Epi58 中間考査がヤバいかも
ここ暫くは小説に注力し過ぎたり、文化祭の余韻に浸り過ぎて増長したり、陽和の件もあったりして、実は勉強が相当疎かになってました。
授業はそれなりにまじめに受けてたつもりでも、やっぱり頭にきちんと入って無い。それを身に染みて理解したのは明穂と勉強してる時。
「大貴」
「えっと」
「これじゃあ、赤点まっしぐらだよ」
言葉もありません。
責任の一端は自分にもあると明穂は言うんだけど、それは違うと思うし、やっぱり自分の日頃の取り組み方だと思うから。
「仕方ない。今日から中間までは勉強三昧だね」
なんか悪い気がするけど「あたしが居ながら成績落ちたなんて、絶対に言わせない」とか、なんか気合の入り方が尋常じゃ無いんです。
そうなると、夜のお勤めは当分なくなるんじゃ、なんて少し安堵する自分が居る。
「夜は別だよ」
駄目でした。
結果、この日から怒涛の勉強三昧が繰り広げられることに。
明穂の指導はわかり易さがあるから、教えてもらえれば理解が及びやすい。こんな調子でまずは現国から順に片付けるんだけど。
「現国は小説書いてるだけあって、それほど問題にならなそうだね」
「まあ、それは辞書片手に調べながら書くから」
「他の教科も一緒なんだけどな。ひとつだけ突出しても、小説の完成度は上がらないし」
そうなんだよね。
他の教科も同様に理解していれば、明穂の言う通り中身に差が出る。いろんな知識をもって書いて行くのと、単に文章が綺麗ってのじゃ、前者の方が深みが出るのは確か。綺麗なだけの文章なんて面白くも無いし。
「じゃ、一番苦手そうな数学やっつけちゃおうか」
俺にとって数学は超難題なんだけど、明穂曰く「躓きが無ければむつかしくない」らしい。数学が苦手になるのはどこかで躓くからで、その部分をしっかりやり込めば、また先へ進めるからって言ってる。
明穂による指導は躓いてる部分を探すことから。
「少し過去に遡って原因を探した方がいいね」
「なんか苦手だなあって思ったのって、記憶に無いけど極端に前じゃないと思う」
さて、この勉強だけどベッドじゃ気が散る。机は俺一人しか使えない。ってことで部屋にコタツをひとつ。布団はもちろんまだ使わないから、テーブル代わりに向かい合って座った。その上に教科書とノートを広げて、明穂も同時に勉強する形になってる。明穂も勉強しないと成績落ちるから、と言ってた。落ちるってのが想像できないほどに優秀なんだけど。
「大貴。なんか質問ある?」
「えっと、こことこっちとこれ」
「どれ?」
「これ全部」
少し呆れ気味の明穂だけど、マジでなんか理解できないんだよね。
「躓きの原因がわかった。じゃあ、そこを重点的に教えるから」
これでわかったみたい。さすがは学年五指に入るだけのことはある。
時々明穂が姿勢を崩して足を動かすんだけど、その度に俺の足に触れて、かと思えばさらに足を伸ばして股間をぐりぐり。だから、それをやられると集中力が途切れるんだってば。
明穂を見るとにやにやしてるし。わかってやってるし。
「大貴。集中だよ」
集中させたいならぐりぐりをやめて、とは言えず雑念と足の感触を忘れる、なんてできるわけないじゃん!
「あの、明穂」
「目の前の課題に集中すれば、多少のことなんて気にならない」
いや、あの。それってダイレクトに来るから、誰でも無理があると思うんですが。
なんとか明穂に理解してもらうには、俺が同じように集中を乱せば、もしかしてわかってもらえたりするかも。
で、足を伸ばして明穂の股間へ押し込むと、すんなり受け入れてむしろ脚広げて喜んでるし。その割には手は止まらないし、説明もどんどん進むし。
明穂の頭ってどうなってるの? スーパーマルチタスク仕様なのかな?
