Epi43 目論見通りに行くか
帰り道で張り付く明穂と一緒に帰宅するんだけど。
「なんか結局明穂に頼りっきりだった」
「それでも大貴がちゃんと発言したってのは、今後に繋がると思うよ」
そうは言っても統率力とか影響力とか、とにかく部長よりも強烈で、逆らえる人なんて校内に居ないんじゃないの、ってくらいに獅子奮迅の活躍だし。
俺なんてあっと言う間に霞んじゃうよね。
「大丈夫。成功すれば大貴への見方も変わるから。あ、性交は今夜あるのかな?」
無いです。
酷く草臥れたんで今日は自分の家で、しっかり睡眠取りたいです。緊張もあったしみんなの前で発言するの初めてだし。また初めてを経験した感じだけど。明穂と居ると本当に経験積まされて行く感じ。
「無いから」
「大貴。あたしは萌えてるんだよ?」
「あの、今日はマジで疲れたんで勘弁してください」
「じゃあ寝てていいからあたしに頂戴」
だから、どうしてそうなるのかなあ。
「あのね、今日のプレゼン、ちゃんとできてたじゃん。もっと自信持っていいと思うんだけどなあ」
「緊張し過ぎて震えてたんだけど」
「わかってる。でもやりきった。それは自信を持っていい」
事前に用意されていた内容であっても、きちんとできたことは事実だし、それらの積み重ねで経験値も上がるし、それがあっていずれは堂々と発言できる、と明穂は言う。
「だから今日はね?」
交わす視線の先にある表情は愛らしい。けど押しが強い。
この押しの強さは明穂の強みだろうけど、今日はマジで寝たい。あ、明穂と一夜をってことじゃないから。いや、明穂と一夜でもいいんだけど、あっちは無しで。
「休ませて欲しい」
「軟弱だなあ。じゃあ、添い寝だけで我慢する」
まあそれなら。
「余計なことは無しだから」
「うーんとねえ、しない、よ?」
これは添い寝を装って襲う気満々だってことだ。
添い寝程度で済むはずも無いんだし。食われちゃうんだよね。結局。
明穂の家に行くことが多くて、たまには俺の家でとなり、明穂もしっかり付いて来る。腕の絡み具合とか指の絡み具合とか、足まで絡んでくるから相変わらず歩き辛い。
「あの、普通に歩きたい」
「普通だと思うけど? 恋人同士ってことが前提だけど」
「いや、あの、恋人でもこんなに絡んでるって無いと思う」
「他人は他人だってば。あたしの中での恋人はこれがスタンダードだよ」
なにを言っても無駄でした。
家に着くと夕飯一人分追加になって、慌てて用意する母さんだ。
「事前に連絡欲しい」
だそうで。
でも、突然決まることの方が多いし、土日は俺が明穂の家から帰るけど、平日はねえ、明穂の気分次第ってのがあって、難しいんだよね。
部屋に入るとパジャマを用意して欲しいとなり、俺の普段着てないジャージを貸した。
やっぱりそうなるんだけど、一旦下着姿になってジャージを着るはずが。
俺を見ていやらしい笑みを浮かべるんだけど、いや、股間を見てだよね。で、俺も着替えようとすると、パンツ下ろすし!
