第11話
そこは大きなホールでした。しかも、こうこうと光るシャンデリアの下で、舞踏会が開かれていたのです。美しく着飾った人々が、ダンスを楽しんでいます。しかもその人達の声や音楽まで、聞こえてくるではありませんか。それは幻というにはあまりに美しく、しかも現実的な光景でした。僕はすっかりそれに魅せられて、その場に立ちつくしてしまいました。
すると、誰かが僕の肩にやさしく触れました。あわてて振り返ると、そこには
豊かな黒髪を肩まで垂らした、薄緑色のドレスを着た女性が立っていました。少し目尻の下がった大きな目がとても印象的で、生真面目なちょっと硬い表情をしていました。その表情が
「踊っていただけますか?」
と言って、はにかんだようにニコッと微笑んだとたん、まぶしいほどに輝きました。僕の胸は、いきなりドキドキしてきました。僕は思わず、
「喜んで。」
と言ってしまいました。
ところが、僕は踊ったことなど一度もありませんし、後になってよく考えれば、スキューバの装備一式を背負って踊れるはずもないのですが、おそるおそる不器用に踏み出したはずのステップが、どういうわけか彼女のステップにぴったりとついていくのです。まるで彼女の考えが手に取るように伝わって、何も言わなくても彼女がリードしてくれているみたいでした。そして、夢中になって踊っているうちに、いつかリードの必要さえなくなり、驚くほど息のあったステップになっていきました。
「こんなはずはない。僕は夢を見ているんだ。」
そんな思いも、腕に抱いた彼女の暖かさと音楽に、少しずつ溶けていってしまいました。
笑いあい、ささやきを交わしながら、僕達は踊り続けました。初めはぎごちなくまわしていた腕から力が抜けていき、彼女が僕に体を預けてきたとき、僕の頭から全てが消え去りました。
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