第10話

 するとどうでしょう、真っ暗だった部屋がいきなり明るくなったではありませんか。そして、吐き出す泡の音のほかは何も聞こえなかった部屋の中に、いろいろな音が聞こえてきました。部屋いっぱいに響いているのは、間違いなくエンジンの音です。僕はあわててTの方を振り返りました。ところがTの姿はどこにも見えません。すっかり明るくなって、まるで普通の船のようになった機関室には、僕のほかは誰もいないのです。大声で助けを呼ぼうにも、水の中ではどうしようもありません。僕は夢中で機関室を飛び出しました。

 一刻も早く外へ出たい一心で、僕は闇雲に通路を上へ上へと泳いでいきました。不思議なことに、階段も通路も明りがついていて、どこからか人のいる気配さえ伝わってきます。

「そんなはずはない。これは沈没船なんだ!」

僕は必死で、そう自分に言い聞かせましたが、閉じている船室のドアを開けてみる気にはなれませんでした。

 そして、やっとの思いでブリッジにたどり着いたとき、僕はあまりのことにその場に立ちすくんでしまいました。

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