「ごきげんよう! 今日も元気だね」
「あの、精神的に疲労困憊なんですが」
「でも、こっちは元気一杯だよ? いいよね?」
いいよね、と言いながら了承なしで、がっつり食われてます。
下半身丸出しでなすがまま、事が済んで満足すると明穂がジャージを着る。一緒の着替えは俺にとっての鬼門だよね。必ず食われてるし。
着替えの済んだ明穂を見ると。
「ちょっと大きいね」
「まあ、俺の方が背が高いから」
「大貴って童顔の割に背は高いんだよね」
顔と背の高さに相関関係はないと思う。
袖捲りと裾もと思ったら、あんまり長そうじゃない。
「明穂って、足が長い」
「身長差が十センチ以上あっても、足の長さ変わらないんだね」
それは単純に言って俺の足が短い……。
「あ、でも、そんなの気にして無いし、あたしがたまたま足長めってだけだし」
俺の頭をぽんぽんしながら「気落ちする必要無いのに」とか言ってる。
明穂はいろんな部分で完璧だ。同じ人間とは思えないな。
夕食の時間になると呼び出されるけど、あれが居る。
顔合わせたくないんだよね。居ないものとして扱いたいのに、母さんももう少し気を使ってくれてもって思う。
「どうするの?」
「リビングで食べる?」
「そうしよっか」
二人で各々の食事をリビングテーブルに運んで、陽和の顔を見ないで済むようにした。
「文化祭までそんなに時間無いから、準備は急がないとね」
「三年生は受験勉強も追い込みだし、あんまり参加でき無さそうだけど」
「二年生が中心になってやればいいだけじゃん。指示はあたしが出すから」
明穂が中心になってやれば、間違いなく上手く動いてくれるんだろうな。俺が同じことをしても反発ばっかで纏まらなそうだし。
「大貴は来年だね」
「えっと、それは部内で評価を得たらの話だよね」
「大丈夫だってば。今回の文化祭で結果が出れば、どうしたって大貴を見直す必要出てくるし」
「そうなればいいんだけど」
俺をじっと見つめる明穂だけど「相変わらずの自信の無さは、一朝一夕でどうにかなるものじゃないか」と、少々残念そうではある。それでも期待はしてるそうだ。
「それとね。文化祭は絶対成功させる。あたしが頑張って、大貴も頑張るんだから成功間違いなし。あ、性交もだよ」
文化祭の成功はともかく最後の方は要らないと思う。すぐ口に出ちゃうんだよね、明穂って。
「大貴」
「ん?」
「あーんして」
「いや、それ恥ずかしいって」
母さんが居て陽和も居るのに「あーん」は無いと思う。
そう思うんだけど摘ままれたおかずは、俺の口元に押し付けられてるし。仕方ないから口を開けるとしっかり押し込まれた。
「あたしにも」
全身痒いんですけど。
でもやらないと機嫌損ねそうで、仕方なく明穂にも食べさせると、実にご機嫌な状態になって、暫く二人で食べさせ合うのが続いた。
母さんを横目で見ると微笑ましい、というより少し呆れ気味だったけど。
で、聞こえてくるのは。
「仲いいわねえ」
だそうで。
明穂が甘えんぼさんなのか、俺にそうさせるなにかがあるのか、それは不明だけど俺も明穂に甘える部分はあるし。全身痒くなるけどそれでもなんか楽しい。
陽和はさっさと食事を済ませると無言で食卓から離れた。
居なくなると母さんがなにか言ってる。
「仲直りできないの?」
まだ気にしてるみたいだ。
普通は兄妹仲良くで家族も纏まるんだろうけど、アレの場合は俺を無視して、俺も無視する状態だから、どうにもならないと思う。と言ったら「陽和も意地張ってるけど、本当は仲直りしたいんじゃないかなって」だそうだ。
無いでしょ。
完全にバカにして見下してるんだから、それが数カ月程度でどうにかなるなんて。
「大貴」
「えっと、なに?」
「なんかあったんじゃないの?」
「え?」
母さんと明穂は陽和になにか感じるものがあるみたいだ。
俺にはさっぱりわからないけど。
「たぶんね、学校でも揉めたと思うんだよね。そんな時に相談できる相手って、母親と兄でしょ? でも兄とは絶賛冷戦中。しかもお母さんとも距離できちゃった。苦しいのかもしれないよ」
学校で揉めたって言うなら自業自得だと思う。増長し過ぎてトラブルを招くなんて、分かり切ってたことだし。俺がなにか言っても解決する訳じゃ無いし、愚痴なんてそれこそ聞きたくもない。
「仕方ないと思う。陽和が謝らない以上、俺からは一切なにもしないし、仲直りなんて無理だし」
「そういうところ、頑ななんだよね。あたしはなんとかなったけど」
明穂の泣く姿を見てなにも感じないなら、それは冷血漢だと思う。あれはグサッと刺さるものがあった。一度だってしたことのないハンカチを渡したのもそうだし。
自然にそういう動作が出て来た。それは明穂だからだと思う。
「明穂みたいに魅力溢れる人なら絆されるんだろうけど」
「あ、魅力あるって思うんだ」
「それは当然。明穂以上の女性なんて居ないと思ってる」
「それは嬉しいけど、妹も磨けば光る素材だと思うんだよね」
それこそ無いでしょ。あんなちんちくりん。
母さんなら親バカで可愛いとかなるだろうけど、俺から見たらあれ程憎たらしい存在は無いし。
「陽和のことはもういいよ」
「そう?」
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