第14話
「でもね、先輩。あれは幻覚なんかじゃありません。あれは、船が夢をみていたんじゃないかと思うんです。あれはきっと、あの船の全盛時の姿だったんでしょう。僕はあの船にひどく同情していました。だから、あの船が自分の夢の中に、僕を入れてくれたんだと思うんです。」
「ねえ、先輩。僕は今でも彼女のことが、忘れられないんです。彼女がたとえ夢の中の人だろうと、僕は彼女を愛しています。彼女が夢の中の人間なら、僕もその中へ入ってしまえばいいんです。」
Kの思わぬ言葉にあわてた僕が口を開こうとすると、
「先輩、何も言わないで下さい。もう決めたんです。僕はできるだけ早く、彼女に会いに行くつもりです。お世話になりました。」
彼はそう言って、ひきとめる間もなく出ていってしまいました。
数カ月後、新聞の片隅に小さな記事がのりました。日本人ダイバー行方不明と。 ぼくは、Kが船の夢の住人となったのだと、彼女とまためぐりあえたのだと思います。そして、きっとその方が、彼にとって幸福なのだと信じているのです。
船の夢 OZさん @odisan
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