Epi27 普通のデートも楽しい
明穂のチャレンジが始まった。プライズゲームで気に入ったぬいぐるみをゲットすべく。
その結果は。
「四百円で取れた」
八百円つぎ込んで成果ゼロの俺より上手だった。
まあ、未経験ってことを加味すれば落ち込む必要は無い訳で。
「大貴が取ってくれてればなあ。記念になったんだけど」
「今度練習しておく」
「コツがあるのと取れる奴と取れないのがあるからね。見極めも大事だよ」
明穂が店内を見回していると、なにかを発見したようだ。
「あ」
「どうしたの?」
「友達来てる」
明穂の視線の先を追うと俺の知らない女子が、数人屯して音ゲーで遊んでるようだ。
俺が知ってる女子なんて居るのかって話しだけど。クラスの女子でさえ名前を知らない人が多いんだから。どれだけ接点無いんだって話だし、自慢にもならないけど。
「声掛けないの?」
「いい。デートの邪魔されたくないし」
「少しならいいけど」
ひとりがこっちに気付いたみたいで、音ゲーで遊んでる二人を置いて、明穂の方に手を振りながら向かって来た。
「明穂も来てたんだ。なにしてるの?」
「デート」
明穂の友達とやらは俺を見てがっかりしてそうだ。
「よりによって、なんでそいつなの? 明穂なら選び放題なのに」
「大貴じゃなきゃ駄目だから」
また俺をちらっと見ると溜息吐きながら「勿体無い。サッカー部の主将とか、バレー部の奴とか先輩にもたくさんファン居るのに」とか言ってくれてるし。
俺自身が一番自覚してるんだから、抉るようなことを言わないで欲しい。
「サッカーバカとかバレーバカとか、脳筋は要らない。繊細な感性を持ってることが条件だし、あたしと話が合わないのは要らない。理系バカは要らない。いちいち理屈っぽくてウザいから。ムードメーカーとか気取ってるバカも要らない。煩いだけだから」
俺に対してもそうだけど、明穂の物言いにも呆れ気味な女子だな。
「それでもさあ、なんでそれなの? ちょっと勿体無いとかのレベルじゃ無いでしょ」
俺の校内での評価なんてこんなものです。男女関係なく。
「今はそう見えてるかもしれないけど、もう少ししたら見直さざるを得なくなるから」
ちょっと怒り気味の明穂だ。「それ」呼ばわりにカチンときたみたいだし。
「まあ、誰と付き合おうと自由だけど、後悔しないといいけどね」
「しない。大貴以外だったら後悔する」
無駄と悟ったのか離れていく女子だ。
俺の方に振り向くと両手を広げてるし。これはあれだ、精神安定を求めてるのだろう。ちゃんと両手を背中に回してハグすることに。
「大貴は、それ呼ばわりされるような人じゃない。必ず世間をあっと言わせる小説を書く。だからそれまではあたしが支えきる」
その後に更に言葉が付け加えられた。
「すごい小説が書けてもあたしを捨てないでね」
捨てるなんてあり得ない。明穂を逃したら俺にはきっと生涯、彼女なんてできっこないんだから。
一時間近く経過したみたいで、ボーリング場へと向かう。
「なんでみんな大貴の良さがわかんないんだろ」
良さ。そんなのあるのかわからない。明穂だけが俺に入れ込んでる状態だし。他の女子は眼中に無いって感じで干渉もして来ないし、ほぼ無視されてるくらいだから。男子も大半は無視してるし。たまに会話するのは文芸部の一部だけ。俺ってほんとに友達すら居ないんだな。
「やっぱあれかなあ。ラノベとかアニメとかコミックばっかで、頭使わないから文学になると思考停止するんだ。文学的な発想と想像力の無い人に、大貴の良さなんてわかる訳無い」
俺に対する評価が尋常じゃない。文学なんて言っても明穂程に深く傾倒してないし。どっちかと言えば俺もラノベの方が多いし。
ボーリング場に行くと貸しシューズに履き替えて、ボールを選んでレーンのひとつを占拠する。
「さあやるぞー! さっきまでの鬱憤を晴らす」
怒ってたんだね。あの物言いに。
そんなにボール振り回さなくてもっていうくらい、ボール持ってぶんぶんしてるけど、危ないってば。
と思っていたら思いっきりぶん投げてるし。
「とりゃー!」
明穂さん。それボーリングじゃないです。単なる遠投ですって。
でも結果は九本。なんで?
