Epi24 バナナはワニのご飯か?

 大浴場には大人が多くて隠さない人も多い。ぶらぶらさせてて俺はと言えばしっかりガード。他人と比較する機会がないから、ちらちら見て自分のと比べると、大きいとは言い難い現実にぶち当たった。明穂はこんなんで満足するのだろうか。

 もしかして小さいから満足感を得られず、何度も求めてくるのかもしれない。聞いてみたいけどそれを聞く勇気は勿論ないんだよね。


 大浴場を後にしてロビーで待ってると明穂が来て。


「大貴大貴! すごいの居た」


 なにがすごいのか、なんて聞くまでもないんだろう。でも聞いて欲しそうだから。


「なにがすごいの?」

「大貴の顔くらいありそうなおっぱい。すごかった」


 まあそうだろうとは思った。明穂も小さい訳じゃないし、手に余るサイズなんだけどそれを上回るってことだよね。

 で、まさかそういう行動に出るとは、明穂に遠慮という概念はないのだろうか。


「それでね、話し掛けて、どうしたらそんなに大きくなるんですかって、聞いてみた。あとね、感触知りたいから少し触りたいって」


 言葉も出ない。


「特別なことはしてないし勝手に膨らんだとか言ってた。少しだけって言って触らしてくれたよ。もうね、柔らかくて重くて驚愕しちゃった。大貴は大きいの好き?」


 世の男性の多くがどうかは知らない。じゃあ俺はと言えば大きいのは確かに好きかもしれないけど、明穂で満足しないかって言えば満足してる。充分だと思ってるし、でも興味はあるんだよね。さて、それを正直に伝えていいものかどうか。


「えっと、嫌いじゃないと思う」

「あたしと大貴の顔サイズ、どっちがいい?」


 はい、これは即答案件です。


「明穂」

「いいんだよ。正直に言って」

「……ちょ、ちょっとだけ興味はあるけど明穂がいい」


 にやにやしながら「大きいと楽しそうだよね」とか言い出すし、「あたしのだとちょっと物足りないかも」って、そんなこと一度も思ったことないし。


「あ、大貴のは? 他と比較してどうなの?」


 やめて。ついさっき知って落ち込んだんだから。


「うん、なんとなくわかった」


 やっぱ明穂も大きい方がいいのかな。


「気にしなくていいのに。あたしは大きさより相性だと思うんだ。だから大貴とはきっと相性がいい。だから楽しい。それでいいと思うんだけど」


 互いに経験値が低すぎるから、どれがベストとかわかんないと思う。でも、今はそれでいいと言ってくれる明穂の言い分を信じるしかない。

 じゃなくて、そんな話はどうでもいい。


「へ、部屋に戻ろうか」

「そうだね。あ、戻ったら昨日の続き」


 性獣は今夜も励むそうです。


 その後部屋で「続き」とやらで格闘するも、互いに一回で力尽きた。昼間はしゃいでいて疲れたのもあるんだと思う。「まだ痛い」とは言ってたけど表情は満足げだったし、それ以上に睡魔に抗えなかったんだろう。そのまま抱き合うようにして寝入ってた。