「大貴。どうせならもっとしていいんだよ。集中力はその程度じゃ途切れないから」
集中力って言うか楽しみながら勉強してる感じ。
複数のことを同時にこなせるのが、女性なんだとか。男性は一点集中型らしい。最初から男の方が不利じゃん。
時々明穂の妨害がありながらも、凡そ一時間、躓いてた部分の復習が済んだ。
「あ、なんかわかる」
「でしょ? 数学なんてそんなもんだから」
きちんと積み上げて来たからこそ、明穂の成績がいいんだってわかる。
一旦休憩をしてまた続きをやることに。
そろそろ季節的にも涼しくなってきて、残暑も残り僅かなんだろう。明穂の格好がそれを知らしめてくれる。少しだけ厚着するようになってきてるからね。
「大貴。暖房入れたら全裸生活できるね」
じゃなくて。わざわざ脱ぐために暖房なんて入れないから。
「どうせなら、あーあっついなー、とか言って自然に服が脱げるのがいいと思わない?」
それも要りません。
なんか、一昔前の女子を脱がす為の手口みたいで、それをやる奴は居ないと確信してる。バレバレだし。でも、明穂なら喜びそうだ。
「ノリが悪いなあ。大貴は」
「そういう問題じゃないと思う」
「じゃあどういう問題?」
それはあれだ。単純明快に言って明穂の欲望に沿うだけの話で。それに乗れば当然だけど俺が食われて屍になるだけってことだし。
「ってことでしょ?」
「いいじゃん。がっつりいきたいなあ」
休憩が済むと再び勉強を始める。
「次は公民やっつけちゃおう」
教科書を開いて勉強を始めるけど。
「大貴の倫理観は鋼だよね」
「なにそれ?」
「だって、あたしが積極的に迫っても耐えてたじゃん」
あー、そう言えばそうだ。性交は旅行まで絶対お預けって、貫いたから。
「泊まっても行かなかったし」
「それもそうだね」
「そこだけは鋼の意志なんだもん。他は簡単に挫けるのに」
はい。まったくその通りでございます。やっぱ高校生なりの付き合いがある、そう思っていた時期もありました。今じゃすっかり爛れた関係性で、明穂の思うがままなんだけどね。
公民も一時間みっちりやって、地歴をやるんだけど、地理は明穂と同等のレベルで、教えてもらう必要は無かった。
「男性は地図が読めるって俗説は事実だったんだ」
「脳の構造の問題らしいけど。代わりに女性はマルチタスクじゃん」
「でも大貴はちょっと方向音痴入ってる」
旅行の時にバレた。小田急の改札出て、JRのホームが右か左かわかんなかったから。初めて降りた駅だからちょっと迷った、っていう言い訳もあるけど。
でもこれで東京駅とかだと、明穂も俺も迷子になれるかもしれない。
「今度東京駅行ってみる?」
「なにしに行くの? あ、丸の内南口からなら三菱一号美術館行けるね」
明穂。美術に興味無さそうだったけど。
「美術館行くの?」
「行かないけど行くこともある」
「絵画全然駄目だったよね」
「観るのと描くのは違うんだよ」
まあそうなんだろう。明穂って何気に高尚な趣味があるから。
俺なんて絵を見てもなんだかさっぱりだし。
「理科もやっつけよう」
「えーっと、ある程度はなんとかなると思う」
「じゃあテストしちゃうけどいいの?」
それはなんか心構えが必要な気がする。って言ってる傍から問題出してくるし。
ぜんぜん回答できなくて右往左往する俺だった。でもそれってテストの範囲に入ってるの?
「テスト範囲じゃないけど、この辺は受験で必要になるから」
だそうで。
今後の課題ということで。
「じゃあ、やろうか」
問答無用で理科も一時間費やすことに。
結局丸一日全部勉強になった。途中夕食を挟んで一時間の休憩後に、英語をやって保健体育も少し。こんなに集中して勉強したのは、たぶん高校受験のための勉強以来だと思う。
「ちょっと怠け過ぎちゃってたね」
「面目ないです」
「中間までまだ時間あるから、上位を狙うのも可能だと思う」
いえいえ。俺なんか中程度で充分です。
あ、でも、大学進学ってなると明穂は俺と同じ大学って言ってた。ってことはだよ、俺はこれからも死ぬ気で勉強する必要があるわけで。底上げ図るとか言ってたし。
「あの、明穂さん」
「どうしたの?」
「大学は?」
「東大?」
無理だってば。
「一橋?」
東大文系と一緒だと思います。
「えーっと偏差値って確か」
「六十七点五」
「あの、俺の今の偏差値って」
「五十四くらい?」
なんでわかるんでしょうか。
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