「惜しい」
「なんか、偶然にしてもできすぎてる」
「偶然じゃ無いんだよ。脇が締まってればボールはまっすぐ飛ぶんだから」
飛ばすのは違うと思います。
二投目も似たような感じでぶん投げたけど外れてた。で、舌打ちしてるし。
俺の番になってボールを持って、よろけながらボールを転がすと。
「大貴。へた」
「仕方ないってば。前にやってから四年くらい経ってるし」
ガターは逃れたものの倒したピンは二本だけ。二投目で三本倒して計五本。
そして明穂の怒涛の掛け声と放り投げで、二フレーム目はスペアだった。なんであれでスペアが取れるのか不思議だ。
対して俺はと言えば連続ガター。全く格好が付かない結果に。
「大貴は脇が開き過ぎ。もっと締めないと」
ボールを持って投げる際に腕が開いてるんだそうだ。だからボールがあらぬ方向へ転がるんだとか。
「腕はこうだからね」
そう言って俺の腕を取って動作を教えてくれてる。
三フレの一投目で五本倒れた。二投目で八本。最初より格段に上達した感じがする。
明穂の方はストライク出してるし。意外と運動神経いいんだね。
「指がタイミングよく離れて無いんだね。だから引っ掛かってる感じになって、変な方向に転がるんだよ。穴が三つあるからって全部に入れる必要無いんだよ。二つだけでやってみたらどうかな」
二本指で投げるから少し軽い奴を使えばいいらしい。言われた通りやってみると一投目で八本倒れた。指導までできるなんて、明穂ってなにやらせてもそつが無いんだね。
俺の方は明穂の指導の甲斐あって一ゲーム目は百十まで行った。過去最高の記録だ。百を超えられなかったのに。
じゃあ明穂の方はと言えば百四十六だった。
二ゲーム目になると明穂のフォームがまともになってる。
「さっきはあれだって、ちょっとイライラしてたから。普段はちゃんとやってるんだよ」
そう言うだけあって二ゲーム目のスコアは百八十超えてた。俺はと言えば百二十だったけど。それでも前より格段に上達したと思う。
腕が疲れてきてこれ以上は無理、と言ったら「じゃあビリヤードでもやる?」とか言うから、試しにと乗ってみた。
ビリヤード場へと足を運ぶとやっぱり待ち時間がある。
「すぐはできないね」
「どこで時間潰すの?」
「ちょっと早いけどハンバーガーでも食べる?」
「それでいいか」
ボーリング場を出て道路を挟んで向かいにある、ビル二階にあるファストフード店へ入った。
まだ昼には早い時間ってこともあってか、場所の割には混雑はしてなくて、座席も確保して明穂には座って待ってもらう。オーダーは俺が二人分頼んで、受け取って座席に行くとにこにこ笑顔だ。
「大貴。だんだん気が利くようになって来たよね」
「そうかな」
「言わなくてもできてるじゃん」
なんにしても明穂の機嫌がいいのは良いことだ。
二人で早めの昼食を済ませてビリヤードをやりに行く。
「大貴」
「なに?」
「へた」
何度目かな。経験が全くないからこればかりはどうしようもない。
「キューでボール撞く時に腕がブレブレ。だからまともに転がらないんだよ」
ボーリングと同じで脇を締めないと腕はブレる。だからしっかり締めて前後に動かせばいいんだとか。この手の球技の基本だからだそうで。
結局これも明穂にレクチャーしてもらって、なんとか格好だけは付いた。
「ナインボールだと勝負にならないね」
五回やって五回とも明穂の勝ち。俺にブレイクショットを打たせても、次に繋がらないからあとは明穂の一方的なターンだ。あまりにもできなすぎて、何度か譲ってもらいながらやっても、やっぱり上手く行かなくて、これは俺に向いてないと思う。
「大貴。こっちは宿題だね。何度か通って練習すれば、もう少し勝負になると思う」
まあ、明穂から誘われればビリヤードもやるけど。ひとりだったら来ることはないな。
この日はこれで帰ることにしたけど、六時までは余裕があるから、明穂の家によって行くことにした。
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