第12話

 どれくらい踊ったことでしょう。気が付くと、僕達はいつのまにかホールを抜け出して、デッキのかたすみにいました。まだ、少し息をはずませながらおしゃべりに夢中になっています。

 こんなに心から楽しい思いをしたのは初めてでした。そして、これほど心からわかりあえるひとに出会ったのも初めてでした。ついさっき出会ったばかりだというのに、まるでずっと前から知っていたみたいです。僕はそのとき、今までどれほど孤独だったのかを思い知らされました。そして、探し続けてきたひとに、とうとうめぐりあえたのだということに気が付いたのです。

 ふと、おしゃべりがとぎれたとき、彼女が言いました。

「キスしてくださらないんですか?」

僕がそうしようとすると、彼女は微笑みながら言いました。

「ダメよ。そんなおかしなものをかぶってちゃ、キスなんかできないわ。さあ、こんなじゃまなものはとってしまって。」

 そう、そのとおり。こんなじゃまものはいらない。そう思って、はずそうとしたときです。いきなり誰かに、後ろから手をつかまれました。

「こんなときにじゃまするなんて、どこのどいつだ。」

僕は夢中になって抵抗しましたが、とうとう取り押さえられて、激しく肩を揺さぶられました。

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