Extra モテ期が到来なんて

 絶対ないと思ってた。


「浅尾先輩! あたしと付き合ってください」

「ずるい! あたしが前から目を付けてたのに」

「早い者勝ちだってば」

「じゃあ、一番はあったしー!」


 なにこれ?

 あの、明穂はどこに?

 この事態を静観してるような人じゃ無いよね。


「後輩の癖にずうずうしい」

「後輩も先輩も関係ないですう。選ぶのは浅尾先輩なんですから」


 今俺の周りに三人の女子が居て、なぜかそれぞれが好き勝手に告白してる。

 無いんだってば。

 これって夢なのかも。でも、こんな夢を見るってことは、俺の中に願望があるってことなのかな。明穂が居るのにこんな願望、意味無いじゃん。


 因みにこの三人。

 一人は後輩なんだと思う。そして一人は同学年。そして一人は先輩。

 満遍なく三学年から同時に好かれた? いやいや、ある訳無いし。


「先輩。お返事聞かせてください」

「浅尾。返事は?」

「誰を選んでも恨みっこ無し。だからちゃんと選んで」


 いやあの、俺には明穂っていう最高の女神様が。


「どこ見てるんです?」


 辺りを見回して明穂を探してたら、後輩らしき女子に言われた。

 あ、そうだ。明穂と付き合ってることを知らないはずはない。だとしたら三人で一斉に揶揄ってるってことか。でもさ、今さら俺を揶揄っても、あとで明穂からの報復あるかもしれないよ。


「えっと、三人とも俺が明穂と付き合ってるって」

「明穂? 誰ですかそれ」

「浅尾。他に誰か付き合ってる人居るの?」

「明穂なんて、この学校に居ないし、だったら他校の生徒?」


 あれ?

 ちょっと待って。明穂を知らない生徒なんて居るはずない。そんなの俺だけだし。

 じゃあ、もしかして、やっぱこれって夢か。


「あの、三人とも俺は知らないし、明穂が居ないってことは、これって夢だよね」


 三人が固まった。

 夢ならその反応も理解できる、かもしれない。夢だと認識すれば夢のコントロールも可能だとか。だとしたら、これは夢なんだ。


 遠くでアラームの音が聞こえる。

 良かった。やっぱりこれは夢だったんだ。アラームが鳴ったことで夢と理解できたし、明穂の居ない世界なんてあり得ないから。


 目覚めると朝日が眩しい。

 カーテンは閉めたはずなんだけど、母さんが開けたのかな。


「!」


 なななな、なんですか? この隣にいる物体は? なんで? どうして?


「あ、おっはよー」


 明穂じゃない誰かが俺の隣で寝てる。しかも服着てないし、全部丸出し。

 起き上がると二つ、揺れる丘が。


「大貴ってば、なにびっくりしてるの?」


 いや、確かに俺は大貴だけど、隣に居るのは明穂じゃないの? どうして?

 そしてあなたはどこの誰?

 次々疑問しか出て来ないこの状況。なんでこうなってるのか、さっぱり理解が及びません。

 困惑してたら抱き付いて来て、「どうしたの? いつもの挨拶は無いの?」とか言ってるし。

 その挨拶ってのはハグですよね? 明穂とだったら。


「もう、まだ寝ぼけてるのかな、この寝坊助さんは」


 言いながら俺の額を小突く知らない女子。


「学校遅刻しちゃうから早く起きないと」


 そう言ってベッドから出ると、その姿態を惜しげもなく晒してくれてます。朝から刺激が強過ぎてヤバいんだってば。


「あ、それ、昨日は使い損ねたけど、今日なら大丈夫そうだね」


 意味不明。

 使い損ねた? 今日は大丈夫?


「えっと、誰?」


 この言葉で固まる女子が居る。

 身動ぎひとつしないのかと思ったら。


「大貴。頭打った?」

「打って無い」

「じゃあ、あたしのことわかるでしょ?」

「わからない」


 俺の傍に来て熱を測ってるのか、額を額に当てて顔近いし。眉尻が下がって心配そうな表情になってる、けどさ、俺マジであなたのことを知りません。俺には明穂っていう最高の女性が居るはずなんです。

 誰に対してもどこに出しても恥ずかしくない、自慢の彼女が居るはずなのに。


「熱は無いみたいだね」

「無いと思う」

「あ、じゃあ原因はあれかなあ」

「原因?」


 聞くところによれば、横恋慕する女子にバックアタックを食らって、前のめりになった上にその女子と重なって、一時的に意識を失ったらしい。

 そんなの記憶に無いし。


「ってことはさ、一時的な記憶障害なのかな?」

「無いと思う」

「なんで?」

「俺には明穂っていう彼女が居るから」


 それ誰? とか言ってる。

 でも、居るはずなんだよ。あ、そうだ、スマホに。そう思ってスマホを手に取り、連絡先の三菅明穂を探すけど。


「なんで?」

「どうしたの?」

「無い」

「なにが?」


 明穂の連絡先が無い。どうして?


