Extra 朝は黄色いのだと知る

 明穂の家に来ている。いつもの事だけど。

 ベッドで蹂躙されながら俺に読ませたい物があると言ってる。


「この小説なんだけど」

「これ?」

「そう。大貴にとって勉強になると思うから」


 手渡された文庫本。これは読んだこと無かったなあ。

 下半身が落ち着かないけど、とりあえず読んでみることにした。

 で、最初の数ページを読んでちょっと衝撃。


「なんか初っ端からインパクトあるね」

「でしょ」

「これ、売れてるの?」

「累計五十万部だって」


 それくらい売れてるなら、共感を得た人もそれだけ多いって、そう言うことだよね。ラノベじゃ無いし文学と言う程に堅っ苦しくない。文芸より少しラノベに寄った感じだし。こういうのが読まれるのかな。


「文学だと今は受賞作くらいしか読まれないよね」

「そうだね。明治から昭和の文豪の作品ならともかく、あとから出て来た文学作品の殆どは、大して売れて無いし読まれないから」


 活字離れが叫ばれて久しいけど、その理由は俺でもなんとなくわかる。

 特に文学の分野は文学以外を認めない。それだけに留まらず見下す傾向が強くて、文学以外はただの文字の羅列程度に思ってる。そんな狭い世界の中で、じゃあ、ノーベル文学賞を受賞できるほどの作家が居るか、って言えばそんなの居ない。

 その程度の文学界が他を見下している間に、多くの人が文学を見切り始めて、様々な分野に流れて行った、俺は少なくともそう思ってる。


 過去の偉大な文豪はともかく、新たに出てくる作家の作品に魅力が無いのも。

 だって、芥川賞受賞作品にしても、じゃあ、どこがいいのかなんて、俺にもよくわからない。自己閉塞した世界の中で、身内同士で盛り上がってる傾向は否めないと思う。

 日本人の悪い所って、すぐ権威主義に走っちゃう。なんとかの権威、とかその肩書で崇めちゃうから、そこから先が無いんだよね。思考停止しちゃうってのか、凋落してても気付けない。

 と、明穂に言ったら。


「大貴も成長したね。そう思えるってことは、少しだけど世の中が見えて来たんだよ」


 褒めてもらえた、そう受け取っていいのかな。


「大貴と最初に話した頃、ラノベなんて、って言ったでしょ?」

「うん」

「でもね、そんな中にも優れた作品はあるの。大貴が今後どんな道に進むか、それは大貴にお任せだけど、文学にせよラノベにせよ、やるからには全力で挑んで欲しい」


 明穂は別に文学に拘る必要は無いって言ってる。書きたい物を書きたいように書くのが一番だって。無理に文学だのラノベだのに押し込もうとすると、歪なものに仕上がりかねないから。


 俺の上で軽く振り乱す髪はサラッと流れて、ふたつの大きな肉まんは、上昇時に重力から解放され、下降時にその重量感を感じさせる。

 うん。この眺めはいいと思う。

 じゃない。


「あのー。そろそろ」

「まだ駄目だってば」

「でも、俺、トイレ行きたい」

「それは拙い」


 まさかベッドで垂れ流しは拙すぎるし。

 で、解放されて急いでトイレに駆け込んで、用を足して戻ると。


「大貴」


 口角が上がり目は弓なりの状態で手招きされ、「続き」と言われてやっぱり解放されませんでした。

 この日はどのくらい明穂の相手をしていたんだろう。

 時間を忘れる程になんて、早々あるもんじゃないし。


 なんでかって言えば、明穂の両親が共に外出した際に「今日は帰れない」と連絡があった。

 理由を問うと用事がいくつも重なって、先方と矢継ぎ早に接する必要があって、急遽一泊するって話しだった。だから、急に自由な時間ができて、今のこんな事態になってるってわけ。


「明穂」

「なに?」

「お腹空かない?」

「そうだね。夕飯にしようか」


 やっと解放されます。

 ベッドから降りようとした明穂がコケた。


「さすがにやり過ぎた。足ガクガクしてる」


 そりゃそうでしょ。

 昼からずっと動いてたし、足腰に来てると思う。


「大丈夫?」

「少しじっとしてればキッチンに立つのは問題無い」


 俺がなにか作ろうかって提案したら。


「大貴が料理? なにが作れるの?」


 と言われて考えるも、これと言ってなにかが浮かぶわけじゃない。作れそうなものと言えば、パンを焼いてウィンナーを炒めて、葉っぱを千切ってサラダのようなもの、程度しか出て来なかった。


