Epi40 結論は昼も一緒がいい

 下校後に明穂の家に行き俺の殴られた箇所を見てる。


「あの、なんともないと思う」

「でも、痛かったでしょ? 苦しかったでしょ? なんともないの?」

「痛いのは痛かったけど、でも大丈夫そうだし」


 これ心配してくれるのはいいんだけど、なんでパンツまで下ろすのかなあ。

 見てる場所が違う気がするし、手に持って観察されてるってのも、気恥ずかしいし。でも、反応しちゃうし。


「大貴のが怪我したら、あいつらのもぎってやるのに」

「怖いってば」


 明穂の手につい力が入るのか、俺のが握り締められてヤバいんだってば!


「あ、明穂! 折れちゃう」

「あ、つい力が。折れちゃ拙いよね。使えなくなったら困るし」


 あの、明穂さん。だからってなでなでされると。


 詳細な確認作業が済むと解放されるかと思いきや、食われました。

 一通り明穂の欲望が満たされると、今日のことを話し合うことに。


 明穂を脅して無理やり付き合ってる。

 そんなの考えるまでも無く、フィクションの世界だけで現実にある訳がない。現実と虚構の区別も付かない人って、少なからず居るのだと改めて認識した。脅されて付き合う子がそもそも笑顔で接していられるか、そんなことも理解できない程に、先に憎悪だけが出て来ちゃったんだろう。

 件の三人は三日間の停学処分になった。


「処分が甘い」

「でもさ、俺が例えば大怪我したならわかるけど、今回は痛いことは痛いけど、怪我はなかったし」

「あたしの大切な大貴を殴った。それだけで万死に値する」

「いや、あの。それはいくらなんでも」


 警察に被害届を出せば暴行罪になるけど、それも逆恨みされる可能性もあって、あえて和解とすることで話が付いてる。

 仮に警察のお世話になると進学に影響が大き過ぎるから、と一見すると温情に見えるけど、裏を返せば牽制ってことになるから。警察のお世話にならずに済む、即ち人知れず内々の処分で済む訳で、進学への影響も最小限に抑える事ができる。と懐柔策で丸め込んだ。


 こんなの誰が考えたのか、と言えばもちろん明穂だ。

 停学三日間には納得してなかったけど、和解で済んだならば已む無しだと思う。


「罰として三日間の停学処分だし、それで充分だと思うよ」

「せめて一年は反省の意味を込めて停学させておけばいいのに」

「やりすぎだってば」

「大貴は悔しくないの? あんな連中、バカな癖に。自分達こそ底辺だって気付けないんだよ」


 関わらないなら居ても居なくてもどっちでもいいんだけど。

 相手するだけ疲れるし。


「二度と関わらないなら、それでいいよ」

「あたしならやられたらやり返すけどな」

「それは明穂が強いから」

「強くない。でも自分が納得行かないから」


 明穂は強いと思う。そうやって考えられるんだから。見返すってのもそうだし、やり返すのもそうだし。

 でもだからこそ成績も優秀なんだろうな。負けん気の強さもあるのかな。


「それでね、こういうことが二度と無いように、宣伝しておいた方がいい」

「前に言ってたっけ。初めて明穂の家に泊まった時だった」

「自分で言うのもなんだけど、告白はたくさんされて来た。だから大貴と付き合ったらあるんだろうなって」


 明穂曰く、なんでか知らないけど、男子がやたらと好きだとか言って群がって来て、全部お断りしてたのもあって、そんな中での俺。当然だけど男子の嫉妬心やヘイトは、全部俺に集中する訳で。

 明穂もそれは理解していて、だからこそ宣伝が必要だと思っていたらしい。

 先に惚れて告白したのが明穂で、俺からじゃないってことも。


「わざわざ校内でも登下校中でも、べたべたしてたのはね、そういう意味もあったんだよ」

「じゃあ、わざとだったんだ」

「それだけじゃないんだよ。大貴といつでも一緒がいいし、いつも触れていたいんだよ。本当なら教室も一緒がいい」


 ついでに「家も一緒で部屋も一緒、いつでもどこでも大貴が居るのが理想」とか言ってるし。「お風呂も一緒。なんならトイレも」じゃないってば。俺が恥ずかし過ぎて用も足せないし。


「あたしが持ってあげてもいいんだよ?」

「遠慮します」


 排泄行為なんて見られたくないし。明穂は平気なのかな?


