Epi38 永遠には続かない休日

 家で母さんと食事をしていると、不意になにやら言い出した。


「この前、大貴の写真いくつか持ってかれたけど、あの写真の元って大貴が持ってない?」


 元データは母さんが持ってるんじゃないかと。俺の裸とか膨張時の奴とか、そんなのはわざわざ複製しなくていいと思う。


「要らないでしょ」

「要るんだけどね」

「恥ずかしいから無くていい」

「あたしの楽しみだから」


 そんな楽しみはどぶに捨ててしまえばいい。

 妙ににやにやしてるけど、なにを企んでるんだろうか。なんか明穂と接触して毒されてないだろうか。


「今の写真でもいいんだけど」

「別に撮らなくてもいいと思う」

「違うって。赤ちゃんの頃と比較する意味で」

「母さん。バカでしょ」


 どこの世界に自分の親に膨張したあれを見せる息子が居るのか。


「冗談だけど、大貴は持って無かったんだっけ?」


 真顔で冗談言うからそう受け取れず、俺が自己否定し捲る結果になった、と気付いて欲しい。


「母さん自分でどっか保管したんじゃないの?」

「あとで探してみようかな。あ、それとね、やっぱ写真撮らせてくれない?」

「なんの?」

「決まってるでしょ。成長したお〇ん〇ん」


 本気で言ってるとしたら、ヤバいなんてもんじゃないと思う。


「冗談でしょ?」


 そこでなんで悩むの? 冗談じゃないの? マジで? だとしたら母さんも変態ってこと?


「ほら、小さい時はおむつ替えとか、お風呂入れたりで見てるでしょ。でも、大きくなるとそう言う機会も無くなって、息子の息子を見ることも無いし。成長具合って親なのに知らないから」


 また真顔で言ってるし。


「明穂ちゃんの家でかなり使い込んでるだろうし、お父さんと同じ感じなのかなって、興味湧いたから。愛しい息子の成長具合知りたいじゃない」


 もう勘弁して欲しい。この前までゴミ扱いが今度は妙な愛情を示すし。


「真に受けてるけど、冗談だからね」


 だから真顔で言わないでって。マジなのかって受け取っちゃうんだから。


「少しはそんな気持ちない訳じゃないけど」

「無いから」

「そう? 残念」


 さて、この場に陽和が居ないのは、先に食事を済ませてたからで、俺が後から来て母さんもそれに合わせたって感じ。

 この前までの反省もあって、俺と一緒に食事をするくらいには、適度に顔を合わせておきたいからだとか。陽和のことはこの場合、一切触れることはない。


「明穂ちゃん。本気で婿に迎える気なの?」

「すっかりその気になってる」

「嫁じゃ駄目なの?」

「どっちでもいいとは思うけど、勢いでそう言ったのもあるだろうし」


 俺としてもどっちでもいいけど、もう少し性欲押さえて欲しい。


「それにしても、大貴の初彼女がまたいろんな意味で凄い子で」

「慣れたけどね」

「将来一緒になる気なら大貴がしっかりしなさいよ」

「わかってるけど、明穂相手だと難しいかも」


 とにかく引っ張り回されるし、問答無用な部分多いし。


 食事を終えて部屋に戻りさっそくプロットを少し見直してみる。


 そう言えばそろそろ夏休みも終わりなんだな。今年の夏休みは明穂と付き合えて、物凄く充実した感じがする。それまでの自分の腐り具合が嘘みたいだったし。

 じゃなくて、プロット見直さなきゃ。


 本気で泣かされたのもいい思い出になるのかな。

 明穂が居なくなったら、生きてる意味を失いそうだし。こんなに好きになれるなんて、自分でもびっくりだけど、でも、明穂だからかもしれない。両手を広げてハグを待つあの姿が可愛くて。

 じゃない。プロット。


 夏休み入ってすぐ、家に来て少しも恥じらいが無くて、胸丸出しでキートップとか言って、ずっと触らされてたっけ。あの感触は最高だけど文字入力できないし。気が散るからあれはちょっと心情的には嬉しくても、作業する上では単なる妨害行為だよね。