「明穂の連絡先」

「明穂って誰? もしかして浮気してる?」

「浮気? 誰と?」

「ねえ、本当にどうしちゃったの?」


 そうだ、写真。と思ってフォルダーを見ても明穂の写真は無い。明穂と一緒に旅行に行った時に買ったぬいぐるみ。と思って部屋の中を見回しても、それも無い。

 おかしい。これもやっぱ夢だ。

 これ、普通に小説でこんなオチがいくつも続くと、超駄作のレッテル貼られて終わりなんだけど。夢オチってのは最低な種類だし。

 それなのに俺は夢オチばっかりって、なんか縁起でもない。


「大貴?」

「あ、えっと。これも夢だよね」

「夢? なに言ってるの? 目は覚めてるはずだし、起きてて夢見てるなんて無いよね」


 今度は止まらないし固まりもしない。

 で、こんな話をしているとドアが激しく開いて、「お兄ちゃん! 学校遅刻しちゃうってば! って、まだ寝てたの?」と、部屋に来たのはあれ? 明穂?


「ちょ、ちょっと待って。明穂?」

「なに? お兄ちゃん、早く起きないとマジで遅刻だよ。陽和先輩も起きないと」


 いやー!

 なんで隣に居るのが陽和って名前なの? それに妹が明穂とかなんの冗談? いやいや冷静になるんだ俺。確かこの陽和と言う女子は明穂って誰、って言った。確かに言った。つまり、これは夢だってことだ。矛盾が生じてるんだから。

 隣で胸を丸出しの女子に、この件を追求すれば逃れられるはず。


「明穂って誰って言ったよね」

「言った」

「じゃあドアの前に居るのは誰?」

「大貴の妹の明穂」


 おいこら。明らかに言ったと言いながら、ドアの前の女子を明穂だと認識してるじゃん。


「知らなかったんだよね? 明穂」

「知ってた」

「じゃあなんで誰って言ったの?」


 固まった。

 これで抜け出せる。


 で、俺をじっと見つめるのは明穂だ。


「大貴。どうしたの? ずっとどっか旅立ってた?」


 白日夢?

 目の前に居るのは確かに明穂だ。俺の心の支えであり俺の全て。


「あ、えっと、なんか妙な感覚になってて」

「寝不足なのかなあ。昨日やり過ぎちゃった?」


 やり過ぎもなにも、それは毎回のことではないかと。

 周りを見回すとどうやら教室のようで、他に生徒は居ないみたいだけど。


「みんな帰ったのかな」

「部活も終わってるし、大貴がおかしかったから様子見てた」


 そっか。

 やっと変な夢から抜け出せたって訳だ。なんかマジで変な夢が続いたなあ。


「帰れる?」

「あ、うん」


 校舎を出ていつも通りの通学路を、と思ったら明穂さん、どこへ行こうとしてるんでしょうか。


「明穂、そっちは駅じゃないんじゃ」

「大貴。まだおかしいのかな?」

「えっと、なんで?」

「駅はこっちでしょ。まだ意識がはっきりしてないのかも」


 いや、それはおかしい。

 駅への道順なんて体が覚えてるから、間違うはずも無いし。


「今日はあたしの家に泊まるんだよね? だったらこっちでしょ」

「いや、あの、電車は同じだし方向も一緒だし」


 で、明穂を見たら、だからどうしてそうなってる?


「あ、え、ひ、陽和?」

「陽和じゃないってば。明穂だよ? 自分の彼女の名前間違えるかなあ」

「でも、顔が」

「顔? あたしの顔と陽和の顔が同じ訳無いじゃん」


 そりゃそうだけど、今俺の前に居るのは明らかに陽和。

 まさかこれも夢なのか? でも、さすがにこんな連続していつまでも夢の中って、絶対おかしいし、普通はあり得ないし。そうだとして、もしかして、ひょっとしてひょっとしなくても、これも夢ってこと?


「今夜も萌えたかったんだけど、その分だと少し休んだ方が良さそうだね」


 陽和の顔した明穂とできる訳がない。妹だし、妹の顔で興奮したらただの変態だし。


「じゃあ、大貴の家まで一緒に帰ってあげるから」


 そう言ってまた別の方向へ進む、陽和の顔を持つ明穂だった。

 そっちも方角が違うんだけど。


 という話を考えたんで、明穂に言ったら。


「大貴。そんなの誰も読まないって」

「やっぱ駄目かな?」

「夢オチが続いて、しかもラストにオチも用意して無いじゃん」

「最後はどんでん返しとか考えたけど、なんか思い付かなかった」


 ちょっと呆れ気味の明穂だったけど、パラレルワールドみたいな設定でなら、もう少し行けるんじゃないのかとか。

 まあ俺が書いてる時点で無理だと思うけど。

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