「見る?」

「えっと、遠慮しておきます」


 それも見せちゃうんだ。一切合切隠す気ないんだね。


「あ、それでね、宣伝だけど」

「なにかあるの?」

「校内でも繋がるのがいいんだけど、それはさすがにむつかしい」

「難しいとかじゃなくて、ただの変態だってば」


 すでに校内でもキスだのハグはしている。それで充分だと思うけど、でも、それでも足りなかったのか、暴走した連中が居たのは事実。そうなるともう一歩踏み込む必要があるのかも。


「変態上等だと思うけどなあ。そもそも何を以って変態とするのか、ってとこから定義しないとだけどね」

「いやあの、それは普通に変態でしょ」

「大貴はあたしと繋がるのが嫌なの?」

「じゃなくて」


 ただの羞恥プレイにしかなって無いし。


「あとは、お弁当一緒に食べるとかしかないかなあ」


 各々の教室に交代で行って、会話でもしていれば仲睦まじさは、その内容からも理解が及ぶはずと。決して一方的な関係性ではない、それさえ知らしめれば。


「まさかフールプルーフレベルで理解させないといけない程に、生徒にバカが居るとは思わなかったけど」

「でも、予想はしてたんでしょ」

「入る時は同じ程度だったはずなのに、居る間に差が出ちゃうんだよね。バカはやっぱり地が出るって言うか」


 認めたくない、っていう思いが思考を歪にして、目が曇って行くんだとも言ってる。そうなると自然に自分にとって、都合の良い方へと考えるようになるから、バカは面倒臭いのだとか。


「他にも出てくるのかな」

「さすがに居ないと思いたいけど」


 これ以上出てきて欲しくないな。見てればわかりそうなのに。


「こういうのって、デマを信じる心理にも似てるんだよね」

「また難しいことを」

「大貴も小説書く上で、いろいろ心理を学んだ方がいい。深みが違ってくるから」


 デマを信じてしまうのは、現実と自分の心が一致するように行動するからだそうで。だから、今回のケースで言えば、あの三人は俺に嫉妬しその原因を求める。それが明穂を脅す行為であれば、自分達にとって都合の良い解釈になり、結果、俺を傷付けて追い詰めることで、明穂を救い出せると考えてしまった。

 そんな下らない理由なのかと思うけど、意外にもその程度に単純なことなのだそうだ。


「嫉妬心は濁らせる原因の最たるものだから」

「そうなんだ」

「心理を学ぶとね、誰もが知る現象を書くだけで終わらずに、その理由付けの部分が肉厚になる。なんでその行動に至ったのか、書く必要は無くても話に不自然さが無くなるから」


 ラノベの多くを読んでいて感じるのは、物事が唐突に始まって、その背景を感じ取れない作品が多いと言う。

 俺はそこまで気付けなかったし、単純に読んで面白ければいいと思ってた。


 結論としては双方それぞれの教室に行き、昼も一緒に過ごすことになった。


「明日はあたしが大貴の教室に行くね」


 普段はどうしていたのかと言えば、友達と一緒に昼を食べて、適度にコミュニケーションを取っているらしい。俺はと言えば一人で弁当食べてるだけ。話相手居ないし。でも、明穂と一緒なら楽しいし、昼の冷めた弁当も美味しく感じられそうだ。


 結論を得たことで帰ろうとしたら、明穂に抱き付かれて阻止された。


「帰るの?」

「だって、始まったばっかりだし」

「今日、あたしすごく怖かったんだよ。大貴があんな目に遭って」


 俺も怖いと言うか痛いのは嫌だし、勝手に思い込まれての暴力だったし。

 明穂を見ると強気な態度とは違って、ものすごく心配して探していたとわかる。


「今日は明穂に助けられたし、お礼もあるから」

「じゃあお泊りだね!」


 急に元気だ。

 なんか騙された気もするけど、嬉しそうだしいいか。


 夕食の場にはいつも通りお義父さんとお義母さんが居て、明穂が今日あったことを話してて、二人とも憤慨してたけどお義父さんからは。


「明穂に頼りっきりも男の沽券に関わるだろ? 体鍛えてみるか?」


 小説書いて勉強して明穂といろいろして、そこに更に追加だときつそう。

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