「それじゃ駄目だよね」

「うん。成長期にそんな夕食あり得ないから」


 全裸でストレッチをする明穂を横目に、そろそろ服着てもいいかなあ、なんて思ってる自分が居る。

 あのお、全裸ストレッチってなんかヤバいんですけど。


「あ、明穂」

「なに?」

「なんか着てやった方が」

「眼福でしょ」


 そうだけど、だって、ちらちら見える部分に目が吸い寄せられるし。


「遠慮しないで好きなだけ見ればいいじゃん」


 そういう問題では無いのです。

 もう少し、ほんの少しでいいから恥じらいを持って、なんてのは無駄な願いだと理解してるけど。


 キッチンではエプロンをして作業を始める明穂だ。

 これって裸エプロンって奴だよね。昔は男性の憧れみたいな話だったけど、今もそうなんだろうか。俺としては背中を見せた瞬間の下半身。それが絶妙な気がしないでもない。

 じゃなくて。


「あの、俺、お風呂の掃除してこようか?」

「やってくれるの? でも大貴、お風呂掃除できる?」

「そのくらいは家の手伝いで前にやったことある」


 ちょっと考えてるみたいだけど、二度手間になるのも嫌だそうで、俺になにかしてもらうのはご遠慮願われた。

 風呂掃除もできないってのは、今どき男子としては情けないかも。っていうより、信用されてないってのが情けない。

 じゃあ、ということで、お風呂掃除をしに行くんだけど。


「どの家もそれほど違いは無いんだから、家でやってたことをやるだけだよね」


 風呂の蓋を開けて蓋は脇に追いやり、栓を抜いて水が流れるのを暫し待つ。

 徐々に減って行く残り湯。明穂だけが入ってた風呂の残り湯なら、ここにダイブしてもいいかも、なんて思ったけど。これ、お義父さんもお義母さんも入った、そう考えるとダイブしたくなくなるね。

 家族ならなんとも思わないんだけど、他人の家族ってなると、ちょっと抵抗出ちゃう。これじゃ、本当の家族になった時に支障があるかも。


 水が抜けるとバスタブの掃除をして、床を流して台とか風呂の椅子とか、洗面器含め洗い終えると豪快に疲れが出て来た。

 風呂掃除ってやり出すと相当な重労働だったって、今この瞬間理解できたかも。


 キッチンに戻ると明穂に「掃除してきたんだ」と言われて、今までにないくらいまじめに掃除したって伝える。「じゃあ、あとで点検して良かったら、大貴の家事力はレベル一ってことになるね」とか言ってるし。レベル一って、初期値じゃん。


 食事ができてエプロンを取っ払って、全裸で食事をする明穂と俺。

 落ち着かないけど服着させて貰えないし。


「あーん。だよ」


 で、これも恒例となってるし。

 向かい合って座るんじゃない。横に並んで座ってるから、明穂の体に触れながらの食事になった。

 食後はやっぱり全裸で寛いでって、もう全裸生活もその内定着しそうだ。


「お風呂入ったら続きかなあ」

「勘弁してください」

「大貴は軟弱なんだってば。もっと鍛えないと」

「いえ。そこは鍛えられる部分じゃないと思います」


 男性ホルモンが大量分泌されて、髭も胸毛もすね毛もぼうぼう、そんな男ならきっと絶倫かもしれない。でも俺って、明穂も言う通り可愛い系らしいから、腕もすねも毛が殆ど無い。髭だってろくに生えてこない。つるつるだからね。昔は女の子に間違えられる程だったし。

 今思ったのは玉の大きさも関係するのかも。大きいってことはそれだけ旺盛なんだろうなって。

 翻って自分のを見ると、明穂に蹂躙されると思うだけで、縮み上がる状態でどこに行ったって感じ。これじゃあ明穂の欲求に応えきれないよね。


「大貴の玉って成人男性と比較してどうなの?」


 その質問は酷なんです。


「わかんない」

「比較対象が居ないから?」

「それもあります」

「お父さんと比較してどうなの?」


 それも不明。見たい訳じゃ無いし、父さんと比較した訳じゃ無いし。と言ったら、「女性と違ってパッと見てわかるもんじゃないからだね」だってさ。

 女性はわかり易いよね。出っ張り具合が露骨に見えるから。


 その後、抗うも強制的に徴収されて、干からびたのは言うまでも無い。


「朝だよ。明穂」

「そうだね」

「朝って黄色く見えるんだね」

「夜通しだったからかなあ」


 死ぬかもしれない。

 意識がもうろうとする中で、昇る朝日を拝みながら二人揃って、しっかり眠りに落ちたようだ。

 次に目覚めたのは両親が帰宅した直後だった。


「昨日は楽しんだみたいだね」


 この言葉で羞恥心が暴走したのは言うまでも無かった。

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