 翌朝、スマホの目覚ましで起きると身支度を済ませて荷物を纏めておく。


「バナナワニ園だよね」

「そう。駅の反対側にあるから少し歩くけど」


 朝食の後にチェックアウトを済ませ、荷物を持って移動するんだけど朝から暑い。


「大貴、疲れない?」

「大丈夫。少しは男らしいとこ見せないと」

「充分だと思うけどなあ。朝も元気いっぱいだったし、あれで充分男を感じさせてくれてるよ」

「いや、あの、そこから離れようよ」


 ところどころ湯気が立ち上る街並みの中を歩き、目的地のバナナワニ園に着いた。


「施設って三つあるんだ」

「全部回るとちょうどいいのかもね」


 本園、分園、ワニ園の三つがそれぞれ別の場所にある。順番としてはワニから回って本園、それから分園でいいと思うけど、明穂の意見も聞いておこう。


「どうかな?」

「それでいいよ。分園に行くのにマイクロバス出てるんだ」

「乗車時間考えると歩いてもいいと思う」


 乗車時間はせいぜい三分満たない程度。だったら乗って待ってる間に歩いたほうが早い。高齢者は乗る人多いみたいだけど。

 ワニ園は川を挟んで道路より下に位置してて、受付や売店のある建物は道路に面してある。入園料を払って階段を降りるとワニだった。


「ここってドーム状の屋根あるんだね」

「温室になってると思うけど、こんなに広いとは思わなかった」

「ワニたくさんいるし、大きさもいろいろなんだね」


 幾つもの水槽やケージには大小様々でいろんな種類のワニが居て、どれも獰猛そうな顔つきしてる。口でっかいし牙すごいし噛まれたらひとたまりもなさそうだ。


「こうやってみてるとトカゲの親分みたいだね」

「トカゲの方が大人しくて可愛いと思うけど、これ放し飼いだったらシャレにならなそう」

「だから水槽に居るんじゃないの?」


 まあそうなんだろう。こんなの放し飼いにしてたら犠牲者多数だろうし。

 それにしても暑い。中は温泉を循環させてるらしく、今の時期はとにかく蒸し暑い。


「蒸し蒸しするね」

「夏じゃなくて冬に来た方があったかくていいかも」

「じゃあ、ここもまた来ようね」

「えっと、うん」


 予約入りました。

 また来ることになるかどうかはともかく、水族館でもやり残したことがあるから、たぶん来ることになるとは思う。明穂が良ければ俺はそれでもいいんだけど。


「あ、そうだ。大貴」

「どうしたの?」

「なんでバナナとワニなのかな」


 それは考えもしてませんでした。

 バナナとワニって熱帯系だから? と言ってみたら「確かにワニは寒いとこに居ないし、バナナも南国フルーツって感じだもんね」だそうで。


「てっきり、バナナはワニの餌になるのかと思った」

「無いでしょ。肉食だし」

「じゃあ、あたしは大貴のバナナを食べるから、ワニとは違うのかな」


 返答不能です。

 時々妙なことを言い出すから返答に困るんだよね。


「あ、別にあたしがワニだとか思って無いから。でも、肉食系女子とか言われたら否定できないかも」


 充分に肉食女子だと思う。留まるところを知らない性豪だし。


 一通りワニを見て併設される熱帯魚の水槽も見たら、一旦外に出て本園へと向かい入って行くんだけど、そこにはアマゾンマナティが居るってことで、明穂のテンションが少し高い。


「アマゾンマナティって、ここにしか居ないんだって」

「そうなんだ」

「千九百六十九年に来てずっと飼育されてる長寿さんなんだよ。それに水生哺乳類で完全草食性なのはマナティだけなんだって」

「すごいね。明穂はマナティ好きなの?」


 俺を見てにこっとすると「なんか風貌がね、愛らしいって言うか可愛いなって」と言ってる。

 熱帯花木のエリアを抜けると、マナティの水槽に辿り着く。


「おおー! モノホンだ」

「結構でかいんだな」

「マナティってゾウに近いんだって」

「そうなんだ。鼻は短いって言うか長く無いよね」


 どうして水中で生活するようになったのか。ちょっと興味を持つけど進化の歴史って、研究が進むとそれまでの常識が当たり前に覆されるし。面白い分野だとは思うんだけどね。

 泳いでいる姿を見るとジュゴンと見間違いそうだ。それに尻尾が団扇みたいだし。

 因みに、ここのマナティは子どもとか女性が好きらしい。オスらしいんだけどそのせいか、とか細かいことは不明らしい。


 この後は食虫植物やブロメリアに熱帯スイレンとか見て回った。


「虫来ないかな」

「タイミングよく食べるとこって見られないもんだね」

「ハエトリグサとか突いて動かすと、枯れやすいんだって」

「そうなんだ」


 明穂ってかなり物知り。勉強熱心な人って知識も豊富なのかな。

 園内を見て回る間、ずっと手は繋がれたまま。でも暑いから汗でしっとりしちゃうんだよね。明穂は気にならないのかな。


「手汗、気にならない?」

「全然。大貴のだしあたしも手汗かくし」


 本園を見終わると腹も減って来て昼食にしようとなった。


「少し戻るけどソバ屋と定食屋が近くにあるみたいだ」

「定食ってなにがあるのかな」

「行ってみようか」


 歩いて少しだけ熱川駅方向へ戻ると、二軒斜向かいにそれぞれ並んでた。

 メニューを見て定食屋に入ることに。


「刺身の盛り合わせ定食がいいかな」

「それでいいと思う」


 店内は混雑してて待ち時間もあったけど、昼食を済ませて分園に行くことに。

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