Epi20 待望の夏休みに突入
日中の気温は連日高くて強烈な日差しの下、ただ歩いているだけなのに汗が噴き出すこの季節。それはずばり夏だ。昔はこんなに暑くなかったらしいけど、温暖化の影響だとかで猛暑日続出する事態なんだとか。
「プライベートビーチとかいいよね」
夏休みの初日。隣を歩くのは明穂だ。
で、なんだかいきなりプライベートビーチ? そんなの高校生程度で利用できるとは思えない。明穂がどこぞの大企業のお嬢さまとか、そんな立場なら気軽に行って、二人きりでビーチで戯れるとかありそうだけど。
「いいとは思うけど、高校生が遊べる場所じゃ無いよね」
「二人っきりなら全裸でビーチを走り回れるじゃん」
楽しみ方がそっちなの?
「水着の跡とか気にしなくて済むんだよ。全身焼けるから。そうなったら、大貴のもこんがりローストで美味しそうだよね」
明穂さん。なにをアホなことを言ってるんでしょう。「普段ウィンナーなのにフランクフルトになるんだよ。寒い時ってあれかなあ、ポークビッツとか?」なんて、股間を昭和時代の比喩で言わなくてもと思う。
「あ、あたしのは焼き
どこのおっさんが例える言葉だって感じだけど。
「大貴は白い肉まんとこんがり焼けた肉まん、どっちがいいのかな?」
声に出しての返答不能。でも、やっぱ白い方がいいな。
「大貴は白い方が良さそうだね」
なんでかバレる。
「お父さんに頼んでどこか借りられないか聞いてみるね」
そんな伝手があるんですな。なんか明穂のお義父さんって、その人物像がよくわからない。優しそうだけど娘をほいほい俺みたいな、しょうもない奴にくれちゃうし。
そして俺の家に着くとエアコンのスイッチを入れる明穂だった。勝手知ったるって奴だね。
今日は着替えを持参してるのだとかで、いきなりブラウスを脱いでさらにブラも……。ブラウスだけ羽織って。前を閉じなさい。はしたないから。
「見えるんだけど」
「見せてるんだよ」
予想できる返答でした。
今、我が家には俺を除けば女性しか居ない訳で。恥ずかしがる要素が無いらしい。
その格好で抱き付かれるとヤバいんだってば。まだ室内は涼しいって言う程じゃない。だから明穂がへばり付くと暑い。
「シャワー先に浴びれば良かった」
ちょっと汗の臭いが気になるのかな。臭いとは思わないけど。でも、普通はいくら夏でも他人の家でシャワー浴びないよね。明穂はその辺全然気にしないけど。
「応募用の小説だけど推敲しておこうか」
その格好で推敲とか言われても。気になって集中できないんだよね。明穂はお構いなしで椅子に座る俺の横に立ってるし。あ、そうだ。今度明穂のために椅子を一個用意しておこう。いつも立たせてたら悪いし。
でだよ、なんで俺の手を胸元に持って行くかなー。
「あの、片手が塞がると効率が」
「気にしなくていいのに」
「じゃなくて、キーボードの入力が」
「あたしのキートップじゃ不満だって言うの?」
あのね、変な例えは要らないんです。って言うかそれを触らされてると、マジで集中できません!
「画期的な指先が痛くならない、優しいタッチのキートップなのに。どんなデバイスより優秀だと思うんだよね」
「だから……」
なにを言っても無駄なようです。そもそもそのキートップは、エロい気分にはなれても文字入力不可能だし。感触は確かに抗い難くてずっと、って気になるけど。押し込むとふわっと沈み込むのは、どんな高級キーボードでも達成不能な感触だし。
じゃない!