 じゃないってば。


 なんか、明穂のことばっかりだ。

 ずっといつでも一緒に居たいって、こんなにも強く思うなんて、今年の初め頃の自分じゃ考えられない。


 そう言えばスマホがぶるぶる言ってる。明穂だ。


「どうしたの?」

『大貴が家に居ないんだよ』


 以心伝心って奴なのかな。俺も明穂を強く意識してて、明穂も俺を強く意識してたってことで。


「俺も明穂のことばっかり考えてる」

『エッチなこと? 大貴、思い出して出すならあたしに出して欲しいな』

「あ、いやあのね、それも無い訳じゃないけど、そうじゃなくて」

『今から来れないの?』


 その言葉を聞くとヤバいんだって。本気で明穂に会いに行きたくなるから。


「さすがに無理だし」

『あたしのこと考えてたんじゃないの? その割には冷たいなあ』

「いや、あのね、昨日も今日も一緒だったでしょ。たまに距離置かないと」

『もう飽きたんだ』


 飽きてる訳が無いし、ひとつ屋根の下で一緒に生活したい、その想いは日増しに強まってる。でも、高校生ってことを考えると時期尚早だし。それを説明すると「早く卒業して一緒になりたい」と言う明穂だった。

 電話で小一時間も話をしてたせいで、プロットはほぼ手付かず。


 全然進まないんだもんな。

 寝る前に一度読んでみて明日また考えることにした。


 そして翌日、明穂が朝の八時前に来た。


「あんまりにも早い時間に来るから」


 母さんに叩き起こされて、部屋に入って来た明穂に蹂躙されかけた。

 昨日はプロット読みながらそのまま寝ちゃってたし、寝入ったのが何時だったかもわからない。でも、たぶん午前一時過ぎてたと思う。


「大貴が寝てるなんて、これじゃあ一緒に寝るしか無いよね」

「じゃなくて」


 ベッドに潜り込んできて服も脱いじゃうし。

 隣に心地良い感触があって抗えない自分が居て、なにより明穂が居ることが嬉しくて。


「あたしたちって、あのペンギンと一緒なんだよ」


 部屋の片隅に飾ってある、各々ひとつずつ買って来たペンギンのぬいぐるみ。抱き合って離れない。俺と明穂みたいで。

 で、豊かな感触が手に伝わってくるから、無駄に反応して困るんだけど。


「できそうだね」

「駄目」

「なんで?」

「朝からは拙いでしょ」


 ぐずる明穂をよそに起きて身支度を整えると、全裸で抱き着く明穂だった。


「だから」

「少しはいいと思うんだけど」

「それ、歯止め利かないから」

「大貴。固いよ。硬いのはこれだけでいいんだってば」


 そう言いながら股間をまさぐらないで欲しい。

 結局、明穂にも服を着直してもらって、朝食を済ませるべくダイニングへ行くと。

 陽和がまだのんびり飯食ってるし。


「どうする?」

「もう少し時間ずらしてもいいよ」


 いつもならもっと早い時間に済ませてるのに、なんで今日は遅くまで飯食ってるのか。こうなるとなんか邪魔。

 明穂は気にしてない風だけど、せっかくの食事が不味くなるから、母さんに目配せして、時間ずらして食べに来ると伝えた。


「妹と仲直りする気は無いの?」

「無い。って言うか向こうから謝らない限り、関係の修復なんて無い」

「そう。兄妹なのに他人より距離取っちゃうんだね」


 兄妹が必ずしも仲が良いとは限らない。なまじ身近な存在だけに一度拗れると、他人以上に修復が困難になることもあると思う。同じ家にいるせいで時々こうして遭遇するけど、こうなるとさっさとこの家を出て、あの不機嫌そうな顔を見ないで済むようにしたい。そう思ってしまう自分も居る。


「ずっとこんな感じなの?」

「向こうも折れる気ないでしょ。だったら一生このままだと思う」

「それも寂しいなあ」

「いいよ。俺には明穂が居るし、母さんもすっかり変わったし」


 明穂は一人っ子だから、兄妹がどんなものか関心もあるし、妹とか弟とか欲しいと思うこともあるらしい。もし居ればうんと可愛がってあげたいとも。

 明穂の可愛がりって、構い過ぎて疲れちゃいそうだけど。


 三十分ほどすると母さんが呼びに来て、遅い朝食になった。


 食卓に着くと母さんが「仲良くなれないの?」と訊いて来る。


「無理だと思う。俺が折れても向こうはその気無いでしょ」

「そうは見えないけど。互いに意地になってるだけじゃないの?」

「意地は、無いとは言わないけど、あんな態度なら、無理に仲直りする必要性を感じないし」

「兄妹なんだから仲良くして欲しいんだけどねえ」


 無理だってば。その気無いんだから。

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