


 行く時は全裸なんだ。

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