片手は明穂に、片手はかったいキーボード。入力に時間は掛かるけど、まずは推敲しないといつまでも仕上がらない。
一応コンクール用の小説は完成したけど、誤字脱字以外にもあちこち手直しして、完成度を高めることになってる。明穂の意見でだけど。ちょっとしたセリフひとつでも、よく吟味した方がいいとかで。
時々明穂から卑猥な声が聞こえてくるけど、無視して、なんてできる訳もなかった。
「あの、明穂さん」
「駄目」
「いや、あの」
「離すの厳禁」
俺の意見は通りません。「大貴の指先の感触がいいんだよ」と言って、そこから離すことを禁じられました。右手で入力してるけど、時々左手を使いたくなって、動かしちゃうと沈む。柔すぎてふんわり沈む。だから気になる。声も漏れる。
一時間もやっていると「休憩しよ」となって、一旦飲み物を調達しにキッチンへ。
「明穂。あの、せめて前は閉じようよ」
「女性しか居ないのに?」
「俺居るじゃん」
「大貴はノーカンだから」
一緒にキッチンまで付いて来るし、冷蔵庫も勝手に開けるし、飲み物と言っても麦茶くらいしかないけど。取り出してコップに注いでぐびぐび飲んでるし。
なんか自由過ぎて。
母さんがリビングから見てるけど、少し呆れ気味な感じもしないでもない。
立ち上がってこっちに来て。
「その格好で大貴と一緒に居るの?」
「あたしの体は大貴専用なんです。好きにしていいし好きにさせたいし、あたしもそれが嬉しいしなによりスキンシップは、互いのためにいいんです」
明穂の胸を見て溜息吐いた。
母さんも若い頃はともかく、年取って子ども産むときっと、しょぼくれてるんだろうな。少しも見たいとは思わないけど。
「できれば高校生らしい付き合いが望ましいんだけど」
「付き合い方は人それぞれです。あたしと大貴はこれがデフォルトなんです」
言うだけ無駄と悟ったようだ。明穂の揺れる胸元を見やると、背中を丸めてリビングに戻った。
「その格好、やっぱ気になると思うんだけど」
「大貴はそんなに見たくも触りたくも無いの?」
「じゃなくて。二人きりならいいけど」
「大貴のお父さんが居る時は、こんな格好しないよ。男性で見せていいのは大貴だけだから」
それは嬉しいんですが、同性であっても気になる、とは思わないんだろうね。明穂の視界には俺しか入らないようだし。母さんなんて空気みたいなものなんだろうな。
コップに氷を入れて麦茶を入れると、各々手にして部屋に戻った。
「少ししたら続きをしようね」
その続きとやらは、柔いキートップのタッチじゃなくて、ちゃんと推敲する方だよね? と聴きたいけど、確実に「両方だよ」、と言われることが予想されるから、あえて口にはしない。
ベッドに腰掛けてると、やっぱり明穂は俺の隣でしな垂れ掛かってる。
当然だけどその状態の時は、度々口が塞がれるんだよね。明穂の柔らかい唇は何度も俺に覆い被さって、すごく愛情を感じるんだけど、その唇、時々違う所へ向かおうとするから、困るんだけど。
「明穂。そっちは拙いって」
「なんで? あたしの口が求めてるんだよ」
なにを? とは言ってはいけません。大人の事情って奴です。
そしてその状態になると最低一時間は解放されない。だから、今そこに至ると推敲どころじゃ無いんだって、ばー!
「あ、明穂!」
「んー?」
アウト。
これで一時間は蹂躙されることが決定しました。
今俺は食われてます。性獣によって。
満足したのか、こっちもだけど、すっきりしたところで、やっと推敲の続きを始めるんだけど、考えていたことの半分は吹っ飛んだ。こんな調子で閉め切りまでに間に合うのか、少し心配になるけど、九月十一日まであるから明穂は間に合うと、勝手に太鼓判を押してた。
そうやって余裕噛ますと大概間に合わなくなるんだけど、明穂のことだから考えてはいるはず、と思いたい。
夕方までせっせと推敲し続けると、一度全体を読み直して、更に推敲を重ねるんだそうで。
「ずいぶん念入りにやるんだね」
「完成度っていくらでも高められるから。大貴には最優秀賞を取って欲しいから、あたしはそのための協力は一切惜しまない。だから大貴もちゃんと応えて欲しいな」
ただし、プロのような文章は逆にフレッシュさがないから、あえて子どもらしい表現も残すんだとか。特にセリフではその辺をしっかり強調したいらしい。
「それで、今日も泊まる、んだよね?」
「大貴。あたしに帰って欲しいの?」
「そんなことはないけど」
爛れた関係だよね、これって。
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