第13話

 と、そのときです。まわりの光景が急にぼやけて、いきなり真っ暗になってしまいました。そして水中ライトで僕の顔をのぞきこんでいる、Tの顔が目に飛び込んできたのです。驚きのあまり、すっかり力が抜けてしまった僕は、Tにされるままに沈没船から抜け出て、海上へと上がっていきました。

 ボートの中でTから聞いた話では、僕はいきなりライトもつけずに、真っ暗な通路へ飛び出していって、あっというまに見えなくなってしまったのだそうです。我に帰ったTがさんざん探し回ったあげくに見つけたときは、まさに僕がマスクをはずそうとしているところだったのです。

 僕は一部始終を説明しましたが、深く潜りすぎたので幻覚を見たんだろうと、誰も信じてはくれませんでした。僕は、そのまま入院させられて、島にいる間、二度と潜らせてはもらえませんでした。そして、やっと日本に帰りついたというわけです。Kは疲れたように、力なく笑いました。

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